3僕は初、私は挑
本社で働き数日が経ち、最初は基礎的な部分を莉耶から教わっていた。
今日は初任務と外に出て実際にディアヴォロスが住む地上へ行くことになっている。莉耶とは同年代でもあるけれど、莉耶は課長代理の称号をすぐ習得し先輩なわけであるが、普通に接してと敬語はやめた。
ただ海さんが僕を呼ぶあだ名は慣れていない部分もある。
「おい、飼育員。俺は寝るが、起きなかったら菊太ではなくお前が俺を起こせ」
「はい」
なぜか海さんだけ僕をそう呼ぶのは菊太がいるからだと認識していた。
まだ出発の時間じゃないからいつもの体勢で寝る海さんであり、菊太噛み付かないでよと頭を撫でてあげる。今回、行くのは水星のヘルスミエでありガイドブックを読んでいた。
水の惑星だから水が多くあるのはわかるけど海王星ポセイゼンと似ているのかなと思ったら、海王星はそのまま海なため船がなければ移動ができない。それに比べ水星ヘルスミエは陸らしく、プールが何箇所設置されているが、そこに入るのは危険が伴う。
莉耶に聞いた限り、街を崩壊した際生き残ったものは除外され、襲っては来ないと教えてくれたけれど、喧嘩を売ったら、即狩られるから気をつけるようにと言われたっけ。
だが海さんは喧嘩を売ったり買ったりするため、海さんを見てないと騒ぎが大きくなってしまう。
だったら海さんを置いて行けばと思っていたがそうもいかないらしい。海さんは今までの人たちと比べディアヴォロスのことを詳しく知っているし、尚且つ話が上手いから情報を入手できる凄腕の人なんだとか。
普段はあんな態度をとっているも、尊敬している人は多くいるんだろうと勝手に思っている自分がいた。
そろそろ出発するよと桜庭課長のお言葉に無限拳銃を装備し、菊太来いと呼びかけ行こうとしたらまだ海さんが寝ている。桜庭課長は吐息を出しながら、僕に指示を出した。
「菊太で起こしてくれる?」
今さっき菊太で起こすなと海さんに言われたばっかなんですがと、海さんのデスク前に立ち一度声をかけてみる。
「海さん、行きますよ。起きなきゃ菊太が噛んじゃうので早く起きてください」
それでも起きず耳元で大きく叫んでもいびきをかいて、ムカッと来た僕はつい菊太にお願いしてしまう。
「菊太、起こしてあげて」
そういうとキランと目が光りデスクの上に置いてある足を思いっきり噛んでもらうと、痛えと噛まれた足をさすり涙目でこの馬鹿と僕に怒り出すも、ふんっと桜庭課長たちのところに戻る。
「海も起きたことだし行きますか」
「良くない!」
海さんが言っているも僕らは無視して本社を出たら、目の前で隊員にしがみつきながら助けてくださいと、仰っている人を目撃した。どうかしたと桜庭課長が隊員に聞き、その内容を軽く僕らに説明をしてくれる。
昨晩、この人の家に到着したのは紛れもなく神パーティー用のドレスが到着し、今までとは違う文面が届いた。コピーを取ったのを見せてもらう。
角杭椿婦人様、神舞踏会に招待するとあり、桜庭課長が顎に手をつけて何かを考え始めた。神パーティーの他に舞踏会があるのは初耳だ。開催されるのは水星ヘルスミエであり日にちは明日の夜から。
今日の早朝に迎えが来たらしく、その方と一緒に奥さんは行ってしまわれた。
「お願いです、妻をっ妻を助けてください!」
「わかりました。ヘルスミエの調査に僕らが行くことになっているので、奥さんを取り返しに行ってきます」
「ありがとうございます、桜庭課長」
「わかり次第、ご連絡しますね。それじゃあ行くよ」
僕らは行ってきますと手を降りながら出発すると隊員と角杭さんの旦那さんが手を振ってくれた。
列車に乗り込むと列車が動き出す。
昏花にもこの景色、見せてあげたかったなと一番いい窓側に座り、宇宙を眺めていると向かいに座り、僕と同じポーズをしながらやっとあの話を掘り出してきた。
「神パーティーで着る衣装についてまだ話してなかったね」
「何かわかったの?」
