年をとるとやりにくくなること
――好きなものを否定されるのは辛いことだ。
昔、家族で動物園に行ったことがあった。
私はパンダみたいに愛くるしいものや、ライオンみたいにかっこいいものが好きだったから、そればかりを楽しみにしていたわけだけれど。
初めて行ったそのときにだけ、併設されていた爬虫類やらのコーナーに足を踏み入れたことがあった。
当然のことながら私がねだって行ったわけではなく、父が好きだったから行って見たかったという話らしい。
当時は――まぁ今でもそうなのだが――蛇の皮にあるてらっとした光沢やら、トカゲの皮にあるざらっとした乾き具合やらも苦手だったし、そもそも動き自体が気持ち悪くて。それらがうじゃうじゃ居る光景に耐え切れず、コーナーに入った途端にぎゃん泣きして引き返したわけだ。
父としては自分の好きなものを子どもに教えたいという気持ちからそんな行動に出たようだが、あまりの拒絶反応を前に二度と行くまいと誓ったそうだ。
とは言え、時間が経って年を重ねれば事情も変わるもので。
私が独り立ちしてからは、自分一人で世話をすることを条件に、父は実家でトカゲを飼っている。そこにケチをつける気は毛頭ない。ないのだが。
……だからこそ反応に困ることってのもあるんですよ!
帰省して一緒に酒を飲んだりするときに、その酒に酔った父が飼っているペットの魅力を語り始めることがある。スマホのカメラで撮った写真を見せながら、ここがかわいいんだと説明してくることがある。
そして今日もそうなった。そうなってしまった。
でもごめんなさい。全く共感できないんです。
しかしこの年にもなって、他人の趣味を自分の趣味じゃないからと否定するわけにもいかない。それがどれだけ辛いことなのかをわかっているからだ。
まぁそれに。酒の席だし、酔ってるし、なにより親が相手だ。
……楽しそうにしてるのを邪魔したくないと思うくらいには、いい人だと知っている。
そんなわけで。
心を無にする努力をするために、酒をぐいとあおるのだった。
お題:蛇、父、動物園