出口
出口
スパルタンは一基の中性子爆弾をリュックに入れて背負った。ガルは二基の爆弾をカバンに入れて、持っていく。この先に出口につながる通路があるのだ。しかし、さっきの爆発で地下トンネルのシャフトがゆがみ、崩れかかっていた。
壁に大きなヒビが入り、コンクリートの破片がバラバラと降ってきた。
ようやくゾーバーがスパルタンたちに追いついてきた。
「待て、スパルタン!」
だが、スパルタンはガルとさらに奥の道へと急ぐ。
「待てよ、オイ!」
ゾーバーが走る。そのあとをウォーターが追いかけた。背中を向けていたゾーバーにウォーターはショットガンで撃った。ゾーバーは背中に穴を開けられ、その場に崩れ落ちる。
悲鳴も何もなかった。そのまま倒れ込むゾーバー。
ウォーターはその死体となったゾーバーの体を飛び越え、先を行ったスパルタンたちを追った。
殺し合いにここまで来たわけじゃない。そもそも紛争から逃げたくて、この島に来たのだ。それでもここであろうが戦争はつくづく自分の身に降りかかるということなのかもしれない。そう思うウォーターは、ショットガンを手に足を走らせた。
その時、トンネル全体が大きな軋みを上げた。崩れかかっている。早く脱出しなければ。
トロッコのレールをたどっていくと、スパルタンとガルの姿が見えた。その先に工業用の簡易エレベーターが二つあるのに気づく。あのエレベーターを使って地上へ出る気なのだろう。ネオン灯がともっているのだ。エレベーターにも動力源は来ているだろう。
スパルタンとガルはエレベーターに乗って、そばにあったバーをガルが引いた。たちまちエレベーターは上へと昇っていく。それを追うウォーター。
* * *
バーグの村/午前四時半
病院のベッドで、ようやくドルフィンは目を覚ました。そばにはずっと付き添っていたスノーが心配そうに立っていた。ドルフィンが意識を取り戻したことに気づき、彼女は大きく叫んだ。
「おじいちゃん!」
「スノーか。ここは?」
「病院よ。おじいちゃんがシェルターのそばで倒れてから、警備兵のデズモンドさんとサイモンさんが来て、助けてくれたの」
「そうか。それで、他の者たちは?」
「ハンターさんとウォーターが鉱脈の方に向かっていったの」
スノーはドルフィンの様子をうかがった。
「スノー、儂は大丈夫だ」
ゆっくりと声をかけるドルフィン。
「聞きなさい、スノー。連中はこの土地で中性子爆弾を爆発させようとしてるんだったよな?もしまだ間に合うのなら、鉱脈の出口へ行きなさい。お前はこの村でも屈指の銃使いだ。警備兵たちと一緒に行くのだ。戦うんだ!」
「おじいちゃん」
「まだ十九の歳のお前にこんなことを頼むのは酷だと思うか?」
「ううん」
と、かぶりを振るスノー。
「だって、奴らはこの島全体を死にさらすことを計画してるんだよね?」
「その通りだ。もし誰かが立ち上がらねば、この土地は終わる。歴史の汚点を残すとともに、そこに住む民をも不幸にさせかねん。原因と結果があるのならば、悪い結果が起こる前にその原因を潰すのだ。それが唯一生き残る手段なのだから。だから行きなさい。お前の銃使いとしての役割を今こそ果たす時が来たのだ」
「わかったわ。おじいちゃん。わたしも戦う!」
「その決意、忘れるなよ。じゃあ、行きなさい!」
「はい!」
スノーはH&KMP5KA2自動小銃を手にした。大事な人を危険な目に遭わせた奴らをわたしは許せない。この土地を汚す真似をしようとしているあのテロリストたちが憎くてしょうがない。戦うんだ。わたしも。そう心に誓うスノー。その表情にドルフィンは安心の表情を見せた。そうだ、それでいい。この土地はお前のような若い者がこれから引っ張っていくのだから、危険な目にも慣れていた方がいい。それでも自分の大事な孫にそれを押し付けるわけではない。スノーはきっと、それでも戦う。それは孫娘の決意でもあるからだ。そのためにひと押しするのも祖父であり、村の長でもある自分の務めだ。そう思うドルフィン。そしてドルフィンは言う。
「いいか、スノー。鉱脈の出口の座標はのう」
* * *
エバの容態は軽くはなかった。それでもよく持っている方だった。ハンターは一時間以上かけて鉱脈から出て、スノーモービルに載せてバーグの村にたどり着いた。
「エバを助けてくれ!銃で撃たれている」
エバを背負い、病院に駆け込んだハンターはすぐさま処置室に入った。
「手術が必要だ。早く彼女を!」
病院関係者総出で、エバの手術にあたる。
「申し訳ない、あとは頼む。エバを救ってくれ。俺は行かなければならない。すまないが」
ドクターはハンターの方を向いた。
「わかってるよ。ドルフィンから事の顛末は聞いている。警備兵たちもスノーもこの村を出たよ。それにさっき、警備兵のリーダーであるジェイソンが言ってた。フローズン・ベースも音信不通になってるらしいじゃないか。そこにもテロリストたちがいるようだ。そっちにも警備兵のライベンとアルモが向かっている。みんな戦うんだ。そしてわたしたちも医者として人を助ける。あんたはあんたの役目を行えばいい」
