深紅の咆哮 2
「おい!いたか?!」
「いや、まだだ!川沿いを重点的に、後は、国境沿いの北東へ広がって探していけ!!まだそう遠くには行ってないはずだ!!」
「雨の川に飛び込むなんて馬鹿な奴だ。相当な体力を消耗してるはず!早いとこ見つけて一気に叩くぞ!!」
街を出た後、森で野営をしたラン達3人は国から出る分岐点の前で何者かにに襲撃を受けてブレイスと別れた
襲撃を手引きしたのはもちろんランとダヴィーク
襲撃者達はブレイスを追い詰めたが後一歩のとこで、滝壺に飛び込まれ逃げられてる
「空に上がれれば直ぐに見つかるものを!忌々しい雨だ!!クソッ!!」
いくら龍人といえど雨の中、ましてや雷雲の下を飛ぶなど自殺行為だ
雷除けの結界を張り続けながら飛ばないといけない
「もういいじゃないかい。この雨の中、滝壺に呑まれたんだ、もう死んでるさね。」
「なんだラン?見逃すつもりか?まさかアイツに情が湧いたんじゃないだろうな?」
「うるさいね。そんなんじゃないさね!こう雨が止まないとやる気もなくなるよ。そもそもあたいらの仕事はもう終わってる。何で仕留めきれなかったしりぬぐいまで手伝わなきゃならないのさ?」
「なんだと?!」
「おいやめろ」
ダヴィークに呼び止められた男はチッと舌打ちして持ち場に戻る
ランも内心舌打ちしていた
挑発して襲ってこられたところ軽いケガをさせてもらい、この場を退場しようとしていたのだ
早いとこずらがりたいさね!
「ダヴィーク!アタイはあっちを見てくるさね!」
「いや、お前も一緒こい」
不意に肩を掴まれた
「なんだいまったく?」
いきなり触ってくるようなやつじゃなかったはず、と少し警戒しながら振り向いた
「かはっ?!」
「お前はもしもの時の保険だ」
ダヴィークの拳が容赦なく鳩尾にめり込んだ
「まさ、か…」
アタイなんかが囮になるもんか…
その言葉は発せられることはなかった
***
何かの気配を感じてブレイスは目を覚ました
まずいな、どのくらい寝てた?
雨脚はだいぶ弱まったが、空の様子からは時間が読めなかった
周りの気配をさぐる
2、3、…4人か
囲まれているな
「出てこい!コソコソしやがって!俺に何の用だ?!」
ブレイスは叫んだ
もともと、竹を割ったような性格のブレイスは隠れたり、逃げたり、今の状況に凄くストレスを感じた
苛立ちを爆発させたかった
丁度良い、どうせさっきの奴らの残りだ
このままずっとついてこられるのも面倒
「俺の尻尾を追いかけ回しやがって、気持ち悪いったらないな!」
尻尾は龍人族のセクシャルな比喩
安い挑発に、茂みから3人の男たちが出てくる
「調子に乗りやがって」
「やっちまえ!」
2人が飛びかかってきたが、怒りであまり連携ができていない
ブレイスは1人目の槍をかわし、すれ違いざまに脇腹に、剣を鞘ごと叩きつける
「ぐっ!」
そのまま抜刀し、2人目の足を浅く斬り飛びのく
ブレイスが今いたところに3人目の咆哮が飛んでくるのを難なくかわし、距離をとる
「クソッ!!」
悪態をつきつつも冷静さを少し取り戻した襲撃者達は3人でブレイスを取り囲みジリジリと距離を詰めてくる
剣と槍リーチは襲撃者達に有利
ザッ!っと一気に踏み込みブレイスは相手の間合いに入り斬りつけ、蹴り飛ばした
次に、突きを繰り出してきた男の槍の柄を掴み、相手を引き寄せ横薙ぎ
慌てて踏み込んできた背後からの槍の一撃を体を捻りかわして、その勢いで剣で相手の槍を弾き上げ、バランスを崩したところにそのまま振り下ろす
隙を伺って隠れていたもう1人の奇襲を避け、背中に剣の柄を叩きつける
