取らぬ狸の皮算用
アミュレットを握り、女神への祈りをささげる
朝と夜の祈り
これだけはジュリアが毎日欠かさず日課として行うように、身体に叩き込ませている事だった
握りしめた紫色の宝珠が鈍く輝き、身体に残る異物と頭の中の靄の様な物を取り除いていく
姫巫女という立場は甘い砂糖菓子の様なもので、それに群がる蟻は後を絶たない
ジュリアを退け自分が姫巫女になろうとする者
毒を盛っておきながら、解毒をして恩を売ろうとする者
単純にジュリア自身が目当ての者
様々だった
このアミュレットが何度もジュリアを危機から救ってくれているのだ
ジュリアはこの状況を楽しんでいた
毒で自分を殺したとして、その者は姫巫女に選ばれるのだろうか?
その娘も自分と同じく特別なのだろうか?
もかしたら、自分が姫巫女を引退しても
…女神の声は聞こえるのではないか?
(もう少しで、分りそうな気がするのよねぇ。)
ジュリアは無意味だとわかっていながらアミュレットを握り、祈った
巫女たちはそれぞれアミュレットを持っている
毎日の祈りの時に使うのだ
特段意味はない
祭壇や女神の像がなくても、アミュレットを見て女神様を、聖地を思い出し祈るのだ
ポーシャウもジュリアのアミュレットに高い呪解の付与がされていることを知らない
***
「おまたせ〜。」
「どないでした?その様子やと上手いこといったんちゃいます?」
「もちろん大満足して帰っていったわぁ〜。あの様子だとまたすぐ来るわね〜。」
「王子をたらし込むなんて、さすがでんな!将来安泰やで。」
「やぁーだぁ、ポーちゃん冗談きついわぁ私御正室とか無理よぉ。しかもあんな小国。絶対きついわぁ〜。」
「そやかて王妃でっせ?」
「だぁってぇ、絶対男の子産まないといけないし、国母としての義務とか、権力闘争とか?今更お勉強とか面倒じゃなーい。遊びに行けなくなっちゃうわぁ。」
心底嫌そうにするジュリアに、ポーシャウはやれやれと呆れながら話題を変えることにした
「左様でっか。まぁ正気そうでなによりでんな。王子はん、魅了スキル使わんかったん?」
「まさか!容赦ないくらい使ってきたわよう。」
「何やて?!鬼畜王子め!ほんまに身体は大丈夫でっか?!」
「ええ、大丈夫。姫巫女をナメてはダメよぉ。呪解に手間取ったけど何とかなったわぁ。でもおかげで、面白い事が分かったの。ふふふっ知りたい〜?」
「全く、無茶せんといてーな。肝が冷えよる。」
ポーシャウは教主であるが心は商人だ
海千山千
長年の腹の探り合い
情にほだされたりしない
しかし、ジュリアのことは気に入っている
娘のいないポーシャウは、養子にしてもいいと思うくらいの情がある
自分が後20歳若ければ、と思うこともある
しかし今の年齢だからこその経済力と人脈、そして教主の地位があるのだ
ポーシャウにとってちょうど良い距離感だった
もちろん商人としての打算的な考えもあるし、ジュリアの事情を知っていなければ、また話は違っていた
ジュリアという娘の手腕と心意気を買っている
2人でなら聖国を牛耳れるのでは
という淡い期待を、彼女は抱かせてくれるのだ
「ほいで?何ですのん?おもろい話教えてぇな。」
「彼ら、どうやら勇者の卵じゃないらしいの。巻き込まれてしまった異世界人なんですってぇ。」
「何やて?!!ホンマでっか?!」
「ほんまほんまぁ〜。」
聞いて驚け!
と言わんばかりのドヤ顔で語られた事に対して、期待通りの反応を見せてくれたポーシャウに、ジュリアは満足げに頷いた
くすくすと鈴が鳴る様に笑う彼女にポーシャウは渋い顔を返した
「どーりで、人数が多いわけや。ほんまの勇者はんは4人だけっちゅーことやな。」
「あら、その顔はもしかしてある程度わかってたの?」
「やぁー、わいがこないだ仕入れた話によると、大司祭のとこのもんが見たときはステータスに分からんとこがあったらしいんですわ。勇者はんやからと思うとりましたが、みられたらまずいもんがあったっちゅーことでんな。ふむ…。」
「そうなの?王子様は巻き込まれた方も勇者として、試練に出すそうよ〜。もしばれたとしても4人も箔がつくし、スキルは良いみたいだし、正式に勇者ではないにしろ頑張れば英雄にはなれるでしょう?他国にはそのことは黙って売り払っちゃうんですって〜。鬼畜よねぇ〜。」
「ほう!そりゃ買いや!!4人全員できれば欲しいでんな!!」
「あら、4人ともなのー?私的には錬金術師の彼が好みよぉ〜?」
「わいが思うに、ステータス伏せはるのは王子の指示やのーて、4人の中に隠匿のスキル持ちがおんのや。ブリリアント王国に鑑定できるもんはおらへんやろし、そこまで頭が回るとも思えへん。召喚された時に隠しよったんやな。ほんで自分らは巻き込まれただけやって王国に報告したんや。」
「なるほどね〜。それでばれた時のために、ステータスを一部隠匿しているのね〜!賢いわぁ。」
「っということは、や。ステータスを視れるって知っとったっちゅーことや。」
「そうね?」
「鑑定のスキル持ちがおるで!」
「なるほどね〜!さすがポーちゃん!鑑定持ちは大司祭のおじーちゃんに取られちゃったものねぇ。」
「そや!あれ程悔しい思いをしたんは久々やった。せやけど、今回のこれはわいらだけが知ってる情報や。上手いこと使わなな!」
「そうね〜。探りを入れて、細かく視ていきましょう。」
「忙しくなるで!北に行く前に全員に会うてみらんとな!」
夜も更けて闇が欲望を静かに隠す
都合よく彼らを絡め取る算段をし、取らぬ狸の皮算用は続く