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雨雲と飴玉

作者: さち

私は雨が好きだ。

晴れももちろん好きだけど、何だか嫌な事やスッキリしない気持ちを洗い流してくれる気がするから。


雨の後の冷んやりした空気を感じると色んな事がリセットされた気がしていた。



……

今朝見た天気予報で、午後から雨が降るとお天気お姉さんが言っていたので傘を持たずに家を出た。今日から数日は中間テストでお昼過ぎには帰れる予定だったし。



テスト初日、苦手な英語のテストを終えて一安心したが、明日に備えてまた図書館で勉強しようと足早に教室を出た。


靴を履き替えて校門へ向かって歩きながら恨めしそうに空を見上げる。今にも降り出しそうな真っ黒な雲が垂れ込めていた。


「今日、傘持ってこなかったんだ。…良かった。」

小さくボソッと呟いた。


その時。


タッタッタッ…

誰かが後ろから走ってくる音がして振り返った。


同じクラスの山下君だった。


「おーいっ!藤井さーん!」


私の名前を呼び、手を振りながらこちらへ向かってくる。何か用事だろうか?


「……?」

不思議に思って立ち止まる。

目の前まで走ってきた山下君は、ハァッハァッと肩で息をしながら慌てて呼吸を整えている。


「…大丈夫?」

あまりの慌てように心配して声をかけた。


「ハァッ…だ、大丈夫っ!」

フゥッと大きく息を吐いて山下君が顔を上げた。


私と同じくらいの背丈で顔を上げた時にちょうど目が合う。サラサラのストレートヘアが揺れて男の子なのに綺麗だな…と思った。



「ど、どうかしたの?慌ててたみたいだけど。」


「う、うん。急にごめんね!いや、あの…一緒に帰れないかな〜と思って追いかけてみたんだよね。」


「えっ…一緒に?」


…嬉しかった。

山下君とは去年同じクラスになって、校外学習でたまたま同じ班になった。その時の彼は、人の嫌がるような面倒な事を率先してやるタイプの人だった。


単純に凄いな…と思ったし、尊敬していた。

今年も同じクラスになれて嬉しかったけれど、席が離れていたし特別仲が良かった訳でもなくてあまり話せずにいた。


気になるクラスメイト…といった感じだろうか?


というか、男の子から帰りに誘われるなんて初めての経験で胸がギュッと痛くなる。

…何だかドキドキしていた。


答えを待ちきれなかったのか、山下君が焦って言う。

「あ〜。あの、嫌だったら良いんだけどさ。この後って何か用事あった?」


私の悪い癖だ。

何かを決める時に考え込んでしまう。


顔の前で手を横に振りながら慌てて答えた。

「い、嫌じゃないよっ!き、急だったからビックリしちゃって。あの…私で良かったら、一緒に帰る…?」


「い、いいのっ!?やったぁ!…あ、急にごめんね。ありがとう。」


さっきまであんなに自信なさげに俯いていたのに、パァッとわかりやすく明るい表情に変わった彼を見て何だか可愛いな…と思った。


その後、二人並んで歩き出して色んな話をした。

私は彼のコロコロ変わる表情を見ていて、こちらまで嬉しくなっていた。


楽しいな…またこうして帰れたらいいな。と思っていたら突然、彼が立ち止まった。すると釣られて立ち止まった私の目の前に手を出した。


「はい。これ、あげる。」

私よりも少し大きな手のひらの上にはまぁるい飴玉が乗っていた。


いちご味の飴かな?

ピンク色の飴玉が彼の手のひらで転がった。


「あ、ありがとう。」

微かに触れた手のひらの暖かさに私の指先が熱くなった気がした。


なんか変…。手に少し触っただけなのにこんなに意識してしまうなんて。

その場で食べるのは勿体ないなと思ったけど、嬉しそうな彼の顔を見たら食べない訳にはいかなかった。


「…いただきます。」

小さく言ってコロンッと口の中に放り込む。


甘くてほんのり酸っぱい苺の味と香りが広がった。

「美味しい。」


私の様子をじっと見ていた彼はまた明るい嬉しそうな笑顔を見せた。

「良かった。…可愛いね、藤井さん。」

「えっ!?」


驚いた私の顔が苺のように赤くなったのは言うまでもないが、咄嗟に出た言葉に驚いた彼も同じく赤くなってしまって二人で笑い合った。


あんなにどんよりしていて憂鬱だった曇り空が、快晴の空の下を歩いているように軽やかになるなんて…。


「ありがとう。」

小さく呟いた。


「ん?何か言った?」

「ううん。何でもない。」

「じゃ、行こっか!」

「うんっ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人とも可愛い! すれてない若い二人の小さく芽生えたものが、ちゃんと育っていくことを願います。
[一言] すいません、オッサンには飴玉の如く甘酸っぱ過ぎます。 ……まあ、若かった頃にも無縁だったのでオッサン関係無いかもしれないのですが……。
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