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100.落着
俺は右手を伸ばし、マリンの母ちゃんの頭を掴む。
「こ、殺さないで!」
「殺さねえよ」
俺の左腕は黒獣の腕。触れたものなんでも食べるのだ。
この女には、槍のせいで人を傷つけてた記憶がある。
このまま正気に戻ったらきっと辛い気持ちになってしまうだろう。
俺はこの女が操られてたときの記憶だけを、食べる。
どくん、と俺の中に記憶が流れてきた。
うん。
「これでは悲しくなることはないよ」
「ほんとですぅ?」
「ああ」
ほぅ、と安堵の息をつくマリン。
俺もまあ、良かったって思ったね。




