穏やかな日の訪問者
いつもの花畑で穏やかな時間を過ごしていたら湖の方から急なお客様が現れた
神殿を通ってきたのかしら?
黒い神官のような服装の集団だった
私の許可なくここには入れないのになぜ?
先頭にいるのは、紫の上下セットアップ、黒地にゴテゴテの飾りをつけたローブを羽織り、金ピカに装飾されたステッキを持った、小太りのおじさん
所々まだらな紫色の髪が毒キノコみたいで気持ち悪い感じ
そこに本当にキノコみたいに2本の角が生えてる
隣の人は濃い赤髪で背が高く、筋骨隆々、背中に…羽?
「貴様何奴だ!?何故ここに下等種がいる?!」
赤マッチョが大声を上げる
人の家に上がり込んで、何故ここに?!って言われてもなぁ
「私はここの管理を任されたものです、ここは関係者以外立入禁止区域ですのですが、どういったご用件で?」
「不敬であるぞ!こちらのお方は偉大なる黒様の弟君。紫のデボラ様である!!」
小太りおじさんはスッと手をあげて赤マッチョを制すとまじまじと全身を舐め回すような視線を向けてきた
「部下が驚かせてすまなかったの、お嬢さん。我輩はデボラ。姉君の弔いと可愛い姪を抱きに来たのだが宜しいかな?」
「こちらの管理を任されております。セレニティと申します。」
下手にこられるとこちらも突っぱね辛い
全体的に嫌な感じがするけど無碍にできない
なぜミーティアの存在を知っている?
切り株チェアに誘導し、座ってもらった
デボラの隣には、幼い女の子が2人座り、ほかの者たちは後ろに立ってるので、とりあえず3人分のお茶を亜空間から出した
「すまんの。これは我輩の孫娘でな、どうしてもついて行きたいとごねられての。中々優秀なこらで、見聞のため連れて回っておる。」
紹介された2人はどちらも同じ顔をしていて、ストレートヘアの子はやや青みがかった紫の髪をハーフアップにしている
綺麗な顔をしているが、表情が乏しいせいか、冷たそうな印象
もう1人の紫の巻き毛の子はふんっと鼻で笑って髪をかきあげた
「して、早速でわるいが…姉上の最後はどうだった?」
嫌味な笑顔に若干の違和感がある
そもそも黒龍は弟がいるなんて一言も聞いてないし、デボラからは姉が死んだ悲しみなどが感じられない
話したくないのもある
「おしじ様、先に姪御様に会う。その方が話し早い。生まれた時のことも聞きたい。」
「そうですわ!下等種!グズグズしてないで早く連れて来なさいよ!」
生意気な
こんなのでも黒龍の家族
せっかく会いに来たのだし、と自分を納得させる
「そうだの。姉上から身ごもったと聞いて待ちわびておったんだの。」
「…ティアよ」
ベビーベットを引き寄せてテーブルの上に置き、結界をとく
「ブ、白だと?!」
デボラが驚愕顔をしてる
顎が外れそうだわ
お供の人たちもとても驚いてざわざわしだす
「綺麗〜!!」
「すごい。初めて見た!」
子供たちはしゃいでる
子供らしい表情もできるじゃない
「こら!お主ら不敬であるぞ!軽々しく触ってはいかん!」
騒がしかったからか、ミーティアは目を覚ましてしまった
ミルミルタイムかな?
「ちょっと!それ!寄越しなさい!私があげるわ!!さあティア飲んで良いわよ!!」
「ダメ、それは私がやる!」
ミルミルを取り上げた子供たちは言い争いながら飲ませようとするけど2人の手からミルミルを飲もうとしなかった
「なによ!全然飲まないじゃない!」
あれ?お腹いっぱいなのかな?
