飯田愛梨の自尊
水瀬はるかの聖国行きに男性陣の落胆は激しかった
斉藤と小林は勿論、練習を共にしていた第1騎士団の騎士や宮廷魔術士団の魔術士達まで
花のような可憐な笑顔、誰にでも分け隔てなく贈られる優しさ、何事にも一生懸命に取り組む姿、そして走るたびに弾む男達の夢と希望
此方に来て2ヶ月も経たないうちに人気を欲しいままにしていた
逆に1番喜んだのは飯田愛梨だろう
ようやく自分にも運が巡って来た!
水瀬はるかは女の巣窟
尼寺送り!
「アイリンのアイドル伝説が始まりを告げる〜!」
***
飯田愛梨の朝は早い
今は広々とした1人部屋を与えられている
天蓋付きのベッドにフリルがたっぷりの寝具
可愛い寝巻に可愛いスリッパ
「お目覚めですか?アイリお嬢様。おはようございます。」
「おはよう。セバスチャン。」
運ばれて来た紅茶は甘い匂いがする
勿論、彼の名前はセバスチャンではない
飯田が執事である彼をそう呼びだしたのでそのままになってる
お茶の後はお風呂
頭の天辺から足の先まで手早く磨き上げられふわふわのタオルに包まれる
「今日のお召し物は如何なさいますか?」
「今日は運動の日だから動きやすく清楚な感じが良いわ。」
「「「かしこまりました。」」」
そうやって今日もメイド達によって『可愛い』が作られていく
フリルがついた長袖のブラウス
襟元や袖口にはリボンも付いてる
ベージュのジャケットとハイウエストのキュロットスカート
絶対領域を作り出す靴下とショートブーツ
髪の毛はトレードマークのツインテール
毛先は緩く巻いて
多めに残したサイドも内巻きに
勿論、前髪はパッツンで
「いつも大変お可愛いいですが清楚な装いもお似合いでございます。」
「まぁ、お嬢様は何でもお似合いでございますよ?」
「勿論でございます。お仕えするのが鼻高うございます。」
「ありがとう。あなた達のおかげよ。」
そう言って飯田は気分良く朝食を取りに行く
メイド達のリップサービスは毎度のことだ
メイド達はまるで小さな子供を相手にしているように楽で、褒めるだけで気分が良くなる、扱いやすい主人に満足していた
王子や王女付きのメイドは地位も報酬も高いが、取り扱う物も高級な物ばかりだし、ちょっとしたミスも許されない
文字通り首が飛ぶ
高待遇故にスルスルと甘言がでる
飯田はというとちやほやされて、お嬢様になれるこの世界のことを割と気に入っている
勿論、両親が恋しい
寂しくて辛い時もある
でもみんな優しくて
魔法の授業は楽しくて
充実感を覚えた
そして何より飯田は、リアル王子様に出会ってしまったのだ
本当に本物の王子様
自分には会う機会も話す権利も落とす手段もある
更に王子は自分に優しい
もしかしたらもう既に好意を寄せられているかもしれない
水瀬がいなくなったのだ、やれないはずはない
(光輝先輩と隼人先輩は私を守るナイトになってもらってぇ、叶先輩と新堂先輩は別にいなくても良いけど、召使いくらいにはしてあげても良いかなぁ〜。)
「そしてぇアイリはぁ王子様と幸せに暮らすの!キャハっ。」
ブリリアント王国は彼女に何でも買い与えた
飯田の魔法のスペックは、それはそれは高いものであり、今後の成長によって更なる高みへの到達が確約されているのだ
ブリリアント王国にとっての金の卵であった
彼女の増長するわがままも王国からしてみれば微々たるものだった
魅了のスキル持ちは自分に対する魅了に気づき辛い
魅了のスキル持ちは魅了にかかりづらいが、魅了されないわけではない
魅了のスキル持ち2人が同時に同じ人物に魅了をかけた場合、スキルの熟練度が高い方に軍配が上がる
発動条件には目を見る、声を聞かせる、触る、体液を飲ませるなどがある
飯田は毎日必ず1度は魅了を行い、スキあらばさりげないボディータッチを行うことを心がけた
「光輝先輩っあの〜アイリ剣の握り方がよく分からなくってぇ。」
「えーなんだよめんどくせぇなぁ。」
