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ホワイト・アイランド  作者: 大熊 健
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銃撃戦

       銃撃戦



 数々の戦を生き延びてきたハンターも、これほど長い撃ち合いは初めてだった。自動小銃を手に、迷路のような地下トンネル内をくまなく歩くのは骨の折れる行動だった。しかも敵は正体の分からないテロリスト。そいつらを追って戦うのは予想以上にしんどかった。

 再びトンネルの奥から銃撃音が聞こえる。それでも弾丸はハンターやウォーターの体を避けていく。コンクリートの壁が穴だらけになった。その先のトンネルは二つに分かれていた。

 これはウォーターと二手に分かれるしかないと思った。

「おい、ウォーター」

「はい」

 ハンターのうしろでショットガンを構えるウォーターに声をかけたのは、銃撃音がやんでからだった。戦闘中はうるさくてかなわない。

 寒さでまいっているのか、戦闘のせいで緊張状態なのか、あるいはその両方なのか、ウォーターの手が震えているのが分かった。

「あいつを始末しないとこの先には進めない。ここで二手に分かれよう。大丈夫だな?」

「二手にですか?」

「ああ。何としても中性子爆弾の強奪を許してはいけない。奴らはこの土地で一基、爆発させようとしてるんだ。俺たちでここを守るんだ、いいな?」

 ウォーターは意識がはっきりしてきた。故郷ではないが、スノーの愛したこのホワイト・アイランドを守るために戦うんだ。どこに行っても戦争なのは皮肉だが、それでもこの土地を守るために戦うのは自分の意思だ。そう思うウォーターだった。

 俺も大事にする、この土地を!

 ウォーターはハンターの言葉にうなづいた。そしてショットガンのフォアエンドを引いた。

「俺が回り込みます」

「よし、左の道に入れ。おれはここを直進する」

「はい!」

 そう言うと、ウォーターは左のトンネルに飛び込んだ。

 ハンターはそのまま直進した。銃撃音がこだまする。敵の銃弾がハンターを襲った。ハンターの上の瓦礫がボトボトと落ちる。それを間一髪でよけたハンターは、トロッコが一台置いてあるところに身を隠した。敵は十メートルほど先にいるだろう。ハンターは顔をトロッコの端から出して、様子を確認する。その時、敵が声を上げて言った。

「おい、お前。こいつが誰だかわかるか?」

 その言葉に、トロッコを背に身を乗り出すハンター。 敵のそばに銃を突き付けられている女性の姿があった。

 普段はフローズン・ベースにいる、ガイドのエバ・パーティスだった。

 奴は人質を取ったのか。いや、待て。

 確かスノーモービルでシェルターにやってきた時、あの時からエバは、連中と一緒にいたことを思い出した。

「少しでも抵抗すれば、こいつの脳みそは破裂するぞ。それをその目で見たいか?どうなんだ?」

 ゾーバーは得意げに銃口をエバの頭に押し当てた。

まずい。想定外だった。そう思うハンター。

「人質ってのは便利だよな。これで形勢逆転ってワケだ。そうだろ」

 なんという冷徹なコマンドなんだ。これでは戦えないどころか、こっちも殺される。

いや、俺もエバもどっちも殺されるではないか。

 ハンターはしばし沈黙した。

「まったく、やさしさってのは弱さだよな、え?非情こそ真の強さだ。俺はお前の命にしか興味ない。だからお前が素直に銃を捨てて降参すれば、人質は助かる」

 トロッコに隠れてハンターはフゥッと大きく息を吐いた。

馬鹿馬鹿しい。人質は助かるなどとは大嘘だ。きっとあとで殺すに違いない。

 ハンターは大きく声を荒げた。

「ふざけるな!俺も人質も殺す気だろう。馬鹿にするな」

 なかなか出てこないハンターの様子に、少しのいら立ちを見せるゾーバー。

「人質が大事じゃないのか?」

「そんなことはない」

 時間を稼ぐように話を長引かせるハンター。

「だが、お前たちは誰も生かして返すつもりはないんだろう?」

「なぜそう思う?」

 話に乗ってきた、とハンターは思った。

「お前たちの仲間から聞いたぞ。お前らはこの土地で中性子爆弾を爆発させるつもりなのだろう?」

 ゾーバーは目を見開いた。

「俺たちの仲間とは、バークスリーのことか?」

「名前までは知らん。だが奴はそう言った。なら、今ここでじゃなくても俺たちは皆、死ぬってことじゃないか?そうだろ?」

「テメェ、バークスリーはどうした?殺したのか?」

 怒りに満ちた口調で、ゾーバーは聞いた。

「いや、俺の仲間たちがシェルターに来たんだ。助けられてるだろう。たぶんな。だから人質を取っているのは俺の方も同じだ。それでもお前は人質を盾にする気か?」

 歯ぎしりをするゾーバー。

「待て。ちょっと待て。俺の一存じゃ決められない。俺のボスがどう対処するか聞いてみないと」

 その時、エバが立ち上がると、すぐさまトンネルの先の方まで走った。その瞬間をゾーバーは見逃さなかった。クルリと振り返り、自動小銃でエバを撃つ。方と足に銃弾を浴びるエバ。そして彼女は倒れ込んだ。

