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異世界に転職しました  作者: Aries
第5章
85/202

略奪

 





 飯田は目の前に広がる景色をただただ眺めていた


 自分が起こした事に呆然とした


 これが自分の力なのか?


 信じられなかった


 銀世界と氷の彫刻の世界


(きれい…)


 身震いがした


(これがアイリの、力なの?)


 体の震えが毒によるものなのか、寒さによるものなのか、初めて人を殺したからなのか…


 飯田にはよくわからなかった


 頭の中にはレベルアップの祝福の福音(ファンファーレ)が鳴り響いていた


 毒のせいか身体はまだ痺れているが、レベルアップのお陰かだんだんと頭は冴えてきていた


(なんだ、レベルアップ…簡単じゃん。)


「アイリン!!」


「アイリ!大丈夫か?!」


「せんぱい。おうじ。…うっうぇ〜ん。怖かったです〜。」


「まったく、無茶しやがって。」


「アイリ、心配させるな。」


 駆けつけてきた斉藤と王子を見て、飯田はちょっとだけ安堵した


(生きてる…現実、なんだよね?)


「解毒薬でございます。おのみください。」


「うぇにがいぃ。」


 解毒薬の苦味が急速に現実へと思考を引き戻した


 テスカは飯田の足を水で洗いポーションをかけて簡単な手当てをした後、飯田の足元に散らばる木の実を調べて口に入れた


「?」


「やはり。殿下、これはマナベリーでございます。」


「そうか!アイリ、木の実を持って先に撤退して良いぞ。その実は甘く、魔力回復効果もある。ゆっくり休むといい。」


「?!やーです。置いていかないでください!1人にしないで。」


「アイリン、無理しないほうがいいぞ?」


「大丈夫です!一緒に行きます!」


「アイリ、魔力は大丈夫なのか?」


「んー。さっきは魔力操作を失敗しちゃったから、無駄な魔力がいっぱいだったです。ちゃんと集中すればもっと凄いのも後3回はぜんぜんヘーキです!」


 飯田の言葉に斉藤と王子は渋々ながら納得した


 しかし、周囲はゾッとした


 小さな町であれば余裕で滅ぼせる規模の魔法を、無詠唱で放って、ピンピンしてるこの小さな少女が、味方であることを心強いと思う


 味方であるうちは…


「おーい!アイリンは…大丈夫そうだな。ゆいピーは無理っぽい。」


「ゆいピーどうしたんだ?」


「魔力切れだと思う。俺たちをかばうために大規模な結界を、張ってくれたみたい。」


「そうか。」


「うぅ。ゆいピー、ごめん。」


「目ぇ覚ましたら、お礼言いに行こうぜ。とりあえず今は俺たちだけで頑張ろう!」


「ハイです!」


「ルドルフ、隊を2つに分け、待機してる者達と共に先にユイをベースキャンプに戻せ。マナベリーも持っていくと良い。」


「殿下!しかし、こちらが手薄になります!」


「良い。帰りは転移の陣を組む。」


「御意に。」


「案ずるな。なにも正面から突入するわけではない。アイリ、魔法の威力の調整はできるな?」


「もっちろんです!」


「威力はさほど強くなくても良い。そなたを驚かせた御礼だ。大規模な()()()魔法をお見舞いしてやれ。」


「!キャハ!はいです〜!!」


「おっ良いね!まずは矢が放てないように風の中級くらいぶち込みますか。」


 王子の意図を察した小林は、綻びた結界の入り口に向かってまずは突風を浴びせ、穴を広げた


 立て続けに雷の広範囲魔法を叩き込み徐々に近づいて行った


「アイリに怪我させたこと、後悔させてあげるんだから!!」


「ハヤト、早い者勝ちな?」


「おっ良いね。速さは俺の方がまだ勝ってるしな。」


「歯向かう奴らは殺しても構わん!…ただ、やり過ぎぬ様にな。2人とも、後は手筈通りに。」


「りょーかい!」


「わかってますって!」


「?用意はいいです?それじゃあ!いっきまぁーす!!」



 囁きの樹海に響く落雷の音が、強き者の一方的な搾取の始まりを告げた




 ***




 敷き詰められる遺体の山


 数を競い合う様に増えていく


 鳴り止まないファンファーレ


 痺れて動けなくなった者たちを狩るのは容易かった


 力無きものはそのまま捕らえられ、拘束していく


 目隠しをし、口を塞ぎ、身体の自由を奪う


 魔封じの縄で縛り、魔力が使えなくなったエルフの女、子供では屈強な人族の男には勝てない


 抵抗する者には隷属の首輪が嵌められ、自由を奪われた者たちを盾に更なる略奪を推し進める


 そうやって選別し、どんどん出荷していく


 まるで家畜の様に


 言葉を発する者は誰もいなかった


 聞こえるのは嗚咽と苦痛な呻き


 祝福の福音(ファンファーレ)は相変わらずうるさく鳴り響いていた


 ほんの数十分の出来事だった


 残ったのは血の海と死体の山


 そしてその集落には誰も居なくなった





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