彼とサヨナラ
人が死んだ。
目の前で、たった今。
最後は息を引き取って死んでいった。
酸素マスクを付け延命治療していたが、最後は苦しむことなくすーっとゆっくり呼吸をしなくなり病室にピー、という無機質な機械音だけが響き渡った。
つい先日まで笑って話していた彼が今目の前で死体に変わった。
私の、目の前で。
彼はただの人の形をした肉の塊になってしまったんだ。
大好きだった彼の声……怒る時の強い声、泣いてる時の悲しそうな声、寂しい時の小さい声、セックスしてる時の囁きかけてくれる甘い声。
もう二度と私は聞くことが出来ない。
彼の手……ギュって強く握っても握り返してくれない。
いつも私が握れば倍の強さで返してくれたはずなのに。
今はまだ温度があるけど徐々に熱が無くなっていく感じがした。
人間は死んだ時聴覚が最後まで残っているとなにかの本で読んだことがある。
だから、せめて……大好きだった彼に一言言わないと。
まともな文章なんか考えられない、今頭の中にある精一杯の思いを彼に伝えなきゃ。
「なんで私より先にいなくなっちゃうのさ……。
いつも私を置いていかないってずっと一緒だって約束してたじゃん。
大好きだよ。
愛してるよ。
この先もずっと私がそっちに行くまで。
そっちで一人寂しい思いをさせちゃうけど待ってて、私もそっちに必ず行くから。そしたらまた隣で一緒に笑って過ごそうね」
私が言い終えてから数秒して医師が「ご臨終です」と言った。
私の愛した彼は亡くなり少しばかり長いお別れとなった。
通夜、葬式、納骨まで終え彼の存在が徐々に私の近くから無くなってしまった。
それでも彼が私に言ってくれた「大好きだよ」という言葉はいつも胸の中にある。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、変な表現があったらご指摘ください。
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