ミーティアが全然ミルミルを飲まなくて、飽きたのか、私の手元にミルミルは戻ってきた
子供らの過剰なスキンシップを受けてるミーティアを取り上げて撫でてると、きゅいきゅい言って指をはむはむ甘噛みしてきたので、もう一度ミルミルをあげた
私の手からしか飲まないなんてお利口さん
すごく嬉しい
その時、私はポカポカした気持ちになり、自分に向けられる憎悪の視線に気づかなかった
「そろそろ姉君のところへ行くとするか」
そう言ってデボラは立ち上がったが
「おしじ様、私たちはこちらでまってますわ」
「長旅でつかれたのかね?」
「ティアと待ってる。仲良くなりたい。ティアと遊びたい」
「ふむ。しょうがないのぅ。我輩ら一族はあまり子供がおらんくての、その子らも自分より下のこは初めてなんじゃ。妹分が出来て嬉しいんじゃろ。許してやってくれんか?」
「ですが…子供だけ残して行くのは心配です」
それにあんまり仲良くなってほしくないし
「でしたら、俺が残りましょう!大丈夫です!鍛えてありますので!」
やんわりとお断りしたら、燃える様な深紅の髪の青年からニカッと眩しい笑顔で返答された
ううぅ断り辛い
「そんなに心配ならさっさと行って帰ってきなさいよ!本当に下等種って愚図ね!」
「ははは。しょうがあるまい。我輩らとは比べようがない。お主も心配しすぎだこの地で我らに刃向かうものなどおらぬ。さ、さっ2人とも言いつけを守って良い子にするのだ。それでは参ろう。」
デボラは部下に目配せをして、何か指示を出しずんずん歩いて行く
私は何度か振り返ったけど、深紅の青年が手を振るだけだった
***
さっさと終わらせて戻りたいのでだいぶ巻き気味で黒龍の元へ移動した
「こちらです。」
黒龍の体は祭壇横の空間に弔ってあり、石碑を建てている
「ふむ、龍玉はどこかの?」
「龍玉?」
「心配せずとも悪いようにはせん。なーに、姉上も里帰り出来て喜ばれるだろう。」
はてさて龍玉とはなんだろう?
クレアさんにこっそり聞いてみようかしら
「デボラ様、下等種は龍玉が分からぬのではないでしょうか?」
「なるほど!我輩としたことがつい忘れておったわ!下等種であったな、ガハハハ!良い、説明してやれ」
赤毛マッチの横の青毛マッチョが説明してくれるらしい
「よく聞け、下等種。龍玉とは龍の体内にある宝玉だ。下等種などには分からぬだろうが、死を迎えても土には戻らぬ至高の存在。偉大なる黒龍様の力が宿る龍玉を我らは故郷に、我らの地に持ち帰る。」
ふむ
龍玉か…
だけど、黒龍の体はまだ朽ちていない
そもそも、持ってたとしてもこいつらにあげるはずがない
黒龍の言い忘れか?
「下等種の娘よ、どうした?理解できぬか?」
「いえ、黒龍様の指示と違ったので少し戸惑っております。そして私は龍玉を見たことがございませんので、どの様なものかわかりかねます。」
「やはり下等種、理解できぬ様だな。」
取り巻きたちから口々に嘲りの言葉が出てくる
「よいよい、しょうがないことじゃ。さて、姉君の体はどこかの?ご遺体ごと頂いて行くとしようかの。」
「ご遺体をですか?…致しかねます。彼女はここに眠ることを望みました。それを邪魔して、墓を暴く様な野蛮な行為は許されません。ご家族といえど、許容できません。どうぞお引き取りください。」
「何を無礼な!」
「まさか貴様!我らの龍玉を奪う気だな!!」
何を言ってるんだろうこの人たちは
「奪うも何も、龍玉は貴方がたのものではありません!」
「くっ!我輩は黒龍様の弟ぞ!下等種なんぞに!大人しくしておれば良いものを。出さぬというなら力強くで持ち帰るまでよの。まさか我ら龍族に勝てると思うてか?」
どんなに罵詈雑言浴びせられても引けない
引くわけがない
こんな輩に彼女の死を冒涜されたくない
赤マッチョと青マッチョ含む取り巻きたちに囲まれてしまった
初めての対人戦
内心凄く緊張してる
なるべく殺さないように注意しなきゃ
「抵抗しない方が良いのう。その方が白龍様も無事にすむ」
「なっ!まさか!?」
急いで探知をかけるが、何かの魔法の発動が微かに感じられただけだった
バギンッ!ズドーーン!!
しまった!っと思った時にはもう遅かった
背後からの襲撃を避けきれず横腹を殴られ、思いっきり突き飛ばされ壁にめり込む
「グルァーーー!!」
トドメのブレス
爆発音とともに瓦礫の下敷きになってしまった
視界がブレる
やばい
ダメ!今意識を失ったら!…!!
「死んだか?」
「下等種ごときにやりすぎではないか?龍玉が探しにくくなったぞ?くふふ。」
「まあ良い。今日のところはひとまず帰るとするかの。姉君の龍玉は見つからなかったが、まさか白龍が手に入るとは!!探す時間はゆっくりあるしの。もしもの時は白龍から龍玉を手に入れれば良い。なーに白龍といえどまだ子供。どうとでもなるのう。ぐふふ、ぐはっぐははははは!!」
あぁ!ダメよ!!待って…!
抵抗の甲斐無く意識が黒く塗りつぶされていった