略奪
飯田は目の前に広がる景色をただただ眺めていた
自分が起こした事に呆然とした
これが自分の力なのか?
信じられなかった
銀世界と氷の彫刻の世界
(きれい…)
身震いがした
(これがアイリの、力なの?)
体の震えが毒によるものなのか、寒さによるものなのか、初めて人を殺したからなのか…
飯田にはよくわからなかった
頭の中にはレベルアップの祝福の福音が鳴り響いていた
毒のせいか身体はまだ痺れているが、レベルアップのお陰かだんだんと頭は冴えてきていた
(なんだ、レベルアップ…簡単じゃん。)
「アイリン!!」
「アイリ!大丈夫か?!」
「せんぱい。おうじ。…うっうぇ〜ん。怖かったです〜。」
「まったく、無茶しやがって。」
「アイリ、心配させるな。」
駆けつけてきた斉藤と王子を見て、飯田はちょっとだけ安堵した
(生きてる…現実、なんだよね?)
「解毒薬でございます。おのみください。」
「うぇにがいぃ。」
解毒薬の苦味が急速に現実へと思考を引き戻した
テスカは飯田の足を水で洗いポーションをかけて簡単な手当てをした後、飯田の足元に散らばる木の実を調べて口に入れた
「?」
「やはり。殿下、これはマナベリーでございます。」
「そうか!アイリ、木の実を持って先に撤退して良いぞ。その実は甘く、魔力回復効果もある。ゆっくり休むといい。」
「?!やーです。置いていかないでください!1人にしないで。」
「アイリン、無理しないほうがいいぞ?」
「大丈夫です!一緒に行きます!」
「アイリ、魔力は大丈夫なのか?」
「んー。さっきは魔力操作を失敗しちゃったから、無駄な魔力がいっぱいだったです。ちゃんと集中すればもっと凄いのも後3回はぜんぜんヘーキです!」
飯田の言葉に斉藤と王子は渋々ながら納得した
しかし、周囲はゾッとした
小さな町であれば余裕で滅ぼせる規模の魔法を、無詠唱で放って、ピンピンしてるこの小さな少女が、味方であることを心強いと思う
味方であるうちは…
「おーい!アイリンは…大丈夫そうだな。ゆいピーは無理っぽい。」
「ゆいピーどうしたんだ?」
「魔力切れだと思う。俺たちをかばうために大規模な結界を、張ってくれたみたい。」
「そうか。」
「うぅ。ゆいピー、ごめん。」
「目ぇ覚ましたら、お礼言いに行こうぜ。とりあえず今は俺たちだけで頑張ろう!」
「ハイです!」
「ルドルフ、隊を2つに分け、待機してる者達と共に先にユイをベースキャンプに戻せ。マナベリーも持っていくと良い。」
「殿下!しかし、こちらが手薄になります!」
「良い。帰りは転移の陣を組む。」
「御意に。」
「案ずるな。なにも正面から突入するわけではない。アイリ、魔法の威力の調整はできるな?」
「もっちろんです!」
「威力はさほど強くなくても良い。そなたを驚かせた御礼だ。大規模な痺れる魔法をお見舞いしてやれ。」
「!キャハ!はいです〜!!」
「おっ良いね!まずは矢が放てないように風の中級くらいぶち込みますか。」
王子の意図を察した小林は、綻びた結界の入り口に向かってまずは突風を浴びせ、穴を広げた
立て続けに雷の広範囲魔法を叩き込み徐々に近づいて行った
「アイリに怪我させたこと、後悔させてあげるんだから!!」
「ハヤト、早い者勝ちな?」
「おっ良いね。速さは俺の方がまだ勝ってるしな。」
「歯向かう奴らは殺しても構わん!…ただ、やり過ぎぬ様にな。2人とも、後は手筈通りに。」
「りょーかい!」
「わかってますって!」
「?用意はいいです?それじゃあ!いっきまぁーす!!」
囁きの樹海に響く落雷の音が、強き者の一方的な搾取の始まりを告げた
***
敷き詰められる遺体の山
数を競い合う様に増えていく
鳴り止まないファンファーレ
痺れて動けなくなった者たちを狩るのは容易かった
力無きものはそのまま捕らえられ、拘束していく
目隠しをし、口を塞ぎ、身体の自由を奪う
魔封じの縄で縛り、魔力が使えなくなったエルフの女、子供では屈強な人族の男には勝てない
抵抗する者には隷属の首輪が嵌められ、自由を奪われた者たちを盾に更なる略奪を推し進める
そうやって選別し、どんどん出荷していく
まるで家畜の様に
言葉を発する者は誰もいなかった
聞こえるのは嗚咽と苦痛な呻き
祝福の福音は相変わらずうるさく鳴り響いていた
ほんの数十分の出来事だった
残ったのは血の海と死体の山
そしてその集落には誰も居なくなった