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異世界に転職しました  作者: Aries
第3章
51/202

節制の姫巫女

 




「サンマリア様!サンマリア様!!寝てても仕事は終わりませんよ?!」


「えー大丈夫だよーそのうち終わるからぁ。後5分。うーん。むにゃむにゃ。」


「終わるわけないでしょう!ああぁ!!書類に涎が!!只でさえ正義の姫巫女様の経費がかさんでるせいで、勇者様関連の書類作成が遅れてると言うのに!!!」


 ガクガクと揺さぶられ渋々顔をあげた


「もー、ターニャうるさい。これはダメ。ばっちいぽいして。この案件はぁマデレント君に、その案件はエラに、後のはクシャナに任せてる〜。」


「サンマリア様また仕事を押し付けたんですか?!」


「それはボツだからいらにゃーい。」


「あー!せっかく作った書類が!!」


「ターニャうるさい〜やりたいって言うから〜変わってあげただけぇ〜。ぐぅ〜。」


「寝ないで下さい!!確認してきますので、帰って来るまでにそれ終わらせといて下さいね!!」


「ぐぅ〜。」


 サンマリアの所には色々な書類が寄せられてくる


 姫巫女達は節制、知恵、慈愛が内政


 勇気、正義、信仰が外政と分かれていて、各部署の巫女達を取りまとめている


 内政担当は主に、経費の管理、巫女の教育、農作物や食品、嗜好品の管理


 外政担当は外交、情報収集、各地を巡り布教活動、聖騎士団と共に魔物の討伐も請け負う


 各地から集められた女性達は、様々な勉強をし、更なる聖魔法の習得に励む


 勿論、身の回りの事は自分で出来るように仕込まれる


 12歳からは正式に巫女として仕事を始める


 ここで、ある程度の希望も優先されるのだが、それぞれの特技によって6つの部署に別れるのだ


 節制の姫巫女サンマリアの担当は経費の管理


 巫女たちが使う備品や衣食住にかかるお金の全てはサンマリアが握っているのだ


 何かと誘惑の多い地位でもある


 真面目、潔癖なイメージの部署だが、今代の節制の姫巫女は、いつも退屈そうで、怠そうで、寝てばかりいる不真面目な態度で、馬鹿にされたり蔑ろにされがちだ


 しかしそういった周囲の反応はサンマリアにとって都合が良かった


 敵味方のあぶり出しが楽だから


 経費に関しては、各部署、各担当1人で決定することができないような仕組みにしている


 お互いがお互いを精査しミスと不正を防ぐのである


 サンマリアはサボるフリをしてどんどん他の者達に仕事を振っているので、皆とても忙しく働いている


 忙しさは各自の成長に繋がるし、余計なことを考えなくて済む


 人為的ミスなら処罰はそこまで重くないが、女神様の元に集まってきた金品を着服すれば、それ相応の報いを受けなければならない


 そんな事は起きない方がいいに決まってる


 仕事に誇りとやり甲斐を感じてくれたら


 サンマリアはそう思っていた


 ドタバタと出ていったターニャから言われた書類に目を通し、外をボーッと眺める


 いい天気だった


(外で昼寝でもしたいな)


 1人の女性が入ってきたので思考は中断された


「クスクス。またターニャをからかって遊んでるんですか?」


「君か…。面白いじゃん?ターニャをからかうぐらいしか吐き出し口が無いからね〜。こっちはやりたくもない姫巫女やってんだから大目に見てちょ。それで?爺さんはなんて?」


「そんな事言って、ターニャに人を使うことを覚えて欲しいだけでしょ?ふふふっ。それで、卵についてですが、ステータスに一部不明瞭な部分があり、全ては確認できなかったので理由を探れ、だそうです。」


