堕ちていく
囁きの樹海へと続く街道沿いのとある街の商人の館
商人の館といっても、貴族のそれと同じといっても過言ではないくらい立派な屋敷
広い庭と敷地
貴族の屋敷と違い出入りは激しく、つい先日も沢山の馬車が屋敷の門をくぐった
続々と商品が届けられ、また出て行く
そんなこの屋敷には大きな倉庫が存在する
そしてその地下には今、男女合わせて数十人ものエルフが捉えられていた
もちろん、あの集落にはもっと多くのエルフが住んでいた
ここにいるほとんどは女と子供
エルフの子供は大変珍しく、男女問わず連れて来られていた
全ては魔力を封じられ、その身を拘束されているが、他の奴隷たちより食事も良く、寝床も清潔で高待遇だった
そんな倉庫と言う名の牢獄を見下ろせる一室で、この館の主人とその客人はグラスを傾けていた
「えらい大量でんな!首輪が足りんくて、嬉しい悲鳴ですわ!ほんでも、こちらで捌いてええんでっか?」
「構いません。面倒な末端の手続きは得手不得手がありますのでお任せします。」
「あんさんの亜人嫌いも徹底してまんなぁ。」
この様な場で、不用意に名前を呼んだりはしない
いくら目を塞ぎ、耳を塞ぎ、自由を奪っても何処かで生じた綻びにより、足元をすくわれる
この2人にはその様な迂闊さはなかった
「ほんなら支払いは手筈通りに。ぎょうさん儲けさせてもらいましょ!」
「では失礼す。」
「ほい、まいどおおきに。」
この館の主人、小太りの狸親父と、出ていった客、神経質そうな狐顏の男は現在協力関係にあるが、本来なら消して手を取り合うことはない
今回は共通の目的があり、それぞれの利益があったため一時的に手を組んだだけだった
客が帰った後、主人はグラスを傾けながら部下からの報告を聞いていた
「ほいで、どない?」
「抜かりなく。」
「御主人様、首輪と現物の数が異なりますが確認おねがい致します。」
「それやったら、問題あらへん。あちらさんの都合や。」
(とは言うたものの、褒美でエルフを与えるやなんて、えらい太っ腹でんな〜。それやったらもう少し融通きかしてくれてもええやろに。ダークエルフもおったっちゅー話やっ…あぁもったいない!)
見てない商品の方がいい者だったかもしれないという思いと、仕入れ値が少々高くついた事に対して、少々悔やまれた
「まぁ、損する気ぃは全然おまへんけどな!」
気を取り直して、先ほどの客の言葉を思い返した
今後、継続的に仕入れられる様なニュアンスではなかったろうか?
狸親父はふむ、と呟き今後について思案した
***
どこぞの屋敷で化かし合いが行われている頃、とある宿の一室
対して広くはないが、家具などもあるセミスイート仕様の部屋だ
アレクサンダー王子は飯田の部屋へ訪れていた
当然対面式のソファとテーブルもあるが、王子は飯田の横に座っていた
肩が触れ合う様な距離だ
「アイリ、大事ないか?此度の遠征はそなたのような可憐な乙女には辛かったであろう?」
「王子…。」
「アレクだ。2人きりの時はアレクで良い。」
「アレク、さま?」
(やった!これ、触っちゃっても良いよね!)
「アイリ、今日とっても怖かった。」
飯田は王子にしおらしく、しな垂れた
「アイリが望むなら前線に出ずに、城にいても良いのだぞ?」
「それは…怖いのはヤダけど、アレク様と一緒にいたいです。それに今日アイリ、悪い人たちをいっぱいやっつけていっぱいレベルが上がったの。だから大丈夫!もっともっとアレク様の役に立つです!」
(今回みたいなレベリングなら楽チンよ!基本的に斉藤先輩たちについてくだけだからね!お城に居たらずっと暇だし、練習面倒だし。)
「そうか。無理をさせてすまないな。何か必要なものはあるか?今回の討伐の褒美をとらす。なんでも言ってみろ。」
王子は横に座っている飯田を抱きしめ、頭を撫でた
(キャー!!なにこのご褒美タイム!お風呂入ってて良かった!!ってゆーかもうすでにこれがご褒美です〜!!)
「ご褒美?」
見上げた飯田はアレクサンダーの顔が思いのほか近くて、耳が赤くなる
「そうだ。ご褒美だ。」
王子の甘い囁きが耳をくすぐる
唇ばかりに、目がいってしまい恥ずかしくなって俯いた飯田の顎をとり、上を向かせた
(あっアゴクイ〜!)
王子は飯田の小さな口を、塞いだ
(!!!!)
濡れた音が生々しく、静かな部屋に沈んでいく
「今日はもう遅い。ゆっくり休むといい。」
狭い口内を余すことなく堪能した王子は、飯田の小さな唇をぬぐい、満足した様に微笑んだ
真っ赤になり頷く飯田の額にキスをし、優しくひとなでした後、王子はゆっくりと立ち去って行ったのだった
(キャァーーー!!!!!)
数分後、我に返った飯田は声なき奇声を発し身悶えるのであった
書いてて自分のテンションも落ちていくm(._.)m