105.私怨
マリンを仲間に加えた。
その日の夜。賢者の小屋にて。
「やばいです〜」
寝室でゴロンとしてると、風呂上がりのマリンがやってきた。
今交代で、シロとエリスが風呂に入ってる。
「この小屋、屋敷? すごいですぅ。異空間にしまっておけて、しかも中にはお風呂トイレ完備! こんなすごいアイテム持ってるなんてぇ」
「俺のじゃねえ。もらいもんだ」
「もらいもん? 誰にもらったんですぅ? こんなやばいアイテム」
まあ別に言ってもいいか。仲間になったわけだし。
「大賢者ジョン・スミスだよ」
「ほぇえ!? だ、大賢者ぁ! って、あのちょーゆーめーな!?」
雑魚でも知ってるみたいだな。
「ジョン・スミスって死んだんじゃないですぅ?」
「死んだよ。でも、ひょんなことから知り合って、こうして小屋と宝をもらったんだよ」
「宝……」
「ああ」
するとマリンが、こてんと首を傾げる。
「そういや、旦那様ってなんで旅してるんですぅ?」
言われてみれば、この女に俺の旅の目的を言っていなかったな。
俺の正体についても。
「実は俺、召喚された異世界人なんだよ」
俺はかいつまんで、女神に召喚されてからのことを話す。
ふんふん、とマリンは真面目に話を聞いていた。
「はえー、まれびとさんでしたか」
「まれびと?」
「異世界人のことですぅ。マリンちゃんたち、海の民は、異世界から来た人たちと交流が昔々あったんですぅ」
なるほどな。だから、俺の正体を聞いても驚いていないわけか。
「でも、不思議ですぅ」
「なんだよ」
「どうして旅なんてしてるんですぅ?」
「いや、だから復讐をだな」
するとマリンが不思議そうな顔でいう。
「復讐、必要ですぅ?」
「…………」
煽ってるとか、バカにしてる、感じじゃないな。
「どういうことだよ」
「だって旦那様、生きてるじゃないですかぁ。別に女神を殺す必要なくないですかぁ? 復讐って大事な人を殺された人がするのではぁ?」
……言われてみるとそうだが。
「酷い目に遭わされた過去は変えられないだろうが」
「まあそうですけどぉ。でもぉ、女神さんに捨てられてなかったらぁ、旦那様は綺麗な奥さんかける3と、その異次元の強さに、大賢者とのコネクション。っていう、ものすごいものの数々が、手に入らなかったんですよぉ?」
……まあ。
女神に廃棄されてなかったら、俺の状況はまるで違ったことだろう。
「確かに痛い目にも酷い目にもあわされたようですけどぉ、復讐なんてよくないですかぁ? 疲れるだけですよぅ。それにぃ」
「それに?」
「復讐の途中で、あなたが女神から返り討ちをくらってぇ、それで死んじゃったらどうするんですぅ?」
「…………っ」
「確かに女神さんは許せないかもですけどぉ。でも今はあなた、満ち足りてる生活してるんでしょぉ? わざわざ復讐しなくてよくないですかぁ? その過程で死んじゃったらぁ、それこそあほですよぉ。藪蛇で大事な人悲しませちゃうかもですよぉ?」
……マリンの言ってることは、だいぶ的をいてるきがした。
確かに、だ。俺は今、シロやエリスたちと旅してるのが、心地よいと最近感じるようになった。
この日常を失ってまで、復讐をするべきなのか。
マリンが言いたいのはそういうことのようだ。
「イエスマンとお子ちゃましかいないよーなので、第三者視点に立ってマリンちゃんがツッコミを入れてみたですぅ。賢い?」
「うぜえ」
マリンはアホだがバカではないようだ。
彼女は俺の立場に立って、発言してくれた。
「お前の言いたいことは理解したよ」
「ふんふん」
「だからと言って、復讐の旅はやめない」
「ほえー、なんでー」
俺は目を閉じる。勇者軍の連中が、この世界の人たちに、多大なる迷惑をかけていた。
勇者軍、そして女神なんてものがあるせいで、この世界に混乱が起きてしまっている。
「あのむかつく勇者軍と女神を、ぶっ潰したいからだよ」
「ふーん……。それってぇ、私怨っていうよりぃ、この世界の人たちのためにぃ、勇者軍と女神を潰すってぇことですぅ?」
……俺は目を逸らす。
「ちげえよ。俺がスッキリするためにやるんだよ。私怨も私怨。別にこの世界の連中なんてどうでもいいんだよ」
するとマリンが目を丸くして、ふふ、と笑う。
「エリスちゃんのいうとおりですねぇ。旦那様は、優しい人ですぅ」
うぜええ女だ、ったく。




