襲撃
時は少し遡る
月と太陽が交代を始めたころ
深い森の中を進む集団がいた
先頭を行くのは朝比奈の式神
式神/中型『狛犬』
僅かな光を反射するその姿は凛々しく、神々しい
しかし所々色づいた藍色の模様や仕草のせいか可愛らしさもある
主人の命を受け集団を率いているのだ
朝比奈はそんな姿を誇らしく思いながら操作に集中した
バッテリーはあと僅か
失敗はできない
朝比奈の携帯のバッテリーは、彼女の魔力の余剰分のタンクだ
基本的には式神はそれでやりくりしていた
朝比奈は無意識だったが魔法やスキルは体内魔力を消費しているので、同じ様に体内魔力を使えば充電しなくても式神は出すことができるのだ
しかしこれは朝比奈が召喚勇者であり、魔力が豊富にある彼女ならではの事で、式神の召喚は本来なら彼女のように多種多様に召喚できるわけではない
携帯は一種のアーティファクトとなっていた
よくわからない現象に周囲の戸惑いもあったが『勇者だから』の、一言で片付けてしまった
今はそれどころではなく、囁きの樹海攻略が先決なのだ
その為、携帯の充電は今回のミッションの最重要事項だ
まずは以前見つけた『壁』までの道筋を明確にするため目印をつけていく
樹海の木々は数日おきに位置が変わるため難航したが、周期がわかったあとは容易になった
また、目印をつけた木々がどこに移動したかなどの確認も行った
壁の向こう側の探索は更に難航した
強力な結界が貼ってあったので式神の中型でも入ればすぐに消えてしまった
しかしそこには生物反応が確かにあった
朝比奈のスキル『付与』により式神に『多重結界』『気配感知』『魔力感知』を付け、カスタムポイントも使い強化した為、多少だが情報を入手することができたのだ
携帯の画面を皆で確認できたのも大きい
壁の前までは魔力節約のため自力で突破するのが望ましい
夜明け前からの群行だったが、なんとか朝日が登る前に壁までたどり着くことができた
夜の森に入ることほど恐ろしいものはないが、敵地に襲撃をかけるなら未明か明朝が良い
朝比奈の式神の敵策がなければここまで早くたどり着けてはいなかっただろう
壁の中に続々と入っていく兵士たち
不測の事態に対応するため3分の1は外で待機している
一同はもう1つの結界へとしばらく歩いていた
飯田は特にすることもなくただ周囲を見回しながら歩いていた
自分が注目されないのもあり、この状況に些か飽きていたのだ
足元には見知らぬ木の実がなっていた
(たべれるのかな?)
ふと、そんなことを思い赤い実を摘んでみる
すると茂みのその先に可愛らしい男の子と女の子が木の実を摘んでいた
「ねぇ、これって美味しいの?」
話しかけたら驚いたようで慌てて奥へと消えて行ってしまった
女の子が忘れていった籠の中には木の実がいっぱいだった
驚かせてしまったことに多少の罪悪感が芽生えたが、あんなに狼狽し逃げなくても…と思い飯田は少し不機嫌になった
「おーい。アイリンどうしたんだー?おいてくぞ!」
「あっ待ってください〜。」
突然の出来事だった
「いった!…なにこれ?」
飯田は自分の足を見た
触った手についた生暖かいものがなんなのか、直ぐに理解することができなかった
斉藤の呼びかけに振り向いた飯田の足を一筋の矢が掠めたのだ
「アイリ!走れ!!」
斉藤が叫んだ
しかし鏃に毒が塗ってあったのか、飯田は足が痺れて動けない
しゃがみこんでしまった飯田のすぐ上を、新たな矢が掠める
振り返った飯田の視線の先にはナイフや短剣を持ってこちらに駆け寄る男たちの姿があった
異世界の勇者たちはまだ、対人戦を行った事がないということを失念していたわけではない
しかし、あまりにも優秀な彼らの能力ゆえに、当人たちも含め周囲も慢心していたのだろう
だが4人は純粋な殺気、憎悪の視線に晒されて動きが固まった
人を殺すという行為がどういうものなのか
自覚も心構えもまったくなかった
飯田は向かってくる男と目が合い頭が真っ白になった
奥歯はガクガクと震えてどうしていいかわからず、パニック寸前
「いやっ、来ないで!」
「死ね!!」
(いやっ死にたくない!助けて…たすけて…タスケテ…。)
「こないでー!!!!」
「アイリン!ダメだ!!」
「まずい!伏せろ!!
「結界!!」
飯田の魔法が爆発した
まばゆいほどの光が辺りを埋め尽くし、絶対零度の魔力が草木を臨終した
飯田が無意識に魔法を発動させたのだ
暴発という最悪の方法だった
同じ魔力量で火属性魔法を使っていたなら辺り一面マグマとなって味方まで傷つけていたことだろう
朝比奈が咄嗟に結界を張ったおかげもあり、味方には軽症者しかいない
彼女は普段から氷属性や雷属性を使っていた
氷は水の上位
通常よりも魔力消費が多い
不幸中の幸いだった
それでも周囲は銀世界になってしまった
当然追撃をしようと迫る男たちは氷の彫刻となった
そして男たちの奥
飯田の魔法により結界に綻びができ、囁きの樹海の最奥が顔をのぞかせた




