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ホワイト・アイランド  作者: 大熊 健
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鉱脈

        鉱脈



 大きな崖に削岩機で穴を開けたと思われる鉱脈の入り口にたどり着いたスパルタンたち。

鉱脈の入り口は閉鎖のため、大きな鉄の扉で閉め切られていた。それにサイズのでかい南京錠で開くこともできなかった。

「どうする、スパルタン?」

 ショットガンを持ったガルが聞いてきた。

「爆薬はあるか?」と、スパルタンが言った。

 その言葉にゾーバーは手りゅう弾を出した。

「こいつで南京錠を破壊しよう。大きな爆薬を使えば爆発の影響で、土砂崩れになるかもしれんからな」

「そうだな」

 スパルタンはすぐに同意した。

 エバはこの鉱脈にここまで近づいたのは初めてだった。その入り口の大きさに圧倒された。この先には入ったことはない。犯人たちは内部の地図を持っているようだった。鉱脈の中はコンクリートで固めた地下トンネルになっているらしい。それに迷路になってると聞いたことがある。でも中性子爆弾がここに隠してあるなんて。しかし、エバには中性子爆弾がどんな爆弾なのか知らないでいた。でも核爆弾の種類に入るということだけは分かっていた。スパルタンに言わせれば、悪魔の発明らしい。だが、それを製造にまで導いた核物理学者はもうすでに死んでいる。それだけは確かだった。

「バークスリーが追いつくまで待ってるか?」

 と、ガルが言った。

「ゾーバー、ここに残れ。バークスリーを待つんだ。俺たちはこの大きな扉を開けて、中に入っている」

「待てよ!」

 ゾーバーが声を上げた。

「俺は坑内の地図を持っていない。それでどうやってあんたに追いつく?」

「心配するな。ここに戻ってくる」

「本当か?」

 疑うゾーバー。

「心配するな」

 スパルタンは続ける。

「無線で連絡する」

「よし、わかった」

「じゃあ、ゾーバー。手りゅう弾で南京錠を爆発させろ」

「ああ」

 ゾーバーは南京錠に引っ掛けるようにして、手りゅう弾を仕掛けた。そして安全ピンを抜く。

「離れろ、爆発するぞ!」

 全員が扉から離れて距離を取った。

ドカンという轟音が響き渡り、南京錠は吹き飛び、鉄製の扉も爆発の勢いでひしゃげた。スパルタンはヒュイと口笛を吹いた。今日見た中で、最高の爆発だった。

「これでいい。中に入るぞ」

 ガルに引っ張られて、エバも鉱脈の中へと入っていった。


*       *       *


 フローズン・ベース/夜九時


 一階にいたイケブチは、無線でスパルタンに定期連絡を取っていた。なんでも鉱脈を見つけて、もうすでに中へ入ったということだった。このあとは、鉱脈を出るまで無線の電波が届かなくなるらしい。一度、無線はストップする。

 一階にいたのはイケブチとファクパーの二人だった。ここで夜が明けるのを待つ。

イケブチとファクパーは相性が良かった。

「さて、俺たちはここでどうしてる?」

 と、ファクパーが言った。

「連絡があるまで待機だろ」

 のんきに返事をするイケブチ。

「中性子爆弾は見つかるかな?」

「大丈夫だろ。心配するな」

 二人の会話は続く。

「それよりお前、人を殺したのは初めてか?」

 ファクパーはイケブチに聞いた。

「俺は今は傭兵だ。金で動く。当然人も殺したことはある。ファクパー、お前は?」

「俺も同じさ。みんな手に垢があると思うぞ」

「そうだな。もともと軍人あがりのメンツばかりだ。俺たちは、いや、今起きている紛争なども、皆が戦っている。男ならみんなそうだ」

「まぁ、俺たちは悪党だけどな。金次第で何でもするからな」

 ファクパーは銃を置いて、椅子に座る。

「俺は今回の仕事が終わったら、故郷のシエラレオネに帰るつもりだ。良いこともしたい。悪党は卒業だ」

「そうなのか?」

「ああ。国に学校を建てようと思う。おかしいか?」

 ファクパーがイケブチの方を向いて聞く。イケブチは笑いながら、こう言った。

「おかしいさ。金が手に入ったら善人になるのか?もうお前はテロリストだ。後戻りなどできないぞ。いまさら虫が良すぎるだろ」

「そうだな。そうかもな」

 ファクパーはクックックッと笑った。

「忘れろ。ちょっと言ってみただけだ」


*        *        *


 ゾーバーが鉱脈の入り口付近で待機してから十五分。やっとスノーモービルの音が聞こえてきた。バークスリーだな。

 そう思っていたが、どんどん近づいていくスノーモービルが、ハンターとウォーターを乗せていることに気づく。バークスリーじゃない?

