プロローグ
16年前 4月4日 快晴。
i県 古井戸河市の某病院にて。
その日、井森さんの家に四つ子が授かる。
上から順に男・女・女・男。
「井森さん、よく頑張りましたね!」
「珍しい四つ子の赤ちゃんですよ!」
母親が寝るベッドの側で、2人の女性看護師の片腕に1人ずつ抱かれている。母親の両脇に2人ずつそっと優しく寝かせた。少し憔悴した母親は目尻に涙を含ませながら、精一杯笑ってみせる。がたいの大きい父親が長男を抱き上げると、自分の顔と同じくらいの高さまで優しく持ち上げる。赤ん坊の可愛らしい姿に思わずと男泣きした。
新しい生命の誕生、どこにでもありふれているかのようで、それでいて親にとってはかけがえのない幸せな瞬間。父親の泣き声に共鳴するかのように、「オギャー」と長男が産声を上げた。
その瞬間、父親の泣き声は「ギャー」という悲鳴に変わった。微笑ましい父と子の戯れを見ながら微笑んでいた母親と看護師達は目を見開いた。
なんということだろうか……父親の髪が燃えているではないか。
長男が口から火を吐いたのである。
「いっ……忌み子じゃー!!」
院長先生が思わず叫ぶ。
他人の子供に向かって失礼極まりない。
「火消しー!」
看護師が我にかえると、慌ててベッドの横に飾ってあった花瓶を持ち上げ、中の水を父親の顔にぶち撒けた。
かくして、いきなり四つ子を授かったものだから、井森さん家の家計は火を吹いた。それでも両親の献身的な愛情に包まれながら、すくすくと育ち、高校生にまで立派に成長したのである。
いつか世の為、人の為に、授かった才能を彼等が活かせると信じて。