聖国
聖クレイブランド王国
首都リアム
首都と言っても街ではない
リアムの中心には大聖堂があり、そこで働く聖職者らの住む家が、堀を隔てて囲う様にあるのみなので、集落と言ってもいいだろう
人口は約1000人ほど
リアムで働く者たちが生活する為の物資は、東西南北にある街から運ばれてくる
4つの街を治めているのは4人の教主
今はブリリアント王国に1番近い南街の教主の所からリアムに向かっている
近いと言ってもブリリアント王国からは3日かかる
馬車の旅は揺れるし、弾むし、最悪だった
俺たちは巻き込まれた異世界人と報告したのにもかかわらず、勇者の卵として扱われている
ブリリアント王国は聖国に虚偽の報告をしたらしい
王国が余計なことをしてくれたおかげで、俺と水瀬は聖国に行く事になったのだろう
勇者召喚を手引きしたのは南の教主だと思う
これはまぁカンだけど、外れてはいないだろう
南の教主は白髪混じりの金髪を撫で付けた、スタイリッシュな出で立ちの中年のオッサン
ジェイコブ=バースモーク
神経質で潔癖そうな雰囲気のザ・キゾク
ブリリアント王国の元伯爵で、聖国の司祭になるには聖国に帰化する必要があるため、ブリリアント王国に伯爵の身分を返上した
全然聖職者に見えない南の教主サマは、表面上は俺たちを喜んで歓迎してくれた
が、過剰な接待を受けて凄く困った
ベットに半裸の女が寝てたのは驚いたが、知らない土地で得体の知れない女にうつつを抜かすほど阿保じゃない
甘ったるい匂いは媚薬か何かだったんだろう
魅了スキルを使われる前に追い出せたのは、我ながらよく出来たなと思う
まぁちょっと残念と思うくらいは許されるだろ?
男の子だもん
流石に毎日同じ事されるとそんな気も失せるが、何で俺だけ?
水瀬は何もなかったようなのに…
いや、何かあったらそれはそれでマズイか…
な?
怪しいだろ?
そして今は聖女様とやらに会うため、また馬車に揺られているというわけ
「先輩、聖女様に会って鼻の下伸ばさないでくださいね〜。」
「約束はできないな。ははっ。」
水瀬は雰囲気が変わったように思う
前は自分の意思を伝えられない優柔不断な感じで、俺の苦手なタイプだった
今はだいぶ改善したようなので、嫌悪感とかはない
「え〜あんまりひどかったら、十和ちゃんに報告しますよ?」
「ん?楪に報告?別に良いが、何か意味があるのか?」
「えっ?」
変なことを言ったつもりは無いが何なんだ?
「美女に美人だと言っても問題はないとおもうぞ?」
「あははっソウデスネ。」
(十和ちゃん、頑張れ!)
***
跳ね橋を渡った先には、綺麗に舗装された道が真っ直ぐ伸びていて、その両脇にはシンメトリーに低木が植えられている
その道の先にある大聖堂は花々の彫刻が施された石造りの建物で、窓にはステンドグラスがはめ込まれており、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた
美しく華やかだが華美になり過ぎない装飾は、大聖堂の厳粛で荘厳なイメージによく合い、囲う木々や草花と相まって一枚の絵画のように綺麗だ
俺たちは思わず見惚れてしまった
大聖堂の裏手には聖女様達が住んでる建物と、大司祭様達が住んでる建物と、騎士団の駐屯所の様な所があるくらいか
神官、シスター、聖騎士達は堀の外から通って来るらしい
侵入というよりは逃走を防ぐ様な造りだ
まるで鳥籠だな
水瀬は男性が少ない環境にちょっとホッとしていた様だった
大司祭達の住んでる建物は意外と質素で、大学病院のような雰囲気だ
南の教主様の所はブリリアント王国のお城と同じくらい豪華だったけど、俺はこっちの方が落ち着くから好きだな
通されたお部屋でお茶を頂きながら聖女を待ってたら、聖女じゃなくて数人の騎士と聖職者風の男達が入ってきた
最後に入ってきた爺さんが俺達の事を観察する様に見てる
なんだ?