「そうだな。エバを頼んだぞ!」
ハンターは大きくうなづく。ドクターも返事代わりに首を縦に振った。
* * *
鉱脈の出口は山のはだを削って出来ていた。エレベーターはそこにつながっていた。雪に埋もれていて誰も近づかないような場所に出たスパルタンは、エレベーターが停止すると、動力電源である電気系統に銃弾を浴びせた。電機は壊れる。
「さあ、ここで爆弾を一基、セットしよう」とスパルタン。
スパルタンは中性子爆弾を出して、雪の上に置くと、爆弾のパネルをネジを回して開けた。そこにはタイマーらしきデジタル時計があった。
「三十分だ。こいつで三十分後に爆発するようセットする。おいガル、無線でスタートルを呼べ。ヘリで全員載せてここに来るよう伝えるんだ」
そう言うと、スパルタンはひと気のない飛行場あとのようなものを三百メートルほど先に見つける。
「あそこに着陸させろ」と指さすスパルタン。
「わかった」
ガルはそう言うと、無線を出した。
* * *
フローズン・ベース/午前四時
スタートルたちはヘッダを見張りに立てて、他は仮眠を取っていた。その時、無線が鳴る。う~んと眠気を覚ますと、スタートルが起きてトランシーバーを手に取った。
「スパルタンか?」
『こちらミッキーホーク。スピットファイア応答しろ』
ガルの声が聞こえてきた。
「ガルか。こちらスピットファイア」
『中性子爆弾が見つかった。今、鉱脈の出口を出た。地上だ。GPSで確認してくれ。場所はYの5のSだ。使われていない滑走路がそばにある。そこへ至急、全員でヘリで来てくれ。オーバー』
なるほど、計画は順調のようだ。そう思うスタートル。
「よし、全員この基地を出るぞ。下の階のイケブチとファクパーも呼んで来い。移動する。行くぞ、いいな?」
スタートルはクアイアットたちに命令する。
ついにか。
「中性子爆弾が見つかったのか。いよいよ我々〈バイキング〉の時代が来たようだな」
と、ヘッダ。
スタートルは銃を持ち上げると、ヘッダたちを連れて二階を降りた。下ではファクパーとイケブチ、それにスミスが寝ずに待っていた。
「行くのか?」とイケブチ。
「ああ。ようやく見つけたらしい。もう地上に出てる。あとはヘリに載せてこの土地を脱出するだけだ。いよいよだぞ」
「人質は?殺すか?」
そう言いながらイケブチはスミスの方を見る。
少し考えてから、スタートルは言う。
「いや、まだ人質に使える。あいつも一緒に連れていく」
「わかったぜ。じゃあ、行くか」
イケブチはスミスの防寒着の袖をつかみ、一緒に連れていく。
フローズン・ベースを出ると、NH90中型ヘリに乗り込んだ。三メートルほど離陸したその時、武装したこの島の警備兵であるライベンとアルモが、ヘリに銃弾の雨を浴びせてきた。
ヘリの機体に穴が開く。そして揺れるヘリ。それでも高度を上げるヘリ。
テロリストたちはまだ開いたままのヘリのドアから身を乗り出した。最初にライベンたちに銃撃の弾幕を浴びせたのはヘッダだった。自動小銃で雪をまき散らす。
「やはり奴ら、テロリストの一味だったようだ」とアルモ。
「撃つんだ!ヘリをこれ以上離陸させるな!」
ライベンはさらにH&KMP5K自動小銃を撃つ。
ヘリはどんどん上昇している。そのスピードは速かった。
「くそ、逃げられる!」
ヘリは西の方へと去っていった。あっちには谷がある。
「奴ら、橋の方に向かってるぞ」
ライベンが言った。
「あそこには閉鎖された飛行場がある。そこで合流する気だな」
ヘリを見送りながら、アルモが言った。
「とりあえず、フローズン・ベースの中に入ろう。管理人のジョー・スミスを探すんだ。
二人は基地の中に入っていこうとした。その時、爆弾が基地の周りに仕掛けられていることに気づく。
「これは」とアルモ。
「まずい、離れろ!」
爆発までニ~三秒とかからなかった。フローズン・ベースは全体が大爆発を起こし、その衝撃でアルモの体が宙を舞った。ライベンは身を伏せて難を逃れた。
「罠かよ。くそ、アルモがやられた」
助かったライベンはそうつぶやいた。
* * *
鉱脈の出口につながるエレベーターで、ウォーターは立ち往生していた。もうすぐで地上だというのに、電気を破壊されてしまい、エレベーターが途中で止まってしまったのだ。
仕方なくウォーターは、エレベーターのワイヤを登り、地上まで出ることにした、ショットガンを背負い、シャフトのケーブルにつかまる。そして乾いた油に手を取られながらもエレベーターシャフトを登っていく。時間はかかったが、ようやくシャフトの一番上まで登りついた。出口に来たウォーター。
「ここはどこなんだ?」
ウォーターが出口からあたりを見回すと、そこには例の中性子爆弾と思しきものが一基置いてあるのがわかった。その円錐型の爆弾にデジタルの時計がついており、それには二十一分の表示があった。これがタイマーなのだとカウントダウンされていくデジタル数字ですぐに分かった。こいつはあと二十一分で爆発する。
ゾッとするウォーター。
その時、スノーモービルで誰かが来たのに気づく。あれは、スノーだ!