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異世界に転職しました  作者: Aries
第3章
55/202

正義の姫巫女

 




 姫巫女達にはそれぞれ仕事が分け与えられており正義の姫巫女エミリーは武器や装備品の調達、管理を行う


 奇数月に行われる討伐演習の準備の総括も彼女だ


 エミリーは書類と共に報告にやってきた女を睨み、退出させた


 エミリーはこの女が嫌いだった


 嫌いだからこそ側に置いていた


 彼女は共和国の男爵家のご令嬢、クシャナ


 エミリーの母親はクシャナの家のメイドだった


 メイドといっても、ご主人様のお世話をする様な上位のメイドではなく、掃除や洗濯などの下働き


 父親は庭師で、一家でお世話になっていた


 自分もいずれは母親の様になる


 そう思っていたのに


 クシャナが9歳の時に聖国行きが決まった


 聖騎士や神官達に迎えられ、総出でお見送りをする為、自分も顔を出した


 そこでエミリーは神官の目に留まってしまったのだ


 クシャナの両親はこれを大いに喜んだ


 愛娘を1人で旅立たせるよりは安心だ、と


 両親は悲しんでいたが、主人の命令に逆らえるわけもなく、エミリーは連れていかれた


 そこにエミリーの意思は1つもなかった


 西の街の教会に預けられ、来る日も来る日も聖魔法の勉強


 エミリーはどちらかというと、外に出て遊ぶのが好きだった


 父親と庭いじりをしては泥だらけになり、母親に怒られた日々を思い出すと涙がでた


 だけど教会には自分と同じような子供達がいて、みんなで学ぶのは楽しかった


 2年経ち、9歳半ばで巫女になった


 両親も誇らしいだろうと周りは祝福してくれたが、憂鬱だった


 リアムに入るとまたクシャナの召使いになってしまうから


 だが、巫女になって挨拶に言った時も、12歳になってクシャナと同じ所属になった時も、特段喜ばれたり有り難がられることもなかった


 エミリーは腹立たしかった


 誰のせいで、自分がここにいるのか!


 何のためにここに来たと思っているのか!


 腹が立って腹が立って仕方がなかった


 14歳の秋、エミリーは正義の姫巫女に選ばれた


 クシャナではなく、自分が選ばれたのだ


 クシャナ様、っといつもお呼びしていたのに


「クシャナのお陰で姫巫女になれたわ。」


 と言った時も顔色1つ変えないこの女が憎たらしかった


 嫁ぎ先を持って来てやった時も


「私の為に有難いですが、もう以前から決められた方がおりますのよ?」


 そんな事も知らなかったの?


 みたいな顔に憤慨した


 せっかく金持ちの変態親父を探して来たのに!


 クシャナは今年の秋に任期を終える


 クシャナはエミリーのことなんて何とも思っていなかった


「あたしの人生をめちゃくちゃにした癖に、自分は幸せんなるなんて許さない!」


 最初はちょっとした嫌がらせだった


 エミリーのわがままはエスカレートしていったが、周りはその要望に全部応えた


 できませんと言わせたいエミリーと、こんなの事も出来ないのか、と思う周囲の巫女達


 周囲の有望さがエミリーとの溝をどんどん深めていった


 次第にエミリーが白と言えば白となり、黒と言えば黒となる様になってしまった


 エミリーは勘違いしていった


 自分はなんて有能なのだろうか


 あたしは正義の姫巫女だ!


 何も間違ってない!


 いつもあたしは正しい!


 だって女神様に選ばれたんだから!!


 エミリーは何処かに何かを置いてきてしまった





 ***





「あ!クシャナ様!探しましたよ!」


「あら?ターニャ様、如何されましたか?」


 廊下を走ってはいけません


 大きな声を出してはいけません


 淑女たるものいつも礼節と慎みを持って行動する事


 これは巫女になって直ぐに教えられる事だが、守らない巫女も多々いる


 彼女もそのうちの1人だ


 いつもドタドタと走り回っている


「サンマリア様からの仕事の件、確認に来ました!すみませんいつも!」


「あら、それでしたらもう節制の姫巫女様に御報告しておりますよ?此方の書類で不備でお手数お掛けして申し訳ございませんでした。」


 首を傾げて、はて?っと考える


(この方はそれをサンマリア様に確認せず此方に来たのかしら?)


「えー?!そうなんですか?!先程お会いした時は何も!って、その書類は次の討伐演習のやつですよね?!私も確認したのに…。申し訳ないです。」


「いえ、此方のミスですので、お気になさらないでください。ターニャ様もいつもお忙しいし、大変ですわね。」


「いえ!サンマリア様はやればできる方なんです!決していつもダラダラしてる訳ではなくてですね。」


 ダラダラしていても仕事はキッチリ終わらせている節制の姫巫女と、自分達の所属の正義の姫巫女とを比べてもサンマリアが優秀なのはわかりきっている


 クシャナは、それに気づかずに色々な仕事を仕込まれながら、振り回されてるターニャが大変だという意味で言ったのだが、等の本人は気づいていなかった


(サンマリア様もご苦労なさってますのね。)


 クシャナは今年の秋に任期を終えて、一旦共和国にある実家へ戻る


 聖国に帰化した巫女たちは貴族の場合、養子縁組をして貴族に戻ることが多い


 クシャナの婚約者は共和国の副司祭


 彼も共和国の出身で、最近まで討伐演習や巡業を一緒に回った武闘派の聖職者だ


 子爵家の三男であったため、共和国にいた時に顔を合わせたことがあった


 それが話のきっかけだった


 昨年の秋に婚約が決まり、今春には副司祭に出世し、一足先に共和国に戻った


 実は2人は恋愛結婚なのだ


 大司教様は色恋の話が大好きで、2人でこっそりと相談しに行ったら、色々と便宜を図って頂いた


 お互いの身分も申し分ないし、聖国で婚約をしてから戻るので、共和国でもなんの障害もない


 なにせ大司教様のお墨付きだから


 共和国は2人を養子縁組で実家に戻し、その子供を自国の国民とするぐらいしか、彼らを縛る方法はないのだ


 そうやって大司教は自分の派閥を形成する


 クシャナの様な者達は定期的に自国の情報を聖国に送り、大司教はそれを元に情勢を見極める


 いつの世も情報が物をいう


(みんな自分のために動き、自分の幸せの為に生きている。エミリーも、もっと自分の為に生きたらいいのに…)


 クシャナは自分のせいで聖国に連れてこられた、幼いエミリーの事を不憫に思っていた


 だが、エミリーが9歳の時に巫女になったと挨拶に来た時、意外と良かったのかな、と勘違いしてしまったのだ


 巫女になりたくなくて、家に帰りたかったなら、中級聖魔法を習得しなければ良いだけの話しなのだ


 確かに中級まで習得すると職が開ける


 成人までに習得できれば十分だろう


 それなのに巫女になり、自分に挨拶に来た


 姫巫女になってからはお礼まで言われた


 エミリーの事を、特段何とも思ってなかったが、感謝されてるなら良かった


 結婚を控えた幸せな乙女の心には、他者の事を深く考える隙間はなかった


 そんなエミリーとクシャナのボタンの掛け違いは、掛け直される事はないだろう






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