 ゾーバーは慌てて自動小銃を構えた。

 スノーモービルに乗っていたのはハンターとウォーターだった。

 お互いに武装をしている。すぐに銃撃戦になった。ゾーバーは銃を撃ちながら、鉱脈の中に逃げ込む。ハンターはお互いのマズルフラッシュが見えた。

 スノーモービルは鉱脈の入り口の前に止まった。

「ウォーター、敵は鉱脈内に入ったぞ!降りろ。奴を追うんだ」

「はい、行きましょう」

 スノーモービルを降りた二人が、ゾーバーを追って鉱脈内に入る。

「この中は複雑だぞ。西側の連中以外、誰も入ったことがない」

「地図とかはないんですか?」

「俺は持ってない。誰も持ってないかもな」

「でも、奴らは鉱脈に入ってます」

「ああ、中性子爆弾があるという場所に行く何らかの手段を得てるんだろう。敵は手ごわいぞ。気をつけるんだ」

「はい!」

 ウォーターは返事をすると、ショットガンを構えて先に奥に入った。

 鉱脈の中は空気がさらに冷たく、凍え死にそうだった。壁も冷たくなっていて、背にすると防寒着が湿るような冷気を帯びていた。

「寒い」

 ウォーターは下に降りるハシゴを見つけた。銃のストラップを肩にかけると、その十五メートルほどの深さがあるハシゴを、ためらわずに降りていく。

「気をつけろ、ウォーター」

「はい!」

 ハンターは下を見下ろした。底が暗くて見えない。しかし、電気はまだ来ているようだ。チラホラとネオン灯が点いていた。

 下から突然、銃撃音が聞こえた。さっきの男が自動小銃を上に向けて撃っているようだった。銃弾がハシゴにつかまるウォーターの背中を超えてトンネルの壁をえぐる。

「ウォーター、そこを動くな!」

 ハンターは自分の持っていた自動小銃を底の方へ向けて、ウォーターには絶対に当たらないようにしながら銃撃した。敵は地下トンネルのさらに奥へと逃げていった。

「危なかった」

 ウォーターは少し安堵し、ゆっくりとハシゴを降りていった。


*       *       *


 エバはスパルタンとガルに挟まれるように鉱脈の中を歩いた。鉱脈の地下トンネルは、あちこちにレールが敷かれて、その上にトロッコがたくさん並んでいた。

こんなところがあったなんて。

 エバたちはスパルタンの持つ鉱脈内の地図を手掛かりに迷路のように入り組んでいる道を歩いていった。さすがにそれでも長いトンネルだった。これは確かに地図でもないと道がどうなっているのか分からない。

 遠くで銃の発射音が聞こえた。入り口の方からだ。トンネル内に響いてここまで音が聞こえてくる。トンネルの入り口付近で銃撃戦が行われているようだった。

「おい、スパルタン」

「ああ、聞こえている。あの音だろ?」

「ゾーバーの奴かな?」

「それじゃあ、バークスリーは?」

「おそらく、いや、早合点はいかん」

「急いだほうがいい」

「ああ。もうすぐだ」

 スパルタンは地図を見て、その道順をたどった。

「鉱夫の寝泊まりしていた小部屋があるはずだ。そこに中性子爆弾は隠してあるらしい」

「そうか」

「地図上ではこの通路沿いに扉があるらしい。そこに入れば」

 スパルタンは足を速めた。

 その時、走ってきたゾーバーがスパルタンたちに近づいてきた。

「おい、待ってくれ!」

 スパルタンは大きな声で叫ぶゾーバーの姿を見ると、足を止めた。

スパルタンたちはゾーバーと合流する。

「ゾーバー、バークスリーは?」

「わからん。だが敵が来たぞ!」

「人数は?」

「二人だ。武装してやがる。この島の人間のようだ」

「なぜこの島の奴らが俺たちを追っている?」

 ゾーバーはかぶりを振った。

「知らん。だがきっと、ここまで追ってくる」

 スパルタンはエバの方を向いた。

「こういう時のための人質だ」と、エバをゾーバーの手前に突き出す。エバは軽々と倒れ込んだ。

「ガルは俺と来い。ゾーバー、敵を片付けろ」

 ゾーバーはエバを起き上がらせた。そしてやってきた方向にエバを押しやる。

「わかった。人質がいりゃ連中を始末できるだろう」

「そういうことだ。上手くやれよ。計画の邪魔をさせるな」

「ああ」

 そう言うと、ゾーバーは自動小銃のマガジンをかえた。そして、ハンターたちに備える。

 地下トンネルの空気が変わった。

 


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