グレースの心境
何が起こったかわからなかった
狩から帰ったら、庭木は踏み荒らされ家から煙が立ち上っていた
魔物の襲撃にあったのかと思ったけど、そうじゃなかった
人族のエルフ狩
突然奪われた日常
世界を、人族を呪った
だけど幸運な事に自分たちは女神様に助けて頂いた
『人族に復讐したい?』
女神様にそう聞かれた
正直に言うと、激しい怒りが燻っている
だけどそれは人族全てにじゃない
捕まった中には人族の娘もいた
賊の中には同胞もいた
種族は関係なく、良い人もいれば悪い人もいる
そう言う事なんだと思う
家族が殺されたり、嬲られたりしていたらそうは思わなかっただろう
幸い家族は皆無事だった
自分たちは助けて頂いた
その恩を返す
それだけ
女神様には『女神様』とお呼びするのを禁止されてしまった
正体がバレるのでダメなんだそうだ
『グレースさん、歳が変わらないし、友達のように接してくれたら嬉しいな!』
どうすれば良いのだろう?
自分はずっと家族としか話したことがないから、何を話せば良いかわからない
トモダチがなんなのかわからないし
お母さんは『新しい娘ができたみたい!』ってのんきにはしゃいでる
結構図太いからなぁ
子供好きなお母さんは女神様の義弟のクラルス様、義娘のミーティア様にもデレデレだった
シェーンがやきもち焼くくらい
確かにミーティア様はとても可愛いらしい
抱っこさせてもらった
ふわふわで、あったかくて、シェーンが生まれた時のことを少し思い出した
そんなシェーンの適応能力の高さには驚かされる
クラルス様と歳が近いこともあり、直ぐに仲良くなって庭を駆け回ってる
シェーンは弟ができたと言って喜んでた
姉として自分も嬉しい
『グレースねーさま』と、照れながら言うクラルス様はとても可愛い
上目遣いは反則だと思う
双子達は『セレニティ様』と言う発音が難しいのか、早々に諦め、『お嬢』と呼んでた
自分はトモダチがよくわからないとセレニティ様にお伝えしたので、様付けで呼ぶことにしてる
礼儀作法とか知らないから女神様に対する対応がこれで良いのかはよくわからない
女神様本人が良いと言うなら良いんじゃないか?
と、思う
追い追い慣れていこう
と、思ったんだけど…
素晴らしく美味しい食事を頂いた後、風の精霊様にお会いした
なんと、この地に度々降り立ち、小さな精霊様の面倒を見ておられるそうだ
エルフにとって風の精霊様は女神様様の次に崇拝している存在だ
そんな精霊様とお話しできるなんて!!
女神様を慕ってこの地に訪れることになったと仰っていた
女神様…セレニティ様は中々規格外なお方だった
セレニティ様の思う普通と自分たちの普通がかけ離れている
森に篭っていた自分たちが、普通かと言われれば謎だが
人ではなく神だからしょうがないのか?
女神様は人々の些事には疎いのかもしれない
精霊様にご挨拶した後、セレニティ様のお住まいに連れてってもらった
自分たちは外に家を作らせてもらおうと思ってたのに
まるで息をするかのように魔法を使っておられた
数秒後にはとても立派な家が建っていた
普通、家は1日で建たない
お湯が出るお風呂、清潔なお手洗い
キッチンにはよくわからない魔道具がたくさんおいてあった
1人1部屋!
自分だけの部屋!
しかもこんなに広くて綺麗な部屋をもらえるなんて
それだけじゃなく、家具も買ってくださると
慣れていこうと思ったが、次から次へとおこる出来事に気持ちが追いつかない
このようによくして頂いて良いのだろうか?
自分は何か返せるのだろうか?
捕まって奴隷にされた同胞も沢山いるだろう
なのに自分だけ…
耐えられずお母さんに相談したら、セレニティ様と仲良くするように言われた
ただ寄り添って、お互いの気を休めれるように、と
お護りするのではなく仲良く?
恐れ多い
相変わらずお母さんは呑気だな
たしかに、セレニティ様の朗らかなお人柄(神だから神柄なのか?)はとても好ましく、セレニティ様に好かれたいと思う自分がいる
そのために自分にできることをするしかない
セレニティ様は帝国という人族の1番大きな国で武器や防具を買い揃えてくれた
それだけでなく衣類も
服はお母さんが作ってくれる物だと思っていた
てっきり布を買いに行くのだと
仕立て屋の店長はサービスだと言ってハンカチをくれた
買ったのは自分ではなくセレニティ様なのに
とても良いものを頂いた
これはお母さんにお土産にしよう
シェーンにはお菓子を買おう
帰ったらこの弓を慣らそう
弓は義父さんに習った
的に当たるととても褒めてくれた
優しい人だった
いつか義父さんの墓に行けたなら今の自分を見せたい
きっと心配しているだろうから
帝都の人族は優しい人達だった
みんながそうじゃないかもしれないけど
セレニティ様についてきてよかった
女神様
自分たちを助けてくれてありがとうございます
この返しきれないほどのご恩をいつか必ずお返しします
頑張ろう