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異世界に転職しました  作者: Aries
第1章
12/202

深紅の咆哮 3

 



「なに?!ブレイスがいなくなっただと?!見張りを付けていただろう?!」


 会議の途中で知らされた報告に藍の王は狼狽した


 インディゴの王はゴライウスという


 若くして藍の頂点まで上り詰めて王になった


 人間で言うと40手前くらい


 彼はまだ独身だった


 決して見た目が悪いわけではない


 能力は割と高い方だし、若くして王になるだけの賢さもある


 周りには言い寄ってくる女もいる


 ただ彼は理想が物凄く高く、女性に対して求めるものか多かった


 清らかで汚れのない美しい見た目


 強く、賢く、聡明で、厳しくもあり優しさもあり


 笑うと花のような…


 そして自分を好いてくれている


 自分にはそんな女性が相応しい


 王である自分の隣に立つのはそんな女性でないと釣り合わないが、そんな女などいない


 そう思っていた


 彼に番いがいたらこんなに暴走することはなかったかもしれない


 実の甥であるブレイスに醜く嫉妬し、職権濫用


 自分は名前すら教えてもらえなかったのに!


 自分は身も心も女神に捧げるのに!


 そンな勘違いが彼の行動に拍車をかける


「なんとしてでもデボラより早く見つけ出せ!」


「は!」


 部下に命令し、苛立ちを隠そうとしない様子は、デボラとなんら変わりない


「忌々しい!やはりあの時拷問してでも吐かせておくべきだった!!


「ゴライウス様、落ち着いて下さい。民を良き方に導くのが貴方様のお務めです」


「作用。女神様は見守ってくださる。邁進するのが、お会いできる近道かと存じますぞ?」


「そうだ!あのお方をお迎えする準備もせねばならんのに、ブレイスめ!!引き取ってやった恩を仇でかえしよって!!」


 王の補佐官である青年、イザークと老将アースランドが諌めるが、全く聞く耳を持たず、ドタドタと会議室を出て行った


 残された2人の補佐官は盛大な溜息をついた


「全く、彼の方もとんだ置き土産をしたものだ!」


「これこれ、イザーク殿、そう言うてくれるな。王は奥手だが、理想がお高くいらっしゃる。女神様の様な美貌に目が絡むの致しかたない。」


「ですがアースランド殿。このままでは前途ある若者の未来が潰えるどころか、彼の方の逆鱗に触れる恐れもありますよ?!」


「確かに。まだ、本当の女神様かどうかはわからぬが、前回の様なことが起きれば我らも紫と同じ道を辿るやもしれん。そうならぬためにも、我らがうまく立ち回ればならん。」


 イザークは今後、自分たちがどう動くべきかを、思案する


 肩のあたりで切り揃えた紺色のストレートヘアが、彼が歩くたびににサラサラと揺れる


 イザークがブレイスに目をかけていたように、アースランドも、ブレイスを立派な武人にすべく育てていた可愛い部下だ


 出来ることはしてやりたい


「儂は、ブレイスの弟妹達に火の粉がかからんよう手を回す。デボラ達が何をするかわからんからな。お主は情報を集めてくれ。」


「わかりました。やはり現状それしか出来ることはありませんか。」


 そして2人も動き出す


 最悪の運命を辿らないように



 ***




 部下からの連絡を受けたデボラは嬉々として彼らを出迎えた


「待ちわびたんだの!」


 ようやく目当てのものか手に入り、ご満悦である


 ブレイスである


 デボラはすぐにブレイスを魔力抽出用の魔道具に入れ、搾り取れるだけの魔力を搾り取り、放置


 これを何日も続けた


 不思議なことにブレイスは他の子供ざいりょうより回復が早かった


 そしてブレイスの魔力から抽出した魔水晶を食べた後は魔力が漲る気がした


 このところ孤児院の子供らからも魔力を抽出し、孫娘達にも与えていたが、子供達ざいりょうには限りがあったので、あまり成果は思わしくなかったこともあり、デボラの行動はエスカレートしていった


「時間がかかり過ぎだの!抽出レベルを最大限にするんだの!!」


「ですがデボラ様、死んでしまっては元も子もないーーー」


 喋ってる途中で殴られたが、デボラにはもう魔力は無いので、幼児が叩いた程度の力しかない


「うるさいんだの!そうだ、ダヴィーク、アイツの鱗を剥がせ」


「は?」


「聞こえなかったかの?あの刻印が入った鱗を剥がして、我輩がつけるんだの!そしたら、我輩も元の魔力と美しい髪を取り戻せるはずだの」


「成る程!流石デボラ様!ご慧眼痛み入ります。少々お待ちください」


 バーーーーン!!


