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辞退させていただきますっ!!  作者: 若松だんご
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第1話 テッパン的プロローグ。

 世の中には、“悪役令嬢”なるポジションがある。


 物語、特に恋愛を取り扱ったお話において、必ずと言ってもいいほど登場するライバル女性のこと。

 主な仕事、役割は、物語の主役(この場合女性)をイジメて、イジメてイジメ抜いて、ヒーロー役との恋路を邪魔することである。 

 これが男性ならば、“当て馬”などと呼ばれ、主役に横恋慕してヒーローと主役を取り合ってケンカに発展したりするのだが、基本、主役と悪役令嬢はケンカなどしない。一方的にイジメるだけである。

 “当て馬”との最大の違いは、“当て馬”は、最後まで主役のために身を尽くしてくれたり、ヒーローと共闘したり、二人の恋路を応援して(犠牲になって)くれたりするが、“悪役令嬢”は、トコトン主役と敵対する。

 どうかすると、その執念に近い恋情に、ヒーローからも怖れられ敬遠される羽目になる。主役からの恋情は純愛と呼ばれるのに、“悪役令嬢”からのは邪恋とみなされる。

 主役のトゥシューズに画びょうを入れたり、主役を階段から突き落としたり。悪い仲間を募って主役を攫わせたり。“当て馬”では想像もつかないようなアクドイことをくり返す。そうして主役をピンチに陥れ、ヒーローが助けに現れるという、物語的にドキドキするイベントを起こしてあげるのが“悪役令嬢”のお仕事。

 逆に言えば、そういうことやらなければ、主役とヒーローがくっつくことなかったかもしれないのに。ある意味、“当て馬”よりもいい仕事をしていると言えなくもない。

 だが、その末路は“当て馬”よりもキビシイ。

 “当て馬”は、その一途だとか、恋愛における自己犠牲の態度とかで、(主役から惚れられなくても)読者から好意を持たれたりするのだけど、“悪役令嬢”は、読者からも嫌われる。架空の物語だと知っていてもその嫌悪はヒドく、演者に(小説の場合作者に)「呪いの手紙」だとか、刃の薄い切れ味のいい髭剃り用のソレが届いたりする。(この場合、やった読者のほうが“悪役令嬢”行動だと思うのだが、そのあたりは割愛)

 物語的にも、その行動から身を破滅させてしまう。よく言われるのは、“断罪エンド”とか“追放エンド”もしくは、“処刑エンド”だろうか。“当て馬”にはありえないような、悲惨な末路が待ち受けている。

 とにもかくにも、“悪役令嬢”ほど理不尽で、“悪役令嬢”ほど割にあわないポジションはない。

 だからこそ、誰もが“主役”になりたいと願い、“悪役令嬢”になんてなりたくないと願っている。

 そう。

 私だって、自分を主役だと思っていたし、幸せになるヒロインだと思っていた。

 公爵令嬢だし。

 王太子殿下の婚約者だし。

 家族にも問題ないし、殿下との仲も普通だし。

 このままいけば、まあ物語として残されることはないかもしれないけど、それでも平凡な人生のヒロインとして幸せな一生を送るのだと思っていた。

 ついさっき。

 ほんのちょっと前に、すべてを思い出さなければ。

 それは、物語あるある展開の一つ。


 ――“前世の記憶”。


 私、思い出してしまったのよ。

 その“前世の記憶”とやらを。

 バッチリ、シッカリ、ハッキリと。

 高熱を出したわけじゃない。殿下に初めてお会いしてビビビッとなにかを感じたわけじゃない。

 何かわかんないけど、イキナリ、唐突に頭のなかにありえないような情報が怒涛のように押し寄せてきたのよ。

 今いる世界は、私が“前世”とやらでプレイしていた“乙女ゲーム”にソックリで。

 私の婚約相手である殿下は、その“乙女ゲーム”のキャラクターにソックリで。(容姿や名前だけじゃなく、声まで一緒)

 じゃあ、私は彼に愛される主役かというとそうじゃなくて。

 私のポジションは、彼と主役の恋路を邪魔する“悪役令嬢”なわけで。

 このままいけば、“破滅エンド”となるわけで。


 イッヤアアァァァァァッッ……!!


 頭を抱え、膝から崩れ落ちる。

 これがもしマンガなら、背後に「ドシャアアアッ!!」とかの擬音と、黒い垂れ線があるんだろうなあ。(これも前世情報。だって、この世界にマンガなど存在してない)

 なんてことを考えながら、マンガ的リアクションからどうにか立ち直る。

 前世を思い出すキッカケは、悪役令嬢さまざまだけど、その後の行動はだいたい一貫している。


 ・ 主役と仲良くなって、断罪回避。

 ・ 婚約者から離れて、断罪回避。

 ・ ゲーム知識を片手に、断罪回避。

 ・ 従者とか別キャラとくっついて、断罪回避。

 ・ (父親の悪業のとばっちりだった場合)父親の行動を修正して、断罪回避。

 ・ (領地などの)内政に干渉して成功し、断罪回避。

 ・ 他国に渡って(そっちで恋愛して)、断罪回避。

 ・ モフモフと逃避行の末、断罪回避。

 ・ どっかで前世の知識をもとに料理屋を開いて、断罪回避。


 とまあ、断罪回避のために動くのが定石なんだけど……。

 あれ?

 私、思い出したのはいいけれど、今、ゲームのどのあたりの時系列にいるの?

 現在、16歳。ゲームに登場した年齢には達している。

 けど、私、ゲームの主役に会ってないわ。

 ゲームの世界、始まってないの?

 もしかして、これから始まる?

 婚約破棄もされていないし、殿下との関係が疎遠になった印象もない。

 ゲームの場合、主役は、とんでもない癒しの力を持った聖女として現れるし、殿下以外の男性からも注目されて惚れられるから、いたら目立たないことはないんだけど……。

 もし、ゲーム展開が始まっていないのなら、三十六計逃げるに如かず。

 断罪回避のため、ここはトットと逃げたほうがよさそうね。

 こっちから婚約破棄を申し出て、ゲーム開始前にとんずらこいたほうがいいわよね。うん。

 だって、よくわかんないけど、ゲームってどれだけこちらが頑張っても、そういう強制力が働いて、悪役令嬢は「あべしっ!」とか、「ひでぶっ!」とか言ってやっつけられちゃうのよ。(言わない。言わない)

 だから、ここは先人に習って、サッサと王都を離れて、領地でモフモフ(いるのかしら!?)と、スローライフを始めたほうがいいわね。

 ソーシャルディスタンス。

 (殿下、主役との)三密は避けましょう。

 ということで。

 私、アデリシア・ヘルミーナ・リリエンタール。

 本日をもって殿下の婚約者であることを辞退し、大人しく領地に戻らせていただきますっ!!



 肩の力を抜いて、らく~に読んでいただけると幸いです。

 これからも、よろしくお願いいたしますm(__)m


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