決戦
決戦
アメリカ軍は衛星で〈バイキング〉のリーダー、リチャード・スパルタンの動向を探っていた。そしてスパルタン一味が「極島」へ行ったことを知ったのは前日のことだった。北欧の基地で、アメリカ軍の軍隊は、命令待ちの待機をしていた。
出動まであと十分弱。アメリカ合衆国のシコルスキー・エアクラフト社製の軍用ヘリMH‐53ペイプロウ二機が待機していた。そして四十人の屈強で、よく訓練されたアメリカ軍兵士たちがヘリに乗っていた。装備する武器や防弾チョッキの確認をしながら用意周到に準備してると、その間に出動命令が出された。
「極島へ行くぞ!到着は二時間後だ」
* * *
スノーはウォーターとタイマーを見た。時限装置は前に見たことがあったウォーターだったが、解除したのは別の人間だったことを思い出していた。
「これは、メイド・イン・USAの起爆型爆弾のタイマー。予想するに、これは三本の起爆用の配線を切らないと止められない。さぁ、どうする?」
ウォーターが冷や汗をかく。解除しなければ起爆する。しかし下手に手を出したらここでみんなオダブツになる。でも何とか解除しなければどっちにしろ結局はオダブツになるのだ。ウォーターはショットガンを雪の上に置いた。
「さて、これを解除しないとな」
「できるの、ウォーター?」
「さぁね。でもやるしかないよ」
「そうね。でも失敗したら?」
「死ぬのが数分早くなるだけさ」
タイマーはあと十五分だった。しゃべっている間にも、カウントダウンは待ってくれなかった。
「ナイフはあるかい?」
ウォーターはスノーに聞く。
「あるわよ」そう言うと、スノーはポケットから折り畳みナイフを出す。
「貸してくれ」
「はい」
ウォーターはそれを受け取った。
「じゃあ、まずは配線の中の五本の内、正解を三本切ればいいだけだ。簡単だろう?」
「じゃあ、間違った線を切ったら?」
「わかるだろ?」
少しの沈黙の間、また一分の時間が過ぎてしまった。ウォーターは自分の緊張状態をスノーに隠した。
「さあ、一本目はどこを切りたい?」
「ほとんど運ね」
スノーは心の底から死の恐怖を感じた。
「一番端っこの線は?」
「そうだね。じゃあ切るよ」
ナイフで端っこの線を切る。大丈夫だったようだ。一本目は確かに切った。
「次は四本の中の一本」
二人はつばを飲み込んだ。爆発すれば、放射線物質より先にTNT爆薬の爆発力により死ぬ。そのあとの核汚染も免れない。死ぬのは自分たちだけじゃないのだ。これも一種の闘いだ。気は絶対に抜けない。
「じゃあ、左から三本目」
スノーが答える。
「左から、ええと三本目ね。こいつか」
ウォーターはその線をゆっくり切った。セーフのようだ。まだ生きてる。
「最後だ」
残り三本のうちの最後の一本。三分の一の確率だ。これは選ぶのが本当にきつい。
さぁ、どうする?
この最後の一本に命がかかっている。さて、どれを切るか。
「好きな数字は、スノー?」
「そんなんで決める気?」
「いや、じゃあどうする?」
「あと一本なのよ!」
スノーは声をあらげた。
「どうしよう。こんなの選べないよ」
「でも」
「切るしかない。どれか一本」
「ああ」
ウォーターのナイフを持つ手が震えた。
「今度こそ、終わりか、またはギリギリで助かるか。そのどっちかだな」
スノーは息を大きく吸った。
「わかったわ。あなたを信じる」
「じゃあ、最後の一本を切るよ」
ウォーターは自分がどの線を選んで切ったのか、その目では見なかった。それでもナイフで線を切ったことだけは、感触でわかった。
沈黙の間、死んだも同然な感覚に襲われた。そして、ウォーターは手元を見た。
全部切ったぞ!
