第3話 オペレーションB(ブラヴォー)。 ~悪役令嬢の暴走。
こうなったら、最後の手段。
逃げられないのなら、ここで敵(この場合は主役)を迎え撃つしかない。
主役と敵対したって、私が有利になるように動いたところで、最終的になんだかわかんないゲーム強制力が働いて敗北するんだから、ここはひとつ、主役と仲良くなる作戦に出たほうがいいわね。
友情エンド。わたくしたちお友だちですわ作戦。
よくある“悪役令嬢モノ”のお決まりパターンだけど、それが一番安全な気がする。
主役が殿下と恋愛したいのなら、邪魔はしない。
もし、私以外の誰かが邪魔をしようとするなら、全力でそれを阻止する。
そう、私が“当て馬”のように、恋のキューピッドになってあげるのよ。
殿下と恋愛したい?
どーぞどーぞ。
婚約者の地位はアナタにお譲りいたしますわ。ついでに障害となるようなものはすべて叩きのめしておきました。
殿下以外のキャラとも恋愛したい?
どーぞどーぞ。
アナタが最高の逆ハーレムを構築できるようお手伝いいたしますわ。(私の)推し2位だろうが3位だろうが、望む相手とラブラブさせてあげますわ。
聖女として、ノーマルエンドを目指したい?
どーぞどーぞ。
それならそれで、なんの邪魔もいたしません。そっと草葉の……違った、電柱の陰から見守っておりますわ。野球狂親子のお姉ちゃんのように。
男との恋愛なんて興味がない? 今の旬は百合ですわ?
どーぞどーぞ。
私が対象でなければ、なんでもどうぞ。って……その場合、“友情エンド”とか言ってた私にもフラグ立てられちゃったりする? クイッと顎持ち上げられて見つめられ……。う゛っ。そ……れは、ご遠慮……したい……かも……です。(あさってへ視線を泳がす)
とにもかくにも。
主役が現れてゲームの物語がスタートする前に、イロイロ対策を練っておいたほうがよさそうね。
主役が殿下を狙っていた場合。いなかった場合。
主役が転生者であった場合。そうでない場合。
主役と仲良くなれた場合。なれなかった場合。
ゲーム通りに進んだ場合。進まなかった場合。
ありとあらゆるパターンを考え、そのすべてに対策を講じる。未来の事象は、そのうちの一つが採用され、現実化しただけのこと。驚くことでもないわ。それが一流の軍師というものなのよ。フフフ……。
などと、どこかの小説のヘボ画家軍師のようなことを考え、どこかの軍師のように羽扇はないから、手にした布張り扇でドヤ顔口元を隠す。
でも。
今のところ、主役は現れていないから、具体的に実行できる作戦は限られてる。
主役がいつ現れてもいいように、婚約者である殿下と距離を保っておく。婚約破棄はできなくても、仮面夫婦(結婚してないけど)、家庭内別居(だからしてない)、うわべだけの見せかけだけの冷え切った関係になっておかないと。
親や周囲が政治上必要だからと結んだだけの婚約。
殿下をお慕いなどしておりませんわ。
殿下だって、私みたいな一昔前の“名古屋嬢”風大きめたて巻きふんわりカールゴージャス女よりも、主役みたいな清楚で可憐な柔らかストレート髪女の方がお好みでしょうし。(実際、ゲームだとそっちと恋愛始めるもんね)
ゲームに登場する主役みたいな女性が殿下の好みなのだから、私はその真逆の性格、行動をとれば、殿下との仲は自然と冷え切っていくはず。
主役は、見いだされし聖女。
地方の村で暮らしていた少女が、突然癒しの力に目覚めたって設定。
誰にでも優しく、ちょっと気が強いところがあるけど、底抜けのお人よし。責任感が強くて、どんな時でもしっかり仕事はこなすから、騎士団からも人気が高かった。(騎士団長とも恋愛する要素に) 素朴で家庭的。趣味はお菓子作り。(過去にトラウマのある貴族子弟と恋愛する展開に) どこまでもアクティブで前向き(殿下のお従兄弟君との恋愛へ)、時には静かに読書を好み(司書長との恋愛へ)、人懐っこく子ども好き(第二王子との恋愛へ)。
