既視感の正体は
最終回です。 あくまでフィクションですので、ごめんなさい。怒らないで下さい。ボコらないで下さい。
俺がカレーを食べ終わって食後のコーヒーを飲みながらまったりしているとドアの外で電話をしているおっさんの声が聞こえてきた。
「だから早く赤入れ原稿を返送してください」
「いや“任せます”って無茶言わないで下さい」
「だから断らないで下さいって言ってるじゃないですか」
「編集が書いてどうするの!というか書けませんよ。誤字だか誤字じゃないんだかわからないんですから」
「鴎○堂さんには既に断られたんです」
「大丈夫、ちゃんと売れますから。売りますから」
「ふっ──だがシールドトリガー発動! ハレー彗星を召喚してダイレクトアタック、、、じゃなくてですね」
「「毛髪薄いよ!ビゲ○、なにやってんの。」って関係ないですよね!」(ハアハア)
どうやら世知辛い世の中の疲れたサラリーマンのようだ。ああはなりたくないものだな、とか考えてるとそのおっさんサラリーマンが店に入ってきた。
カランコロン♪
ああ、やっぱりお近づきになりたくない感じのおっさんだ。まあ、お近づきになりたいおっさんなんていないのだが。そして不幸な事に狭い店内で、空いてる席は俺の隣だけだ。必然的におっさんが隣の席に着く。俺は目をあわせないように本を顔の前に持ってきて読書に没頭しているふりをした。
ん?何故か視線を感じる。おっさんがこっちを見ている。まさか仲間になりたいのか?いやいやお断りだ。そもそも、おっさんに見られても全然嬉しくない。見るな。頼むから見ないでくれ。そんな俺の願いも虚しくますますガン見してくるおっさん。
遂におっさんが声をかけてきやがった。
「あの、OVLで編集をやってる者なんですけれど、今お読みの本、それってうちのレーベルですよね。えっ!3巻? どうしたんですかこれ?作ったの??自分で???いやまさか!?」
慌てるおっさんを見て餅つけと促そうとするも目が血走ったおっさんは誰にも止められない。
「わかった。2次創作ですね。でも精巧すぎるでしょ。ダメだよ。うちのレーベルのマークとか勝手に使っちゃ。裁判沙汰になったらどうするの?なんなら私が処分してあげるよ。うんそれがいい。」
「ちょ、困ります」
おっさんは俺の話が聴こえていないかのようにテーブルに置かれた本と薄い本を漁り出す。
「あっ、4巻と5巻まで。これも、これも全部没収せねば。何々?深夜の採寸会?(パラパラ) ・・・うん、けしからん。実にけしからん。これも没収と」
ちょ、まてい。なんで先に読んで、かつ学校の先生みたいに没収する流れになってんのよ。
「なんで、没収しようとしてるんですか。全部俺のですよ」
「だって、うちのレーベルの作品だもの。献本する義務があるよねぇ」
何このジャイアニズム「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」的な。
「よし、これがあれば校正できるぞ。早く終わらせてボーナスもらって泡風呂だ!」
その後の俺の必死の抵抗も虚しく購入した本を全て没収し、おっさんは去っていった。
その2ヶ月後、待ちに待った待望の3巻が店頭に並ぶのであった。
(完)
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。