「私の仮説にしかすぎないけど、黒は確実に狩られ、白は生き延びることが成功したら保留とされ飼われるんじゃないかなって気がするの。ただ衣装には他の人に聞いた限り、七色の虹のカラーと純白と漆黒の九種類。どう区別しているのかわからないけど、妹の昏花はどこかで生きているんじゃないかなって思う」
莉耶の仮説が本当なら昏花は今もどこかで生きている。少し希望が見えたような気がしてありがとうと感謝を伝える。
「ありがとう。生きてるかはまだ断定はできないけど、昏花が生きているのならもう一度会えることを願うよ」
「そう。私もまだ諦めてない。お兄ちゃんは強いから絶対にどこかのプラネットにいるはずだもん。そのためにもまずは角杭さんの奥さん見つけなくちゃね」
そうだねとそこからは他愛ない話をしながら、桃花会長がハマっているという星音ちゃんの音楽を聴いていった。
水星ヘルスミエに到着し駅のホームに降りるとそこには資料で見たエクリプス人が多くいる。その人たちは一度僕らを見て素通りをしていった。
しかも他にも多種多様なディアヴォロスがいて、こんな場所に昏花が本当にいるのかと不安が大きくなる。今までに見たことがなかったことで、驚きを隠せないでいると背中を思いっきり押されずっこけた。
いたたたたと立ち上がっていたら、ケラケラと笑い出すディアヴォロスたち。僕を押したらしいディアヴォロスは僕のことが気に食わないのか、よだれが出そうなくらいの冷めた笑顔で見ている。
ここでのルールは喧嘩は買わない、売らないから我慢して無視するしかない。だけど地上に来て何が悪いんだよという目をしていたら、ほら行くよと莉耶に腕を掴まれ駅を出る。
駅を出たら何もかもが新鮮すぎて、僕には眩しく手を目の上に翳した。水を使ったアートや水遊び場などがあり見たことがないことで興奮してしまう。
「気に入った?」
「初めて来たのもそうですけど、ガイドブックよりここは綺麗ですね」
「時間はねえよ。さっさと支社に行って情報もらおうぜ」
「それもそうか。そろそろ、車が到着するはずなんだけど……あっ見つけた」
どこに車がと周囲を見渡すとシャボン玉で作られた車があり。運転席にはプラネットコード社の隊服を着ている人が待っていた。それに乗り支社があるという場所へと出発しながら、景色を眺める。
ずっと地下で過ごしていたこともあったから本物の空を見るのが初めてで、偽装空よりも星はもっと美しく観えるんだろう。
「支部長は?」
「調査に当たっておりますので、支社にはおりません。その代わりに資料をお渡しするよう申しつけられています。着きましたらお渡しします」
「桜庭課長、支社って地上にあるんですか?」
「そろそろ教えといたほうがいいかな。今の西暦は二千百九十年。そこから遡って百年前までは地球オルモフィーケで暮らしていた。そして他のプラネットに住めることが整い、宇宙にも耐えることができることが証明され、地球オルモフィーケに住んでいた半分の人間が好きな惑星へと引っ越したらしい」
今までの人間がまさか地球オルモフィーケに住んでいただなんて信じられない。他のプラネットに旅行ができるのは知ってたけど、そんな歴史があっただなんて思いもしなかった。
「それから何年だっけ、甘露。答えられるかな?」
「うん!えっとね、確か十年後にディアヴォロスが全てのプラネットを襲撃し始めて、プラネットコード社とクレヴィー社ができディアヴォロスを退治してる」
「よくできました。甘露が言った通り、そこから僕ら人間は捕食人間と呼ばれ、常にディアヴォロスから狙われる存在となった。今までは地上で暮らしながらディアヴォロスと戦っていたけれど、死が相次いでね。プラネットコード社もクレヴィー社も敗北寸前のところ、あるディアヴォロスの一家が名乗りをあげた。それが月日家」
月日家ってどこかで聞いたような一家だったようなと頭を悩ませていると、莉耶がスマートウォッチを開いて画像を見せてくれる。萱草色の髪質に上品な白のスーツに目のシルエットのような耳飾りをつけていた。