純粋で騙されやすいところもあり(暗黒帝国の皇子との恋愛へ)、ライバルとなるアデリシア嬢(って私のこと)から、「頭に花を咲かせたおめでたい人」ってバカにされるのよね。
……って、どういう人物なの? 主役って。
お菓子作りとか子ども好きっていうのは、女子力が高いって評価でいいと思うけど。
静かに読書を好む人が、アクティブに、殿下のお従兄弟とご一緒に乗馬、それも遠乗りをするんだよ。確かあの二人の場合、木登りしてたヒロインがお従兄弟君の上に落ちてきてっていう、ベタ少女マンガ展開から始まっていたような……。
殿下の場合は、その生真面目さと、無邪気さ、それと殿下の周囲にはいなかったような溌溂としたヒロインの姿に惚れこんでいたはず。
――王位継承者としての僕ではなく、ただのジークハルトとして見てくれたのはキミが初めてだ。
――立場もわきまえず、ズケズケと言いたい放題だな。だけど、そこが気に入っている。
――どうしてだろう。キミといると僕はとても安らいだ気分になる。これも、聖女の癒しの力のおかげかな。
――キミが聖女としてこの国を守るというのなら、僕はキミを守る盾となろう。
――身分が違うというのなら、僕はこの王太子という地位を棄てよう。ともに畑を耕し野に暮らす生活も、キミとなら悪くない。
――人の幸不幸は、誰かが勝手に決めるものじゃない。僕にとっての不幸は、愛するキミとともに暮らせないことだよ。
うわあああ。
思い出してたら、とんでもなく恥ずかしくなってきた。あの声!! スチルだけじゃなく、あの声まで脳内再現されてしまうから、かなりヤバい。今でも腰くだけになる。
あー、エヘン、オホン。
とにかく。とにかくだ。
これと真逆の性格、振る舞いをしたらいいのよね。
つーまーりーはー。
――殿下は、殿下としてお役目を果たされるから素晴らしいのですわ。
――恋や愛などとおっしゃるヒマがおありなのなら、サッサと責務を果たしてくださいませ。
――王位継承者でない殿下など、お相手する価値もありませんわ。
うわあああ。
どこのドキュン女のセリフだよ。ブラック企業か。
三高(高学歴、高収入、高身長)でなければ興味ナシ。行き遅れ婚活中のアラフォー世代女みたい。
私ん家、公爵家だし、地位あるし、お金もあるから、そこまでの三高は望まなくてもいいんだけど。
とにかく。とにかくだ。
嫌われるためには、そういうの目的で近づいてますっていうオーラを出しておいた方がいいだろう。
それか、普通に男性が敬遠しそうな女性を演じるか。
例えば。
男性がエスコートをためらうような、時代遅れのドレスを着るとか?
大口開けて、ガハハッと笑うオッサンギャルを演じるか?
ヤバいぐらいオタクになって、城下のアイドルを追っかけ始めるか?
酒飲んで暴れて、酒乱のフリをするか?
魔物を手なずけて、「ペットですの」とか言って、ドン引きさせるか?
この辺りをやりつくしたら、きっと殿下も婚約破棄を受け入れるかもしれない。
……かわりに、私の評判はガタ落ちするだろうけど。
殿下を慕わず、殿下と疎遠になるように、どちらかというと嫌われ愛想をつかされるぐらいにしておいたほうがいい。
推しから嫌われるってかなりツラいけど、これも生き延びるため。
大丈夫よ。
この世界、なにげに顔面偏差値高いし。
殿下と結ばれなかったとしても、ゲームストーリーが終わった後で、誰か好きな人を探せばいいんだし。
殿下だけが男じゃないのよ。
ということで、オペレーションB「いや、ちょっとコイツとの結婚、ありえないわ」作戦、開始いたします。
※ B=Broken Heart(失恋)
第三話です。
短いお話ですので、あと三話で終わりです。
これからも、よろしくお願いいたしますm(__)m