流れるような動きで、4人をあっという間に撃退したブレイスが、倒れた1人を尋問する為がしゃがんだ時だった
いくつもの咆哮襲撃者達諸共ブレイスを吹き飛ばした
とっさに飛びのいたブレイスも、避けきれず、片膝をついてしまう
「だれだ?こいつらは味方じゃないのか?!」
「大人しく捕まればこいつらも悪いようにはしない」
「なーに、殺しはしないさ、その左腕の大層なもんを頂くだけさ」
「お前には不相応だしな!俺たちが頂いて王に献上させてもらう!」
襲撃者達は縛ったランとダヴィークを人質にとってナイフを突きつける
「まさか?!叔父貴が俺を襲わせたのか?!」
「ブレイス!俺たちのことはいい!逃げるんだ!!」
「ダヴィーク!クソッ!!卑怯だぞ!お前達それでも誇り高き龍の戦士なのか?!」
2人の方に意識が行ってしまった隙を突かれブレイスは足に槍の一撃をもらってしまう
男達は嘲笑う
ブレイスはもっと注意深く観察しなければならなかった
何故ダヴィークは大人しく捕まっているのか
何故ランは意識がないのか
何故自分が街を出た事がわかったのか
だが、疲弊していたブレイスにはそこまで考える余裕はなかった
動きが鈍くなったブレイスを取り押さえるのは容易い事だった
「ようやく大人しくなったな」
「おいダヴィーク、殺して連れて行くのか?」
「いや、殺すと刻印が消えるかもしれん」
「隷属の首輪をかけろ」
ランと、ブレイスに黒い首輪がつけられる
「我等で制御できれば問題ない。デボラ様に後は調べて頂き、剥がしても大丈夫とわかったら、そのお力をデボラ様が吸収し、元の姿を取り戻す糧にされる。」
「王はどうする?」
「王はその後でいいさ。仲間に手を掛けた亡命者を裁いていただかなくては。奴はあれでも王族、末端といえど俺たちで手を出すのはまずいからな。」
***
デボラ邸ではデボラが喚き散らしていた
紫でなくなった髪を見るたびに苛立ちが募る
いままでに溜め込んだ魔水晶の魔力を吸収し続けているが、一向に魔力は回復しない
寧ろ吸収すればするほどより魔力が抜けていくんではないかという感覚がある
「クソッ!クソッ!!」
どうして自分がこのような仕打ちを受けねばならないのか
どうして高貴な存在である自分がこのように蔑まれなければならないのか
「忌々しい!可愛い孫達までもあのような姿に!!」
ヴィクシーとヴィオラも同じように髪が霞んだ黄色になってしまい、一族に見限られ、外を歩けば石を投げられ、黄色を馬鹿にされた
元々、心根の優しい子であったならば、そこまで酷く虐められることもなかっただろうが、本来の傲慢な性格、日頃の行いが全て我が身に返ってきていた
悔い改めたら違う結果になったかもしれない
なぜ自分たちが?
こんなにも美しい、神に愛されるべき自分たちが下等種のように過ごさなくてはならないのか
「「「全てあの忌々しい女のせいだ!!」」」
三者三様に火龍を呪う言葉を吐きすてる
あの日以来、紫の一族は酷く責め立てられ、原因であるデボラを切り捨てた
族長の職、私財、魔法具など目ぼしいものは全て国に没収されたが、デボラの隠し財産、魔道具などの裏研究所、子飼いの部下、私兵などは見つからなかった為、まだ存在する
「あいつさえいなければ、見つかるのがもう少し遅ければ、白龍の力を我が物にし、全て手に入れる事が出来たのに!!」
物に当たり、暴れるデボラ
でもその衝動はすぐ収まる
今のデボラは人間と同じ
魔力も体力もない小太りのおっさん
直ぐに疲れて動けなくなる
「早くせぬか!愚図どもめ!!あの小僧が女神にもらったものを吾輩が頂く!!吾輩の物なんだの!!」
そんなデボラの命令を聞くのは隷属の首輪を嵌めた物のみであった