恍惚に悦になるウォーター。
「やったぞ、全部切った!切ったよスノー」
神に祈りをささげているような、そんな思いでいっぱいだったスノーは、今までにないような安心感を覚えた。ウォーターは息を吐いた。
「助かったぞ」
そう思っていたが、タイマーは八分から七分へと、まだカウントダウンしていた。
「えっ、なぜ?」
ウォーターはナイフを手から落とす。
「どうなってるんだ?」
スノーは秒読みを見つめて、焦りを見せた。
「三本切ったのに、どうして?」
「細工がしてあったんだ!マズい」
「どういうことなの?」
「こいつは導火線が要らないんだ。電波で爆発が起きる仕掛けになってるんだよ」
「どうするの?」
ウォーターはタイマーを見た。残り六分と三十秒。
「こいつを破壊しないと!」
「でも、それにはどうするの?どうしたら」と、言いかけると、スノーの声を無視するかのようにウォーターが立ち上がり、ショットガンを手に取った。
「こいつで止まらなけりゃ、もう終わりだ」
ウォーターはタイマーに向かってショットガンを発砲する。
ドンという大きな音が鳴り、タイマーは壊れた。そして爆弾を見る。
「どうだ?」
「止まったみたいね」
「やったよ、スノー」
ウォーターはショットガンを下ろした。
「やったぞ。もう安心だ」
タイマーは壊れ、起爆装置は死んだ。
ようやく一基の中性子爆弾を沈黙させたのだ。
* * *
スパルタンとガルは、ヘリを待った。十五分ほど待つと、ヘリがやってくるのが見えた。
「来たぞ。お迎えだ」と、スパルタン。
「よし、全員で逃げよう」
ガルは中性子爆弾を雪の積もる滑走路の上に置いた。
「さあ、リッチな休暇への第一歩だぞ」
スパルタンは手を振った。スタートルが飛ばすNH90中型ヘリが着陸する。
「ようスパルタン。成功だな!」
操縦席から顔を出すスタートルがスパルタンに声をかける。
「ああ、ブツは二基だ。これで」
そう言いかけた途端、銃撃がスパルタンたちを襲った。スノーが自動小銃で銃撃した来たのだ。ウォーターもショットガンでスパルタンたちを撃つ。
ヘリからイケブチやヘッダが出てきて、銃で応戦する。たちまち銃撃戦になった。
「殺せ!ガキどもを殺すんだ!」
イケブチはAKで撃ちまくった。しかし、ウォーターのショットガンの方が先にイケブチの体をぶち抜いた。
「ぐわっ」
うめくイケブチ。
さらにヘッダがスノーの銃撃でハチの巣になった。
「スパルタン、逃げろ!」
スタートルが叫んだ。
「こんなところで負けてたまるか!敵はたった二人だぞ。しかもガキだ!」
しかし、あの銃を持ったガキどもは、本当に始末に負えない敵だった。スパルタンは中性子爆弾を持つガルを先に行かせて、自分は時間稼ぎにその場を去っていく。
「ミッキーホーク、応答しろ」
スパルタンは無線で伝えた。
「俺は山の方に行って時間を稼ぐ。あとで迎えに来い!」
そう言うと、スパルタンは山のある方へ足を速めた。
* * *
「極島」の警備兵であるライベンと、ハンターがYの5のS地点までたどり着いた。そこは戦場になっていた。ヘリがあり、そこにテロリストたちが銃を撃っている。
スノーはスパルタンを追っていった。ウォーターはクアイアットと銃撃戦になっていた。クアイアットのIMIミニウージーが火を噴く。ウォーターが必死になってショットガンの散弾をクアイアットに浴びせた。クアイアットが死体となる。
その時、ヘリの中で人質になっているジョー・スミスの姿を見つけるウォーター。
「やばいぞ、民間人がいる!」
ハンターとライベンはヘリをはさんで手前で足を止めた。
「ハンターさん、あの人は?」
「ああ、フローズン・ベースの管理人、ジョー・スミスだ。まずいな。彼を救わないと」
「なら、俺が囮になります」
「どうする気だ?」
「奴らの気をそらします」
そう言うと、ウォーターはヘリの操縦席に向かって走った。敵の目がそちらへ向く。
「今だ!」
ハンターとライベンの息は合っていた。二人とも手に持っていた自動小銃で、ヘリの中にいたファクパーをハンターが、ガルをライベンが撃ち殺した。
スタートルはヘリを上昇させようとしたが、その前にウォーターにショットガンで頭を撃ち抜かれる。
あとに残されたのはローターの回るヘリと、生きて人質になっていたスミスだけであった。
* * *
スノーはスパルタンを追っていた。しかし、銃で狙いをつけていたのだが、撃つのをやめた。そしてその場を去る。