 ハンターはそれを目にした。とどめを刺そうとゾーバーが、さらにエバの体を撃とうとした。ハンターは持っていた銃でゾーバーを撃った。だが弾丸は外れてトンネル内の壁を壊した。ゾーバーは体を伏せて、ハンターの方に応戦する。ハンターが身を隠しているトロッコに銃弾が当たる。撃ち合いは続いた。


*        *        *


 トンネルを歩いていったスパルタンとガルは、ついに目的の小部屋に続く扉を見つけた。そこは粗末な木製のドアで、マイナス温度で凍り付いていた。蹴破れそうなほど脆そうなそのドアは、鍵が掛かっていた。それに鎖付きの南京錠。だが、それを足で蹴ったスパルタンは強引にドアを破る。バキバキと音がして、ドアがぼろぼろに崩れ落ちた。中からすごい冷気があふれ出し、その冷気を一気に浴びるスパルタン。破ったドアから中に入ると、木製のトンネルが七メートルほど続き、その先にはまたしても扉があった。今度は鉄製の扉だった。開けようとしてもビクともしなかった。もう一度ドアに圧力を与えたが、それでも扉は開かなかった。鉄製のドアは錆びていたが、頑丈に出来ていた。

「さぁ、どうする?」とガル。

「爆薬を仕掛けよう。C‐4を使う。プラスチック爆弾を出したガルは、扉にガムのように粘着力のある粘土をくっつけた。

「吹っ飛ばすぞ。下がった方がいい」

 ガルはそう言うと、鉄の扉から離れた。スパルタンもそれに続く。

次の瞬間、ボンという地響きのような音とともに、扉がひしゃげてその開いた口をのぞかせる。

「あまり爆薬は使いたくないな」

 スパルタンのその言葉は、その爆発の衝撃で鉱脈全体のトンネルが地震のようなうなりを起こしたことで証明されたようだった。地下トンネルは全体がぐらぐらと揺れた。

「崩れる前に例の物を搬出するんだ」

 スパルタンはぐしゃぐしゃになった鉄の扉を引っぺがすと、その先の小部屋に入る。机やイス、その他に礼拝堂などが冷気に混じって散らかっていた。そして三基の中性子爆弾と思われるモノコックの円錐型の物体が収められていた。

「これが中性子爆弾?」

 ガルがスパルタンに聞く。

「ああ、アメリカ製だ。ギリギリまで小型化されているんだ。一基に二十キロしか重さがないが、爆発すれば放射性物質が大量にこのトンネルさえ突き抜けて、半径一キロ以内を被曝させることができる」

「爆発の威力は?」

「爆発自体はこの部屋が丸ごとぶっ壊れるくらいの威力だ。要するに爆発の威力よりも、このトンネルの壁さえ通り抜けて核汚染が広がるのが中性子爆弾の特徴なんだ」

「すごいな」

 と、ガルは感心する。別に恐怖を感じているわけではない。彼は被曝の恐ろしさなど微塵も理解できてないだけだった。それでも小型化されたこの爆弾は、持ち運びが楽なほど軽いものだということだ。二十キロなどバッグに入れて背負っていけるほど軽いわけだ。軍経験者にとってのに十キロの重さなど、そんなにやっかいな重さではないのだ。

「よし、講釈はこれまでだ。早く空のリュックに全部入れろ。急げ!」

「ああ、わかった!」

 スパルタンたちは中性子爆弾を確保した。


*        *        *


 銃撃戦中にゾーバーのトランシーバーが鳴った。スパルタンからだった。戦闘が続く中、ゾーバーは撃つのをやめて、無線に出た。

「ミッキーホーク、こちらマグナム・ワン」

『マグナム・ワン、例の物を見つけた。回収中だ。すぐに持ち場を離れてこちらへ来い。繰り返す、マグナム・ワン、例の物を回収した。そこから離れろ。オーバー』

「ミッキーホーク、悪い知らせだ。バークスリーはやられた。やつは来ない」

 しばらく沈黙が訪れる。

『わかった、マグナム・ワン。もういい。その場を離れろ』

「ああ。オーバー」

 ゾーバーは倒れているエバを残して、スパルタンたちと合流するために、さらにトンネルの奥へと走った。

 エバに駆け寄るハンター。

「おい、大丈夫かエバ?」

 エバは被弾していたが、少しだけ意識があった。

「ハンターさん」

「撃たれたのか?」

「わたしは平気です。でも、あいつら中性子爆弾を」

「知ってるのか?」

「ええ。ここまで連れてこられました。あいつらこの鉱脈の出口を知っています。地図を持っていて」

「あいつらはとても危険な奴らだ。この島を人が住めないようにしようとしてやがる。何としても止めねば!」

 その時、別のトンネルからウォーターが姿を現わした。ショットガンを両手で持ち、構えていた。

「おい、落ち着けよ。俺だ!」

 ハンターはウォーターに声をかけた。

「ハンターさん、あいつは?」

「奥に逃げたよ。それより俺はエバを連れてここを戻る。連中を追いかけてくれないか?」

 エバの姿にウォーターはすぐに状況を理解した。彼女は危険な状態だった。

「わかりました。俺が奴らを追います。何か忠告は?」

「ああ、あいつら中性子爆弾を見つけようとしている。いや、もう見つけているかもしれん。絶対に阻止してくれ。頼む!」

「わかりました」

 ウォーターはそのままトンネルの奥へと進んだ。


 


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