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流され者の嘆息


舗装されていない道を走る車の荷台はいつも揺れる。

 何度も経験したケツの痛みを感じながら、その荷台に設けられた小さな窓から外を眺めれば、そこに広がっているのは鬱蒼と生い茂る薄暗い緑の壁だけだった。

 ……代わり映えのしない風景だよなぁ。

 いつものことだけどさ、とため息を吐いて目を瞑る。

 今は職場へ移動中だが、移動中というのは暇なもので思考だけが嫌に回る。


 スーツを着て客と上司の間を右往左往する仕事に就く道もあったはずなのに、気が付けば傭兵という職業に就いていた。

 別に生まれが貧しかったとかそんなわけではない。一般的なサラリーマンの父と専業主婦である母の間に生まれて何不自由なく生かしてもらっていたし、育ててもらっていたと思う。

 じゃあなんでわざわざこんな危ない仕事を選んだかと言われると、自分でも明確な答えを返せる自信はなかった。あえて答えるなら、気が付けばこうなっていた、としか言いようがなかったからである。そういう人間もいるもので、自分がそうだったのだというだけの話だとしか言えないのだ。

 とは言え、この道を選んで後悔しているかと聞かれた場合なら話は別だった。

 その答えは当然、否である。傭兵という職に就いたこと自体に後悔はなかった。

 苦労は多いが、幸いにして、今のところは生活に困らない程度に稼げているのが一番の理由だろう。最初の頃こそ報酬だけでは食っていけないと困っていたものだが、これも運良く生き続けてきた恩恵というものである。

 ……まぁ食うに困らないだけで、儲かってはいないけどな。

 だからこそ今日も今日とて労働に勤しむわけだ。

 今日からしばらくは密林にある拠点の防衛に関わることになっていた。欠員が多く出続けているから枠が空きまくっているという、リアルなブラック職場であるが、飯の種になるなら何でもよかった。金がないと生きていけないからね、仕方ない。

 今回の契約期間は半年。

 無事に終わるかどうかは、神のみぞ知るというやつだ。

 ……手紙でも書いとくかなぁ。

 命をどぶに捨てるような仕事に就いた身で、既に死んだような扱いになっていることは間違いないけれど。感謝の気持ちは残っていると、そう伝えることは決して悪いことじゃあないだろう。

 ……それが残って笑い話にできれば一番いいが。

「着いたぞ。降りろ」

 と、そこまで考えたところで車が止まって声が響いた。

 へいへいと頷きつつ思考を中断し、固まった体をほぐしながら荷台から降りる。

 すると、既にそこには現場責任者が立っており、すぐに業務説明が始まった。

 説明がひと段落して質問を受け付ける気配が見えたから、手をあげて聞く。

「手紙とかって送れますかね?」

「なんだ、遺書を書く時間が必要か」

「まぁもらえるなら欲しいもんですね」

「心配性なのか豪胆なのかわからんな。……申請さえあれば通る。書くときは自由時間を使え」

 ほかに無いかという声が響いて、返ってくるものはなかったから解散となった。

 自分も含めた全員が、各自の仕事場に向かうことになる。

 ……さて、それまで生きていられるかが問題だけどなぁ。

 どうなるかなと、そんな風に考えながら。ひとまずは指示された場所へと足を動かすことにした。




お題:密林、母、手紙

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