「月日家はプラネットコード社会長とクレヴィー社会長と話し合い、地上はディアヴォロスが住み、人間は地下で暮らしてくれればもう人は襲わないってね。その通りに人間は地下に住み始めてた頃に、できたのが神パーティーだった。最初は選ばし者だけ地上に暮らしていいという権利を得られていたけど実際は違う」
「真っ赤の嘘で食すためのパーティーだった……」
口に出すと海さん以外頷いて、その綴りを海さんが景色を見ながら僕に教えてくれる。
「このことを知っている者たちは全ていなくなったことで、腕にあるコードをつけられている。それを疑問に抱いた元会長はクレヴィー社を疑い始めた」
「それとね、もう一つ。地上には普通に捕食人間が住んでる」
愕然としてしまうほどの衝撃な事実で、じゃあなぜ僕や昏花は地下に住んでいたのかさっぱりだ。地上に住んでいればこの状況も読めていたはずだし、昏花や両親を失うこともなかった。
どうしてと顔に手をつけ考えていたら、莉耶が僕の肩に触れてあるものを見せてもらう。腕には僕らのようにコードが入っていなかった。
「コードを持たない人間をネオリオ人と僕らは呼んでいる。ネオリオ人と取引を行い、ネオリオ人が住む街に支社を持たせてもらっているんだ」
「取引ってどんな?」
「ディアヴォロスの肉を持ってくることが条件」
頭が混乱してきそうだよ。つまり桜庭課長が言いたいのは、僕ら捕食人間はディアヴォロスが欲し、ディアヴォロスはネオリオ人が欲している。ディアヴォロスもネオリオ人も人食い星人だってこと。いや僕らもそう捉えるべきなのか。
だって普通に動物を食べて生活している人間だ。考えるだけで吐き気が出そうだと口元を押さえる。
「もしかしてエクリプス人を狩って渡しているってことですか?」
「そうじゃない。エクリプス人以外のディアヴォロスだけ、僕らは狩ってるだけだから安心してほしい。だけどエクリプス人も人間を食べてることには変わりないから、いざという時はやらなくてはならないよ。社員に加わった以上覚悟は常に持つこと。いいね?」
「……はい」
もうそろそろだよと見えて来たのはようこそ、ネオリオ街へと看板が出ており街へと入った。
僕らと変わりないからネオリオ人なのか、捕食人間なのか見分けがつかない。見分けするのには腕にあるかどうかだけど服を着ているせいでわかりづらい。
あれが支社だよと桜庭課長が言っており、見てみると大きな建物にびっくりしちゃった。こじんまりとした建物なのかなと思っていたが、街では目立ちすぎじゃないっすかと突っ込みたくなる。
駐車場に到着し車が停車して、車から降りると菊太がおえっと吐いてしまう。大丈夫と触れていると、だらしなと笑う海さんで、菊太は海さんに噛みつこうとも力が入らない。
「無理しないで」
「ずっと車に乗ってろ。どうせ俺を噛むことしか脳がねえんだからな」
「海さんいくらなんでもそれは酷い!」
「あ?俺はしょっちゅう馬鹿犬に噛まれてるんだよ!少しは反省しろってっ」
僕は思いっきり海さんの頬を叩き、行くよ菊太と先へ支社の中へと入り、ロビーのど真ん中で立ち止まる。くうんと菊太が鳴き、海さんは酷いよねとしゃがんでぎゅーと抱きしめてあげた。
家族は菊太しか残ってないし、一人にさせるものかと菊太に抱きついていたら、いきなり菊太が人の姿となって僕の頭を撫でさする。
「俺はもう大丈夫だし、昏斗の犬になる前は普段通りのやり取りが戻っただけのことで気にしてない。だからそんなに落ち込むな。ありがとな」
「菊太がそういうなら謝りに行かなくちゃ。結構強めで叩いちゃったし、手がヒリヒリするから」
すると中へと入って来た桜庭課長たちで海さんの頬には僕の手形が残るぐらい腫れてしまった。謝ろうとしたら海さんは僕らを見ずに、さっきは悪かったとさっさと言い行ってしまわる。
待ってくださいよと行こうとしたら、桜庭課長が今は一人にさせてあげてと言われてしまったもんで、支社にある第七捜査課室へと行った。
