深紅の咆哮 5
「そういえば、ゴライウス様はどちらに?」
誰かがそんなことを言い出した
気絶した兵士達もそろそろ起きてしまうだろう
早めに退散したい
「あれはもういません。」
「…それはどういう意味で?」
オカッパ君は察しがいいのか悪いのか…
「貴方がたは見ていたと思いましたが?そのままの意味ですよ?あぁ、あれでも王様でしたね。どうぞ次の王をお決めになって。」
オカッパ君は真っ青になって、そんな?とか、まさか!とかブツブツ言ってる
まぁ、老将がフォローしてくれるでしょう
私はオカッパ君がが王になれば良いと思うけど、それは言わない
色々なしがらみもあるだろうし、深紅と同じことが起きても困る
「私はもう帰ります。深紅、一緒に来るならつれて行きますよ?」
「いまからですか?」
「そうです、女神様。そう焦らずとも、今日はこちらにご滞在されてはいかがですかな?皆も喜びます。」
「お断りします。それでは皆さんもう2度とお会いする事はないです。もし、会うとすれば、私がこの地を滅する時でしょう。」
老将はやんわりと私を取り込もうとするので、ハッキリとお断りしなければ
「待ってください!行きます!俺は、貴方に着いて行きます、いや、連れて行って下さい!お願いします。クラルスに会って、礼を言いたいんです。それから、旅立とうと思います。」
「良いでしょう。その方が彼も喜びます。」
「女神様、クラルスはその後、どうされるのですか?我々が迎えに行ってもよろしいでしょうか?」
ふむ
勝手に出てきたって言ってたからなー
心配してくれる人はいるならそちらに返した方がいいかな
「大丈夫です。数日後、転移させます。」
もう、しばらくは龍人族と会いたくない
私はオカッパ君に安全に帰すことを約束して、転移した
***
「兄上!!ご無事でしたか!!」
「ありがとう。クラルス、よく頑張ったな。お前が女神様に知らせてくれなかったら、正直ヤバかったよ。ハハハっ」
「あにうえっ、うっ、笑い事でわっございませんっすごくっじんばいじばじだぁぁあ"あ"〜」
「泣き虫め。男がメソメソするもんじゃ無いぞ!」
そう言ってクラルスを抱きしめるブレイスの目にも一筋の涙が溢れる
2人の世界に浸ってた義兄弟達はしばらくして、ようやく私の存在を思い出したのか、パッと離れて照れたように笑った
「帰りましょう!兄上!」
「…クラルス、俺はもうあの家には戻れない。急だが、俺は今から旅に出るんだ。だからもう頻繁に会うことはできない。ごめんな。」
「そんな!兄上!置いていかないで下さい!!」
「お前には、俺の弟や妹達のことを頼みたい。そしてお前も強くなって俺を追いかけてこい。その時は一緒に旅をしよう。」
「そんなっあにうえっ」
うーん
少年は天涯孤独なのよねー
「もし君が良かったらうちの子になる?」
「「えっ?」」
気づいたらすっと声が出てた
視線を合わせてちゃんと見つめる
「お母さんとまではいかないけど、私が君のお姉さんになる事はできるよ?」
「女神様の弟に?一緒にいてもいい…です?」
「1人は、寂しいでしょ?私は、たぶんずっとここにいる。ここには白龍や十六夜もいる。あなたが1人になる事はないよ。どうかな?私の弟になってくれる?」
「うえっうえ〜ん女神様っぼくっ1人はっイヤですっ一緒にっいたいですっ」
胸に飛び込んできた少年を抱きしめて、よしよしと頭を撫でてあげる
「今まで1人でよく頑張ったね。一緒に住むのに1つだけ条件があるの。私のお願い聞いてくれる?」
コクリとうなずく
「じゃあこれからは女神様って言うのは禁止ね!私は、セレニティよ。よろしくね。」
「は、はいっ!!クラルスです!よろしくお願いします!あ、姉上!!」
「はい、握手」
「はいっ!えへへっ」
泣きながらはにかむクラルスのおデコにキスしてもう一度ギュとだきしめた
ず、ずりーぞ!!クラルス〜
ブレイスの魂の叫びが木霊するのだった
***
深紅、深紅と呼んでたけどブレイスと呼んで欲しいと言われたのでそうすることにする
クラルスと一緒に住むに当たり、まずは、家を増築した
魔法と、精霊達の手伝いとですぐに出来上がった
一気に二階建てにし、二階に私とミーティア、クラルスの部屋、物置用の小さな部屋で四部屋
一階の元私の部屋を客間にしブレイスにはそこに入ってもらった
寝具などは足りなかったけど、男の子達はは体温が高いからか、タオル1枚でなんともないようだった
家具を買いに行きたいな
身1つで出て来てしまったブレイスの為に、武器を、あげることにした
よくわからないので、宝物庫にあるやつを選んでもらう
私が使うことはないし、置きっ放しだから気にしないでって言ったんだけど、凄く遠慮された
確かに装飾が多いし、彼の趣味ではなかったのかな?