生暖かい空気が流れてきた様でムワッっとした
「ようこそ勇者の卵様方。南の、ご苦労じゃったな。下がって良いぞ。」
爺さんの言葉に南の教主の顳顬がピクリと動いた
「大司教様、お久しぶりでございます。そう仰られても、此方の勇者の卵様方を聖女様にご紹介したいのですが、聖女様には何処に?」
「その役目はワシが請け負うでの。安心せい。」
「ですが…。」
「南の、教主といえども聖女様と個別に会話するなどできぬ。弁えよ。」
「…申し訳ございません。出過ぎた事を致しました。よろしくお願い致します。」
頭を下げた南の教主の顔が、屈辱に歪んでいたのが見えてしまった
上下関係はこの爺さんが上なのか
それにしても、聖女とやらは相当厳重に保護されているんだな
保護というより隔離か?
取り繕って出て行く南の教主に、ここまでの送迎とお世話になったお礼は言ったので、とりあえず最低限の礼儀は尽くせただろう
「さてさて、お待たせしました勇者の卵様方。ワシはこ大司教のベネディクトじゃ。この地を預かっておる。」
「ソウイチロウ・カノウです。」
「ハルカ・ミナセです。」
「災難じゃったのう。南の奴に何かされた様には見えんから大丈夫じゃろうが、長旅は疲れたじゃろ?今日はゆっくり休むと良い。」
?
「はい。ありがとうございます。」
「明日は、この地を案内させようかのぅ。済まぬがワシもこれで、中々に忙しい身でな、お主らの身の回り世話は此方の神官のローマンと聖騎士のグレコが担当する。聖魔法の方は聖女様がお決めになられるでな、またその時じゃな。2人とも若いが優秀な者達じゃ。気兼ねなく接して良い。」
「ろっローマンです!誠心誠意お仕え致します!」
「グレコと申します。よろしくお願い申し上げる。」
「「よろしくお願いします。」」
「して、1つお主らに聞きたい事があるのじゃが良いかな?」
「何でしょう?」
「はい。大丈夫です。」
「ふむ。」
そう言って大司教様は凄く真面目な顔で俺たちを交互に見つめる
なんだ?
「…お主らもしや…。」
声を潜める大司教様
「恋仲かの?」
何じゃそりゃ?!
そのモザイクが必要なジェスチャーは異世界にもあるのか…
「違います!!」
いや、水瀬…
そんなに激しく否定しなくても…
俺だってちょっとは傷つくぞ?
「俺達は同じ学校で学んていただけで、此方に来るまでは顔見知り程度だった関係ですね。それが何か?」
「隠さずとも良いのじゃがな?恋仲であれば部屋も同じが良いじゃろ?ワシはその辺りは寛大じゃぞ?」
ニマニマしながらとんでもない事を言ってくれる
うん
大司教様と呼んでたが爺さんでいいな
とんだセクハラジジイだぜ
「…大司教様?ご冗談はおやめになって下さいね?ふふふっ。」
はぁ〜っとため息を吐いた時、水瀬の言葉に空気が冷やっとした
「う、うむ。冗談が過ぎた様じゃな。2人の方が安心かと思うてのぅ。」
「そうでしたか。お心遣いに感謝致します。ふふふっ。」
水瀬は終始笑顔だったが、俺は素直に受け取れなかった
爺さんが女子は恐ろしぃのぅっとこっそり漏らしていたが、同感だな
オフクロがオヤジに怒った時もあんな感じだったな
まぁオフクロに比べれば水瀬は可愛いもんだけどな
冷んやり程度じゃ済まない…
女は怖い
俺も気をつけよう