祭事は誰もが参加できるわけじゃない
遠くから、腹の底に響くような鈍く重い音が聞こえてきた。
その音は、晴れた空にうっすらと伸びる雲すら消し飛ばすような勢いで連続して響いていた。
しかし、この国でこの音を聞く人間で怯える者はいない。
なぜならば、それがこの素晴らしい今日という日を盛り上げるための祝砲であることは、この国の人間なら誰もが知っていたからである。
……門出には相応しい日和だ。
なにせ、今日はこの国の姫様が結婚するというめでたい日なのだ。少しは派手に騒いでも構うまい。愛国心の強い者が多いこの国の人間であれば、むしろ騒がない方がおかしいと言ってもいいくらいである。
……もっとも、その空気を味わえるかどうかは別な話だが。
そう思いながら見上げる先には、城門で区切られた空と、その区切られた空の大半を埋めつくすようにそびえ立つ城があった。
本日このときに、生きている間に一度あるかないかの稀な出来事が起こっていることに間違いはないが。それも所詮は日常の延長上にあるものだからして、たとえ祝い事であったとしても、それが起こっている最中にただ楽しむだけでいられる者は存外少ないものだ。
要は、休みが合えばその場に行けたかもしれないけれど残念ながら仕事がある、そういう人間の一人が自分だという話であった。
……それにしても、あのお嬢様が結婚とは。
そんなことを考えながら見上げる先は、城の中ほどに位置するある部屋の窓だ。
そこは、今盛り上がり続けている結婚式の当事者である姫様の居室だった。
……私がここに来た頃は、まだ子どもだったはずだがな。
思い出すのは、ここに番兵として配属された当時のことだ。
亀だの豚だのとこき下ろされて、それでも訓練に耐え続けた果てに言い渡されたこの仕事に、当初は苛立ちを感じていたものだけれど。慣れれば楽だし、なによりあの窓から聞こえる日常には癒されたものだった。
……女の子というのは、どこの誰でも騒がしいものなんだろうな。
ただの一平卒でしかない自分が姫という立場にある彼女と直接会えたことはないけれど、あの窓から漏れ聞こえた声を元に想像すると、教育係になった人間が相当苦労しただろうと思わず同情してしまったものだった。
少なくとも、世間一般で言うところの深窓の令嬢からはほど遠い人物であったことは間違いあるまい。
……そんな人が結婚とはねぇ。
この仕事に就いてから、随分と長い時間が経ったものだと実感する。
……まぁ今日はお姫様を見た人も多いだろうから、話くらいは聞けるだろう。
それを肴に出来ることを今日の楽しみにしようと、そう決めて。静かになってしまったこの場所で、今日も無事に仕事が終わることを祈ることにした。