でも、これから人族の国を旅するなら、龍人族ということを隠して行動したほうがいい
龍人族は珍しいから
咆哮や龍化を使うことは難しい
魔法が得意ではないならせめて剣くらい良いやつを持ってないと危ない
自分を過信しないで
心配なの
って胸の前で手を組んで、上目づかいでウルウルしながらお願いした
真面目に選んでくれてるみたいで良かった
しっかりと吟味して、メインとサブの二本を決めてた
備えあれば憂いなし!
後は手作りのマジックバックをプレゼントした
容量はそこまで大きくないけど、一人旅には十分だと思うし、時間経過もないので、食べ物も長期間入れられる、ボディバッグタイプ
濃いグレーが深紅の髪と良く合ってたし、とても気に入ってくれたので良かった
バッグの中にお金と食べ物も少し入れた
勝手に
お節介かもしれないけど、お金はあって困るものじゃないからね
ご飯の準備は凄く困った
なにせ私はご飯を食べないから食材がない
米とミルミルしかない
慌ててサンクチュアリィでいくつかの野菜を作ってたら十六夜が魚を持ってきてくれた
…ね、姐さん!!どこまでもついて行きます!!
魚はウンディーネ達が、フキなどの山菜はコロポックルや精霊達がとってきてくれたらしい
みんなありがとう
今度お菓子を持って行くね
みんなのおかげで、なんとか豪華な晩餐にありつけたし、私も久しぶりの和食を堪能できた
2人はお米を初めて食べたみたいだけど、凄く気に入ってくれた
龍人族の国にはお米は無いのかな?
コロポックルがくれたフキで佃煮を作っておにぎりにして明日の朝ごはんにしよう
…次の日の朝、おにぎりは秒で無くなりました
ブレイスは数日滞在した
その間に、クレアさんに色々なことを聞いて勉強してた
午前中は森へ入りウサギや鳥などを狩り、森を散策
午後からは2人で剣の稽古
夜はクレアさんとお勉強
因みに私は夜のお勉強だけ御一緒させてもらいました
狩りはちょっと…解体も…ごめんなさい
見たことある感じの"お肉"になるまで見たくないんです
あぁでもクラルスは育ち盛りだから、お魚よりお肉が良いのかな…
ブレイスが解体してくれたお肉を亜空間に入れているので、しばらくはもつだろうけど、今後の調達方法は考えないとね
***
ここは祈りの祠から近い街道
今日はブレイスのお見送り
彼は私が作った偽装の腕環をつけているので、額から伸びる角がないし、腕環がステータスをある程度誤魔化してくれる
「俺、貴女に相応しい男になれるよう頑張ります!!クラルスも迷惑かけて困らせるなよ?」
「?はい。頑張ってください。ふふっ」
「兄上!大丈夫です!姉上は僕がしっかりお守り致します!!」
「ブレイス、これを。後で開けてみてください。」
「こらは?」
「カードケースです。ギルドに行ったら身分証を作ってもらえるので、入れると良いですよ。ブレイス、貴方は強い。ですが、人間は弱い生き物です。賢く、強かです。善も悪も一緒に持ち合わせています。信じすぎてはいけません。手を貸しすぎてはいけません。彼らの自立を奪うことになります。良く考え、行動してください。」
「はい。」
「落ち込むこともあるかもしれません、いつでも帰ってきてください。歓迎します。もちろんクラルスにも会いに来て欲しいです。ねぇクラルス?」
「はい!兄上!僕もまたお会いできるのをお待ちしてます!!御武運を!!」
「はい!名残惜しいですが、行ってきます!」
「「いってらっしゃい」」
あぁ、やはり彼の笑顔は眩しい
光が強すぎると、影も濃くなる
どうか、気をつけて…
深紅、御武運をお祈りします
私たちは彼が見えなくなるまで手を振り続けた
お付き合い頂きありがとうございます。ひと段落つきました!
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