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異世界に転職しました  作者: Aries
第3章
38/202

聖女

 





 この世界は女神教という宗教がシェアの殆どを占めている


 女神オルキディアを唯一神とし、崇める者たちだ


 多少の宗派の違いはあるが概ね纏まっている


 地元に根付く土地神や邪神を崇める者たちもいるが、女神オルキディアを蔑ろにする事はない


 慈悲深く愛にあふれた皆に愛された女神なのである


 純白教団などとも呼ばれる女神教は女神の意思を世に広め、民を分け隔てなく救い、聖女を支援する為にあるとされている


 大司教、教主、司祭長、司祭、副司祭、神官・シスター、新学徒、信者


 と、階級があり、街の教会に副司祭、司祭、神官、シスター等が常時待機している


 信者はお布施を納めれば誰でも


 新学徒は下級の聖魔法が扱える信者たちで、冒険者に多い


 一般的に言うヒーラー、白魔法士


 神官は男性シスターは女性で、最低でも下級の聖魔法を複数使える


 それから更に神官、シスター達は中級聖魔法の習得に励む


 10歳までに中級の聖魔法を取得したシスターの中から巫女が選ばれ、聖王国に召集される


 中級聖魔法を扱える者は少なくないが、若くして中級まで扱える者はそういない


 成人までに習得できれば超優秀だ


 だから10歳までに中級というのは余りにも高いハードルなのだ


 その高いハードルを超えて、巫女に選ばれた娘達は同じ学び舎で、淑女としての教養、仕事や浄化、教会について学んだり、儀式の手伝いをしたり、女学生のように過ごす


 勿論、衣食住は保証され、浄化に参加すれば多少の給料も払われる


 教団に仕える巫女達は聖魔法で世界の澱み、穢れを祓うのが仕事で、各地を巡回している


 怪我をした人々を癒しすのは勿論、聖属性に適正がある者を見出し、教えを説きながら各地を回っているのだ


 上位の聖魔法を使える巫女の中から選ばるのが姫巫女


 姫巫女は女神の声を聴き、皆に伝える義務があるので声が聴こえた者が優先的に選ばれる


 年に一度、女神の声を聴く為儀式を行い、その年の安否を占う


 その姫巫女達の中から選ばるのが聖女である


 巫女、姫巫女、聖女共に任期は18歳まで


 聖女が17歳になった年の儀式で次の聖女を決める


 聖女は指名制で、女神が選ぶとされている


 今代の聖女はとても美しい歌姫で、その歌声で穢れを祓い清めている


 ただ、今代の聖女は目が見えない


 女神に愛されすぎて穢れないように視力を奪われたとされているが、生まれながらの難病だった


 彼女の母親は新学徒で聖魔法の使い手


 父親も敬虔な信者


 家計は、父親の商売のお陰で割と裕福な方だった


 視力が悪い彼女の為に、両親は手を尽くした


 町の司祭に頼み聖王国への紹介状をもらい、聖都へ彼女を連れて行ったのだ


 6歳の時のだった


 聖魔法の適正があった彼女はすぐにシスターになり、更に聖魔法を学んだ


 すると僅か2年で中級を扱えるようになり、巫女となった


 両親はとても喜んだ


 巫女となれば聖女に会う機会があり、もしかしたら娘の目を治して頂けるのでは…


 っと思ったからだ


 彼女はみるみる聖魔法を納めた


 他の者が足者に及ばないくらい


 ただ、それに伴い視力はどんどん悪くなっていった


 皮肉な事に聖魔法が視力を蝕んでいったのだ


 巫女になって2年、彼女が10歳になった頃にはもうほとんど見えていなかった


 13歳になったころ、儀式で事件が起こった


 その年の聖女が18歳になる為次の聖女を姫巫女の中から指名するはずだった


 姫巫女達は誰も選ばれなかったのだ


 まだ巫女だった彼女が選ばれたからだ


 異例の事態だった


 たが信じ難い事に、女神の声が明確に聞こえたのだ


 それまでは何となくだった


 女神の声を聞いてそれを元に聖女が選ぶ


 そしてそれに姫巫女達が賛同する


 赤、だった時は赤い髪の娘


 青、だった時は瞳が青い娘


 小さい、だった時は背の1番小さな娘


 など


 名前を呼ばれることなどなかった


『アイリス』


 そう、はっきりと姫巫女達だけでなく見守る巫女達や司祭らにまで聴こえたのだ


 名前を呼ばれたアイリス本人は戸惑っていた


 女神の声が聴こえただけでなく見えないはずの目が、女神の姿を映していたから


『アイリス、綺麗な青い瞳ね。』


 そう言ってにっこり微笑んだ女神の姿が


 目が良くなれば良いと思って学んできた聖魔法だったが、そのせいでより目が見えなくなった


 だけど女神様の姿を映してご尊顔を拝見できた


 自分の目は今までこの為に生きていた


 もうこの瞳が他の何かを写すことは無いのだろうが、最後が女神様のお姿なら悪くないな


 途切れる意識の中アイリスはそう思った


 女神の姿はアイリスにしか見えていなかった


 他の物は白く薄っすらとした光の揺らめきを捉えることができただけだった


 声が聞こえたから誰しもが彼女が選ばれたと認めたのだ


 目が覚めたアイリスに大司教が様子を聞いた時に分かったことだが、皆は名前しか聞こえなかったそうだ


 女神様のご尊顔を拝見した事を伝えたら更に騒ぎになったが、それを元に偶像ができることはなかった


 彼女の目はもう見えなくなっていたので、確認できなかったからだ


 彼女はその続きを報告しなかった


 自分だけに聞こえた


 女神様の言葉を


 アイリスの名前の由来は、瞳が青いアイリスの花のようだったからだ


 母の好きな花でもあった


 だから彼女は自分の名前も瞳も大好きだった


 だけど目を褒められたことなんて無かった


 目の話をすると大人はみんな可愛そうだと言って哀れんだ


 子供達は不気味がって近寄らなかった


 1人だけ、幼馴染が女神様と同じように綺麗だと言ってくれたことがあった


 アイリスの花のように青い瞳が美しいと言ってくれた


 彼はどうしているだろうか


 会いたい


 だが、この思いが叶うことはない


 聖女になった彼女が彼に会うことは無い


 18歳になって任期が終わった聖女、姫巫女がどうなるのか


 司祭や副司祭、王族、貴族に嫁ぐのだ


 聖属性が高く、魔力の多い子供を増やす為に


 教会の地位と権力、金の為に


 巫女のままだったならば、その可能性は高くない


 18歳まで務めた後、地元の教会に帰る者も多少はいる


 身寄りのない娘や、身分の低い娘らは、今後の生活を考え少しでも良い身分の家、裕福な家に嫁ぐ為、聖魔法の習得に励む


 だから巫女に選ばれた娘は18歳になるまでに色々な所を巡るのだ


 顔と名前を売る為に


 だがもう彼女の名前を呼ぶ者はいない


 彼女はもう聖女だからだ


 これからは皆がアイリスの事を聖女と呼ぶ


 両親ですらまともに会うことはできない


 今代の聖女は女神様の直接のご指名


 教会は本腰を入れて布教するだろう


 自分に自由は無い


 だからせめて、自分の様な娘が少しでも減る様に


 より多くの人々が幸せになれる様に


 限られた時間を過ごす事を決めた


 アイリスは聖女になる決意を固めた


 少女アイリスは死んだのだ


 これからは聖女として皆の為に生きていく




 これはそんな盲目の歌姫の物語






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