138.嫁
黒沢川を撃破した後……。
「ぐしゅ……松代君……そんな辛い目にあってたんだね……ぐしゅん……」
船上にて。
神坂さんが、これまで何があったのかを聞いてきた。
まあ、別に不幸自慢する趣味はねえんだが。しかし、それでも……近況報告はしておきたかった。
だいぶ心配をかけちまったようだしな。
ってことで、俺は追放されて奈落に落とされたから、今日までの出来事をすべて語った。
「一人孤独で……さみしかったよね!」
「え? 孤独……?」
そういや、概要しか語ってなかったから、エリスとかの話を抜いていたな。
「もう大丈夫だよ!」
「え、ちょ!?」
神坂さんが俺ことを正面からハグする。
つるっとした胸……だとおもったら、意外と胸あった……じゃなくて!
「わたしが慰めてあげる! いーっぱいよしよししてあげる! 一人でずっと孤独に耐えてきてたんだもん!」
「いや、あの……神坂さん? 実は……」
と、そのときである。
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
頭上から、女の声がした。
誰なのか聞かなくてもわかる。
「ダーリン浮気だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
黄金の髪の美しいエルフが、俺の前にすたりと着地する。
「ダーリン……! 私というものがありながら! 他人と浮気するとか! どういうつもりなんですかっ!」
……あほエルフがなんだか誤解してるようだ。
やれやれ。
「松代君……」
一方で、俺を抱きしめる神坂さんが、声を震わせる。
「この人……だれ?」
どことなく、怒ってるように感じる。
え、なんで……?
「嫁です!」
「嫁ぇ!」
「はい! ダーリンを帰してください!」
すると神坂さんが俺を見て言う。
「一人孤独で、辛い思いをしてきたんじゃなかったの!?」
「いやそれ、神坂さんが勝手にそう言ってただけだから」
「だって奈落から出てきて今日まで旅してって……」
「別に仲間が居なかったとは言ってないだろ」
「そ、そうだけどさあ~……」
するとエリスがふふん、と胸を張る。
「仲間じゃないです。ダーリンには嫁がいるんですよ」
「嫁……」
「しかも、3人!」
「すりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
神坂さんが絶叫するのだった。




