秘密のエステサロン
クルクラムの種子から精製したオイルに、ラミアの卵とザロクの花の花粉を混ぜた特製のアロマオイルをたっぷり使っていいを磨き上げていく
クルクラムはクヌギの様な実がなる常緑低木で、その種子から取れるオイルは肌の浸透率と保湿効果が高いため、美容製品として広く流通している
しかし、カラが硬く加工が難しいので値段はピンキリ
木自体は暑さには弱いが寒さに強く、あまり場所を選ばず、どこでも育ち実をつける
産業として取り扱っている地域もあるし、自家製している者もいるくらいだ
もちろん今回使用しているのは生産しているものの中から選別し、より良い実だけを低温、低圧力で時間をかけて丁寧に絞り、時間経過による酸化を防ぐための術式を施された硝子に保存されている、最上のもの
そのオイルに様々なものを混ぜて出来上がった、飯田専用のマッサージ用アロマオイルなのだ
ザロクは青い小さい花が咲く
花びらは香料や染料としても使われており、花粉には女性ホルモンを活発化させる成分が入っているため、使用することによってより女性らしいボディに近づけてくれる
花が小さいので量を集めるのは大変な作業だが、森の浅いところにも生えているため、常時買取クエストとして冒険者たちが回収してくる
どちらもある程度お金を積めば良いものが手に入る
そこまで珍しい物ではない
このオイルのメインとなる素材は何と言ってもラミアの卵
ラミアとは上半身が女、下半身が蛇の魔物で若い男の生き血をすすり、子供の肉を好んで食べる
ラミアは魔力が溜まると卵産み子孫を増やすため、メスしかいない
そのバレーボールほどの大きさの卵1には魔力と現代でいうプラセンタやコラーゲン、コエンザイム、ヒアルロン酸、レチノール等の美容成分が高純度に含まれている
食べてよし、塗ってよしの天然サプリメント
希少な事もそうだが、その効力は女性を虜にし、金貨を積み上げる者は後を絶たない
ラミアは群れを作り行動をする
産卵期などは特段ないが、1年に1度卵を産む
群れのボスは他のラミアとは違い、数年に1度
しかもある程度群れが成長していないと産まない
ボスの卵からは群れの主人たる資質を持ったラミアが生まれてくるのだ
通常の卵の数倍の価値があるボスラミアの卵を得ることができれば、一生遊んで暮らせる金が手に入るだろうと言われている
普通のラミアの卵でさえ庶民には手が届かないほど高価なもの
そんなラミアの卵を惜しみなく使って飯田を磨き上げていく
ポーシャウのエンセ商会では超VIPにしか売らない品がいくつかある
ラミアの卵もそのうちの1つ
秘密裏にラミアの飼育をしているので、安定して卵を出荷できるのだ
決して安いものではないが数年先まで予約で埋まっている
ボスラミアの卵は闇オークションの目玉商品として並べられていた
群れを大きくしなければボスは卵を産まないと思われていたが、安定的にエサを与え、肥え太らすことによって、天然物には劣るが卵を産むことがわかっている
安定的にエサを与えることができるのは、一重にエンセ商会の財力と人脈の賜物
ポーシャウにとってラミアは金の卵を産むアヒルのようなものだ
卵だけでなく、その素材も大変価値がある
そして奴隷や孤児はラミアの貴重なエサであった
教主という立場は孤児を集めるのにとても都合が良かった
多産な獣人の奴隷は特に重宝した
見目麗しい獣人の女を見つけては攫い、娼館で働かせ孕ませて、エサとなる子供を量産した
誰も、ほんの少しも疑っていなかった
表の顔が強力に輝き、闇はより一層深く濃いものとなっていた
飯田はクルクラムオイル、ザロク、ラミアについての一般的な説明を聞き流しながら、至福の時を過ごした
ジュリアのことを王子や斉藤のことを誘惑するいけすかない女として敵視していた飯田だが、少しだけその考えを改めた
美の追求に対する意識が高く、この何も無い世界でこれほどのものを創り上げる執念は賞賛に値する、と飯田は思ったのだ
VIPの上の対応を受けることができるのは慈愛の姫巫女の許可が下りた者のみ
エンセ商会の潤沢な資金による、材料の豊富さ、ジュリアの知識、人脈と、通うと彼女の様な美しさを手に入れられるという口コミが相まって、西の街にあるエステサロンは大繁盛している
全ての工程を終えて、お茶請けに出てきたラミアの卵を使った焼き菓子を食べて、ティータイムを楽しんだ
自分の肌を滑る指の感触にうっとりする
「はぁ〜し、あ、わ、せ…。」
(なんて優雅な時間なんでしょう。こんな日がずっと続くなら、帰らなくてもいいなぁ〜。それにしてもラミアの卵ってスゴイ!美味しいし美容にもいいなんて!ラミアに食べられちゃった人たちはアンラッキーよね〜。こんなに美味しいものを食べずに死んじゃったんだもん。)
「まぁでも、当然よね!」
(アイリの口に入ることを感謝するといいわ!)