面倒くさがっているが、頼られて悪い気はしない
一応は教えてくれる斉藤
「こうだ。こう。」
「こーですか?」
「へっぴり腰だなぁ〜。そんなんじゃ剣は持ち上がんねーぞ?」
「アイリンは可愛いんだから剣とか似合わないんじゃないかな?練習する必要ないと思うよ。」
「隼人先輩優しいです〜。でも、先輩達の足を引っ張らないようにアイリも頑張るんですっ!」
両手をグーにして口元へ
女性ならあざと過ぎると思う仕草だが、そんな事で2人の庇護欲は刺激されたのだ
ふぬぬ〜っと剣を持ち上げようともがく姿が可愛らしくて、ついつい斉藤は後ろから覆い被さり剣を一緒に持ち上げる
後ろから手を添えて素振り
「どうだ?わかったか?」
「はう〜腕が痺れましたぁ。あわわ。」
斉藤が剣から手を離した途端、前につんのめる
「アイリンはまず筋トレだな!」
コケる前に後ろから抱きとめられ、ついでにお腹をもにゅもにゅされた
「やーん。くすぐったいですぅ。光輝先輩のえっち〜。」
「まぁ腹ぐらいいいだろ〜。アイリン嫌なのかぁ?」
そう言って後ろから抱きついてくすぐり
「キャハー。ギブですっギブ〜。」
「光輝セクハラ〜。」
「おっなんだ隼人。ヤキモチか?ハハッ。」
「そうよ、アイリン!光輝は私のよっ!誘惑するなんて許さないわよ!」
「ギャハハっキメー。」
「あわわあわわ。お2人はそういう関係なんですか?」
「いやいや、普通に女の子が好き。冗談はさておき、アイリンにはナイフ位が丁度いいんじゃない?」
「ナイフですか?」
「そうそう。暇だったから投げナイフでもしようと思って、色々借りてきてるんだ。」
小林が渡したのは刃渡り10センチくらいのナイフ
「投げる用とそうじゃないやつとあるけど、とりあえず今日は投げてダーツでもしようと思ってさ。ダーツしたことある?」
「ないです〜。」
「そっか。じゃ投げ方教えてあげるよ。光輝は先にしといていいぞ。」
「おっけ!」
「じゃアイリンはまずこれね。まぁ俺らもダーツのアレンジだから本場じゃないけど。」
「お願いします〜。」
飯田は後ろから小林に肘や手の動きを少しだけ補助されながら投げる
「そうそう。いい感じ。上手いじゃん。後は、近くから投げていってどんどん的を離して練習する感じで良いんじゃん?」
「隼人先輩ありがとうございますぅ。」
「そうだな!まぁ後は俺らと遊びながら練習しようぜ!」
「はいです〜!」
(やった!ビッグチャンス!)
「よっす!なにやってんすか?」
「ユイピー!?」
飯田のご褒美タイムに突入しかかった時、バインバインと胸を揺らし朝比奈が走ってきたのだ
(なんてまが悪い。しかもなんて格好で走ってるんだよ!早く退散しろ〜。)
「ランニング?頑張ってね!」
「俺らナイフ投げの練習してたんだけど、良かったら結衣ちゃんも一緒にどう?」
(隼人先輩!何誘っちゃってるんですか!断れ!断れ〜!!)
「へー面白そうっすね!」
(ああぁ〜。)
朝比奈は白いシャツを第3ボタンまで開けて、タイトな乗馬用ズボンとショートブーツというラフで動きやすい服装
汗で色々助けてる
しかもいつも濃かったメイクは今日は薄い
「ユイピー今日化粧薄いな!」
「斉藤パイセン、運動するときメイク濃いとヤバイっしょ!ゲラ!」
「それもそうか!ゲラ!」
「じゃ結衣ちゃんにも投げ方教えるよ。」
「おなしゃっす。」
小林は飯田に教えた時と違い、朝比奈の左肩に左手を置く
「失礼、ちょっと触るよ?」
っと断りを入れて、密着するように右手で朝比奈の右腕をとり、投げ方を教える
(何あれ〜!)
「アイリン俺たちも練習しようぜ!2対2で試合するぞ。」
「はいっ!負けないです!!」
「おっしゃその意気だ!」
(負けないんだから!!)
結果的に楽しく遊べて、斉藤とも仲良くなれた1日だったのだが、結局小林には魅了が少しもかかってない事に気付いて腹が立った
そして今夜も呪いの言葉を吐きながら、胸が大きくなると噂のオッパイ体操に励むのだった