拉致
「さぁ!さっさと仕事に取り掛かるよ!」
「あれ?ランも一緒に残ってくれたのか?」
「ブレイス!あんた聞いてなかったのかい?まあ良い。あの人間がいないうちに白龍様を連れて帰るよ!」
「なんでだよ?ダヴィーク何やってんだよ?お前もなんとか言えよ!」
セレニティがデボラを案内している間、護衛を申し出た真紅の青年ブレイスは困惑していた、お互いの了承がないのに連れて行くのは、良くない事じゃないのか?それは誘拐なのでは?と
だけどランと呼ばれたラベンダー色の短髪の女とダヴィークという浅黒い肌の青髪の青年は気にせず作業を続ける
「しかもさぁ、デボラ様は黒龍様の弟子であって弟じゃないし、俺たちは龍人族で龍じゃない。あの言い方はあの人間に勘違いされてないか?」
「ブレイス、そもそも何故、下等種が白龍様の世話をしている?あの下等種が黒龍様に取り入って、拐かし、攫ったに違いない。」
「ダヴィークの言う通りさね!デボラ様のご命令に逆らえないさ。とりあえず、アタイたちは言われた仕事をするだけさね。」
「いや、だからって無理やり連れて帰るのか?何をそんなに急いでんだよ?戻ってきたから連れて行っても変わらねーだろ?」
「デボラ様にはデボラ様のお考えがある。我らは従うのみ。あちらの交渉がうまくいけば万事問題ない話だ。黒龍様の龍玉と共にあの下等種が来るのならば、あちらで会えるだろう。」
「そういうもんかぁー?なんか違くないか?うーん」
「ブレイスはうだうだうるさいさね!ヴィクシー、そっちは?」
「私もヴィエラも問題無くてよ。」
「問題なし。準備完了。いつでも転移できる。」
テーブルの横手に魔法陣が敷かれ、中央にミーティアがおり、首には金属の輪っかが嵌められていた
「ブレイス!何やってんだい?もたもたすんじゃないよ!おいてっちまうよ?!」
「ん?ああ、すまん。この箱は置いて行った方がいいかと思ってな。よっと。」
ミーティアが寝ていたベッドを元の机に置きにいってたブレイスが戻ってくる
「何故だ?」
「まぁ、あんな下等種が作った粗末なものなといりませんわ。この子にはもっとふさわしいものを準備してあげましょう。」
「そう。あんなものいらない。」
「ささ、行こう。ブレイスもそんな顔するもんじゃないよ。人間なんかせいぜい生きて60年 。この子が大人になる前に死んじまうよ。それに仲間と一緒がいいに決まってるさ。アンタだって弟妹と離れ離れにされたくないだろ?」
「…ああ。」
「でわ、参りますわ!!」
ヴィクシーは地面に設置した魔道具に魔力を通して術を発動させ、最後まで気乗りしないブレイスと4人はミーティアを連れて行ってしまった
***
リンリンリン
リンリンリン
アラームがなってる
起きなきゃ
「晴海〜はーるーみー!起きなさーい!遅刻するわよ〜!!」
うーん
お母さんもうちょっと〜
「こら!また二度寝して!朝ごはん食べる時間なくなるよ!!お母さんもずっといるわけじゃないんだから!」
はーい
「まったく。いつになったら1人で起きれるのかね、この子は。ほら髪の毛結んであげるからおいで。」
お母さん、私もう子供じゃないんだから〜
「いつまで経ってもお母さんにとってあなたは大事な娘よ。娘が出来たらあなたも朝起きない娘に小言を言う日がくるわよ?それで、髪を結んであげてお母さんと同じこと言って、一緒に笑ってあげて…お母さんもちゃんと見てるわ。」
?…お母さん?
「だからちゃんと守ってあげて?そしてあなた自身もちゃんと守らなきゃダメよ?ママがいなくて悲しい思いをさせないで?あなたをたくさん悲しませたお母さんが偉そうなこと言えないんだけどね。」
お母さん!
そんなことないよ!!
もちろんいなくなった時は寂しかったよ!
凄く、凄く悲しかった
でもそれだけじゃ無い!
楽しかった、嬉しかった思い出がいっぱいある
それがあったから1人でも頑張れた
お母さんがいたから!!
泣かないで?お母さん
そうだ!私、娘が出来たんだよ?
私もお母さんに負けない様な素敵なママになるね!
「そう。楽しそうで良かった。1人で溜め込まないでちゃんと周りに相談するのよ?大丈夫あなたならできるわ。応援してる。なにせお母さんの自慢の娘ですもの…」
お母さん!待って!!
まだ行かないで!
まだ話したいことがいっぱいあるのに!!
お母さんーー!!!
***
パチっ パチっ
「う、う…」
私…体が…なんで…
瓦礫のせいで起き上がれない
あちっ!
パチっ!火の粉が爆ぜてる
ここは…そうだ私!!
ミーティア!!
転移!!!
テーブルの上にいつものベッド
寝てるはずの娘の姿はなく
「ああっあ"あ"あ"ーーーゔあ"〜〜〜〜」
夕暮れ時に悲痛な叫びが木霊する
どこ?
どこなの?!
私の赤ちゃん!!
かえして!!!
許さない
許せない
絶対に許すはずがない
黒く、ドロドロした気持ちが溢れてこぼれ落ちる
石畳を何度も何度も殴ったせいで血が滲んで鉄の匂いがする
クレアさん
私はどのくらい意識が無かった?
あいつらは何処にいった?
私の赤ちゃんは何処なの?
ベッドの中の布団はすでに冷たくなっている
?
何か入ってる?
深紅の…鱗?
「クレアさん!これを、この魔力を追える?」
《可能です。検索に入ります。特定に時間がかかりますので、その間少しおやすみ下さい》
「休んでなんかいられないわ!」
《ですが、休んでいただいた方が処理率が上がります。お体にさわります。ミーティア様を万全の体制でお迎えに上がりましょう。どうぞおやすみ下さい。》
「わかったわ。でもとりあえず先に神殿に行ってくる。留守中誰も入らない様にしないと、あとあいつらの痕跡も探したい。」
《かしこまりました。仰せの通りに。》
***
神殿に戻った私はまず祭壇の間の燻ってた火を消し、瓦礫を粗方片付け、魔法の残餌をさらう
転移の魔道具を使って移動した様だ
クレアさんの情報と統合し検索率を上げる
次に、管理者権限を発令し、入場者を制限
今までの、黒龍が許可した者たちも含めて、全てシャットアウト
改めて、このわたし、MareSerenitatisが許可した者のみ、とし、祈りの祠と封印の地のゲートを一時的に閉じて、結界の範囲を拡大、強化
しばらくは誰も近づけない
宝物庫からはいくつかの武器を調達し、一旦帰宅し検索を待つ
《龍人族は奥地に隠れ住んでいて、人間には見つけられないと慢心しているので大丈夫です》
っとクレアさんは悠長な事を言ってるが落ち着かない
冷静になる様にと注意された
それでも不安な私はお姉様に弱音を送り
クレアさんに言われるがままお風呂に入り、お茶を飲んで一息ついた頃には疲れ果てて寝てしまった
翌朝、自分の図太さに辟易しながら起きると、姉様からの返信を読んで、神の神対応に泣きそうになった
クレアさんの処理もほぼ終わっており、後は現地で微調整するとのこと
さてさて、怒りってマックスになると真っ白になるけど、一旦落ち着いて冷静になると、より腹が立ってくるよね
うん
磨り潰す
誰の娘を拉致したか、思い知らせてやる