 大きな音を立てて、扉が蹴破られた


「動くな!!おい、その2人を捕らえよ!!ブレイス!無事か?!」


「な!?はなせ!離すんだの!!」


「デボラ様!おのれ!無礼者ー!!」


 デボラは機敏な動きなどできるわけもなくあっけなく捕らえられる


 反抗するダヴィークも、多勢に無勢


 程なく抑えられた


「ブレイス!大丈夫か?!ブレイス!!しっかりしろ!!」


「なんてことだ!医療班!すぐここに!後は、ここの証拠を押収しろ!」


「隊長!奥にも子供たちがいましたので、保護しました!」


 ザクザク出てくる犯罪の数々に、助けに入った隊員達は心が折れそうだった




 ***




 保護されたブレイスは城内で手厚い治療を施されている


 ブレイスはボロボロだった


 魔力は枯渇し、体力もなく、皮膚が爛れ、あざだらけで、打ち身や打撲、切り傷、骨折も何箇所かあった


 生きているのかやっと、という状態のブレイスにアースランドは悔やんでならなかった


 彼がどのような罪を犯したというのだ


 もし、罪を犯していたとしてもこれ程重い罰を与えなければならないのか?


 自分がもっとしっかり見張っていれば、デボラの暴走を防げたのではないか


 寧ろ、早く外に出してやるべきだったのではないか


 悔やんでならない


「デボラにはきっちり償ってもらわねば…」


 アースランドのつぶやきは外の騒ぎによってかき消された


 ーーバンッ!!


「何事だ?!」


「ゴライウス様!お待ちください!ブレイスはまだ!!」


「どけ!!」


 蹴破る様に扉を開け、兵を押しのけ、押し入った藍の王は、イザークの制止を振り切り、ブレイスに掴みかかった


「起きろ!おい!!起きるんだ!!」


 そして思い切り殴り飛ばした


「何をされる!?」


「ゴライウス様!おやめください!!」


 王はもう周りの声が耳に入っていなかった


「ブレイス殿はまだ隷属の首輪を外している最中ですぞ!落ち着いてくだされ!!」


「ちょうどいい、隷属の呪で苦しめて吐かせろ!女神様を拐かし国益を損なった罪人だ!容赦するな!!」


「なっ何をおっしゃっているのですか?!」


「御乱心されたか?」


「まさか?!ご自分の甥であるブレイス様に何故そのような仕打ちを?!」


 ブレイスを手当てをしていた術師達や医師達は困惑し、口々に叫んだ


 こんな状態のブレイスに隷属の呪をかけて更に苦しめるなどできるわけがない


 ブレイスを心配して集まった者達や、騒ぎを聞きつけて集まった大勢の者達の目に晒されて、最早もう言い訳などできなかった


「…王は、ゴライウス様は御乱心なされた!取り押さえろ!!」


「ですが!?」


「よい!!責任は儂がとる!!」


 狼狽える兵士達にアースランドは檄を飛ばす


「少し、落ち着いて頂くだけだ、構わん!!私も許可する」


 その指示をイザークが後押し、兵士達が動き出す


「アースランド、イザークお前たち、不敬であるぞ!!捕らえるのはブレイスだろう!!…まさか!お前たちも私から女神様を奪おうとしてるのだな!!浅ましい奴らめ!」


 ゴライウスはブレイスを盾にした


「王よ…そこまで落ちてしまわれたか…」


「まさか、ここまで酷いとは思いませんでした…」


「嗚呼、これがあのお方の刻印…やっと手に入った…私のものだ!」




 ***




 ふぅ…


 龍人族の国の上空から様子を伺ってた私は、なんとか深紅を衛兵に見つけさせることができて、思わず一息ついた


 深紅はデボラに捕らえられていたようで、手引きしたのがミーティアを攫った男女


 男の方は率先してかな?


 デボラを崇拝してて、洗脳状態


 完全に黒


 女の方は孤児院の子供たちを人質にされて止む無く…かぁ


 どうしようかなぁ


 このお姉さんはセーフかなぁ


 我ながら甘い気がするけど、彼女は助けよう


 前回の失敗を生かし、裏から手を引き衛兵さんたちをデボラの隠れ家まで導く


 犬を吠えさせたり、子供に証言させたりしてなんとかたどり着いた


 2人とも無事保護されたようで何よりだ


 後は、深紅が1人になったタイミングで治療と弟君のことを話しに行こう


 先にお姉さんの方を片付けてしまおう


 治療が終わったらしいお姉さんのところに静かに隣に降り立った




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