「何だ?なぜ追ってこない?」
スパルタンは不思議そうな顔で、足を止めた。その時、急に獣のうなる声が聞こえた。
すぐそばにシロクマがいたのだ。スパルタンはシロクマに追われた。命乞いなど無意味な相手だった。シロクマはスパルタンに追いつき、彼を襲う。悲鳴が雪の足場にこだまする。
スパルタンはすべてが終わったと思いながら、シロクマにズダズダにされたのだった。
* * *
明け方、アメリカ軍の軍用輸送ヘリが二機、「極島」にたどり着いた。そこにはテロリストたちを全員始末し、生き残っていた者たちが集まっていた。そして、二基の中性子爆弾を確保していた。
アメリカ軍ヘリは二機とも着陸し、その場を収めた。
「アメリカ陸軍少尉のフレデリック・バイソンです。〈バイキング〉のメンバーは?」
「皆、倒したよ」と、ハンターが言う。
「そうですか」
「連中、中性子爆弾を強奪しようとしていた」
「わかりました。では、皆さんヘリにお乗りください。村まで連れていきましょう」
ハンターはうなづく。
「それに南はもう、紛争も終わって平和的な解決がなされています。ここも平和になるでしょう」
その言葉に一人、衝撃を受ける者がいた。ウォーターだ。
「なんですって?」
「南での紛争は終わったんですよ!」
* * *
二週間後、バーグの村ではスノーが元気もなくテーブルに臥せっていた。
ドルフィンがスノーに声をかける。
「なんだ、スノー。ウォーター君が南へ帰ったんで落ち込んでいるのか?」
黙っているスノー。だが目はドルフィンの方を向いていた。
「彼は紛争が終わったんで、一度国に戻っただけだろう。一年で帰ってくるとは言っていたが、そんなに長くはおらんだろう。三か月か、長くても半年で彼も帰ってくるだろう。彼の功績はこの村でも語り継がれていて、ようやく村の人々も彼の存在を認めるに至ったんだし」
それでもスノーはフラッと部屋を去っていった。
「おい、聞いてるのか、スノー?」
スノーは雪原の地平線を遠くに眺めながらこう思った。
ホワイト・アイランドか。
何もないところだけど、わたしたちも、ウォーターも、みんなここを大事にしている。
だから、誰もこの土地を捨てはしないはず。ウォーターもきっと戻ってくる。
きっと。
* * *
そして一年半後。
港にはスノーとドルフィン、それにハンターが来ていた。ウォーターの便りで今日、「極島」に船で着くと知らせがあったのだ。
「まったく、あの小僧はこんなに待たせるなんて」と、ドルフィン。
「それでも帰って来てくれて嬉しいじゃないか、ドルフィン」
ハンターが言う。それに対して「フン」と顔を背けるドルフィン。
船が港に着き、タラップが降りた。
「スノーも嬉しいだろ?彼が帰ってきたんだからな」
スノーは顔色を変えた。少し頬を赤らめる。
「スノー、あんないい加減な男にうつつを抜かすんじゃないぞ!」と、ドルフィンは念を押す。
その時、ウォーターがタラップを降りてきて三人の前に立った。
「お久しぶり!」
成長したウォーターの姿がそこにはあった。
「やっぱりここは寒いな」
久しぶりのマイナス温度に多少の厚着をしていたウォーターでも、この寒さを忘れていたようだった。
「よう、少年。いや、もう青年か」
「ハンターさん!」
「成長したな」
照れながらうなづくウォーター。
「スノー、ドルフィンさん」
スノーが笑顔を見せた。
「お帰りなさい」
しかし、ドルフィンはそっぽを向いていた。
「ドルフィンさん?」
ハンターが口を挟む。
「さっきは文句ばかり言ってたのに、いざって時に顔向けできないんだ。ほっとけほっとけ」
ウォーターは深く頭を下げた。
「戻ってきました」
冷たい風を浴びながら、ウォーターは言う。
「やっぱり寒いけど、でもやっぱり「極島」はいいな」
スノーはウォーターのそばまで行き、そしてやさしく口づけをする。そして言った。
「ここでは極島なんて呼ばないでしょ?覚えてる?」
ウォーターはフッと笑った。
「もちろんさ。ここは、ホワイト・アイランドだ!」
完
いや~、アクション小説、ここで完結。皆さんここまでお付き合い、ありがとうございます。ちょっと慣れない感じでしたが、無事に終わらせることができて本当に良かったです。次はもっとホンワカしたものを書きたいなぁ~。私は映画が好きなので、特にハリウッドアクションものが大好きなので、その影響は出ているかと思います。次は違うジャンルで書いていこうと思いますので、よろしくお願いします。では!