どうせ本社と同様なんじゃないのと行ってみたら、数名が在勤しておりどういうこととはてなマークを出す。第七捜査課は僕らだけじゃないのか。
ぽかんとしていると甘ちゃんが僕の手を引っ張って新入り連れて来たーと元気よく僕を中心にたたせたのだ。そしたら第七捜査課室にいる人たちが手を止め聞く体制へと切り替わった。
「水星ヘルスミエの捜査や調査をやっている僕の部下たち。軽く自己紹介」
背中を叩かれ僕は部下の皆さんに自己紹介をすると、最初はしんとしてしまったがよろしくと歓声を上げてくれる。しかし一人の彼女は違った。
僕にナイフを突きつけて目の奥から殺意を感じるぐらい、彼女は信用できるかどうかを見極めている。
「昴、あたいは」
ごくんと唾を飲み込みこの子にやられるのかと思っていたら、ナイフを降ろしてくれた。ふうと一息ついた瞬間、お腹を潰すように殴られる。
「弱いの嫌い。視界に入らないで」
「そう言わないでよ。新入りなんだし仲良くしてあげて」
「弱いのは全員死ぬ。生き残れない」
彼女は言い終わると第七捜査課室を後にし、さっきのはなんだったんだと扉を見つめていたら莉耶がごめんねと謝った。
「どうして謝るの?」
「あの子、誰も信用できてないの。唯一、信用してたのはお兄ちゃんで、お兄ちゃんの部下でもあった。お兄ちゃんが行っちゃって以来、あんな態度を取るようになって」
なるほどね。あの子は莉耶のお兄さんと一緒に行動をしていた仲だったから、あのような態度を取るようになっちゃったんだ。後で話しかけてみようと海さんとあの子がいなくても、角杭さんの一件について話し合っていった。
⁑
もう一つの狩る方法を観に行って数日が経ち、私は監視がいながらも獲物を狩る練習をしている。もう一つの狩る方法とは人間を手助けできる神舞踏会のこと。
もし主人が特定した人を守り切ることができた場合は、クレヴィー社という会社に入社でき昏斗を探せる。それを目標に私は今、動物を狩りに来ていた。蝕夜は椅子に座って優雅なティータイムをしているも、気にせず蝕夜が指定した動物を一匹残らず仕留めている。
猪、鹿、馬の次は空飛ぶ鳥を狩ろうとも、一回外しただけで鳥はどこかへと逃げてしまった。あと一歩だったのにと美しい空を見上げる。
昏斗に会いたいなと昏斗がくれた髪飾りに触れていたら、そこまでと蝕夜の言葉を受け向かいの椅子に座った。
「慣れてきているけど、鳥はまだ外してばかり」
「だってしょうがないじゃん。猪や鹿に馬は停止している時に狙えばいいけど、空に飛ぶ鳥を狙えって言われても、そう簡単にうまくいかないよ」
「神舞踏会は明日だ。獲物はいつでも動いている。動いている者を捕らえなければ昏斗はお預けになる」
昏斗とこのまま会わずに死ぬだなんて絶対に嫌だし、ちゃんと謝りたい。そのために嫌だけど蝕夜と一緒にいる。
「ねえ、蝕夜」
「何?」
「どうして私の願いを聞いてくれたの?本当なら今頃食べられてもおかしくはなかったのに、昏斗に会わせようとしてる」
「僕は兄姉弟妹がいない。興味を持ったというべきか。兄弟の絆や愛というものはなんなのか興味が湧いた。それだけのこと。但し僕を失望させたらすぐ昏花を食し昏斗に会いに行く」
蝕夜はすでに昏斗がどこにいるのかも知っている雰囲気を出すも、今は会うべきじゃないと紅茶を一口飲む。蝕夜は私の顔を見ながらマコロンを口に入れた。
私だけなんか贅沢な気分を味合わせてくれてるけど、昏斗は今もなおディアヴォロスに立ち向かっているってことだよね。怪我だけはしてほしくないな。
「昏花」
「何?」
「可愛い顔が大無しになるから僕の前ではそんな顔はしない」
「ごめんなさい。昏斗が大怪我とかしたらどうしようって思うと不安になるの。今までは普通に暮らして来てたけど、何もかも失って危ない仕事をしてる」
「すぐ昏斗は僕の物になる。心配しなくても平気さ。ほら笑って。鳥の狩り方は僕が教えてあげる」
蝕夜が手を差し伸べて来て、蝕夜の言葉を信じるしかないよねと笑顔になり、手を取って鳥の狩り方を教えてもらった。