「無茶言う〜。」


「後は、南に紐付けされていなければ、懐に入り込むこと。味方に引き入れればなお良いっとの事でした。」


「めんどくさっ!!」


 大司教付きの諜報員


 元暗部


 時には情報を巫女達に流し、時にはワザとミスをし…


 聖女様をお守りするのが役目


 それが節制の姫巫女サンマリアの裏の顔である


 サンマリアは女神を信じていなかった


 いや、女神教をっと言うのが正しいだろう


 両親に小さい頃から体術、剣術、毒に関する知識、魔法、貴族としての身のこなしなど暗部として動く為の様々な事を仕込まれていた彼女に、聖属性の適正があるとわかったのは7歳の時だった


 そこからは来る日も来る日も聖魔法の習得に励み、中級の魔法を獲得したのは10歳になる少し前


 そうして彼女は聖国に訪れた


 聖国には秘密が多い


 探りたいが、敵に回すと厄介だ


 正規のルートで入るのが最も安全なのだ


 彼女は聖国で普通の女の子として暮らした


 情報はそう頻繁に送れるものじゃないし、下っ端の彼女が得られる情報は微々たるものだったが、下級貴族の身分を与えられていたので、たまに手紙を送るくらいはした


 12歳になり節制の姫巫女の部署に配属された


 金の流れを追えば色々なことが見えてくる


 その程度で選んだ


 また、12歳になると正式に巫女として仕事をする為、頻繁にではないが東西南北の街に行くことができるので、情報を流しやすくなるだろう


 そして12歳からは儀式の手伝いができる


 儀式で何が行われるのか?


 それはわかっていなかった


 儀式に参加できるのは


 聖女と姫巫女、巫女を合わせて約40名


 大司教、教主、司祭長ら、約20名


 聖騎士団が約20名


 狭き門である


 下っ端が参加できるのは聖女が変わる時の儀式と、所属している姫巫女の代替わりの時


 彼女が儀式に参加できるようになったのは13歳の春だった


 節制の巫女様が18歳になるので代替わりの儀式が行われるのだ


 代替わりの儀式は17歳になった後の春か秋に行われる


 同じように18を迎える巫女達と共に旅立つのだ


 そこで彼女は初めて聖女を見た


 下を向いていないといけなかったのに、顔を上げてしまったのは、声をかけられたような気がしたから


 自分と同じくらいの杖を持った少女


 目が見えないという話は聞いていたが、何故か目があった気がした


 にっこり微笑んでいた姿が聖女そのものだと思った


 隣の節制の姫巫女も自分を見て微笑んでいた


 目立たず、誰の印象にも残らないように気をつけていたのに、これはマズイ…


 殆どの視線が自分に来ているのがわかる


 彼女は気づいていなかったが、読み書き計算がとても早く尚且つ正確で、字も美しいと高評価だった


 それでいて剣術や体術の鍛錬も怠らない


 真面目で勤勉なお手本のような巫女だと


 たまにサボって気を抜いていたり、外で日向ぼっこしたり、昼寝をしてるようだが、年相応の可愛らしさがあって良い


 後に、儀式で自分が節制の姫巫女に選ばれたと教えられた


 そんなはずはない、たまたま声が聞こえて顔を上げただけだと反論をしたが、通らなかった


 姫巫女は女神がお選びになる


 声をかけたのは女神で、他の者には聞こえてなかった


 だから自分だけ顔を上げた


 信じられなかった


 そもそも女神など信じていなかった


 だが、聖女達には、はっきりと聞こえたらしい


 まぁ動きやすくなるから良いか、と割り切る事にしたのだが、その後の大司教と聖女からのお呼び出しがあった


 諜報員の事がバレていた


 どうやら観念するしかないらしい


 処分のため、この様な茶番を演じて自分を呼び出したのかと観念したが、違ったようだ


 大司教に鞍替えして欲しいと言われ驚いた


 そもそも姫巫女は帰化しないといけないので、国というしがらみは無くなる


 女神様が直接お選びになったのだからその方が良い、と


 話に乗ったのは、なんとなく


 面白そうだったから


 聖女の核心があると言う言葉に興味があったから


 女神などいないと思っていた自分に女神が声をかけた事が愉快だったから


 そうして少女は新しい名前と新しい居場所をもらった


 諜報員リアは節制の姫巫女サンマリアになった




 それにしても…


『もふもふ。』ってなんだかなぁ〜












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