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異世界に転職しました  作者: Aries
第1章
10/202

深紅の咆哮

 




「女神様!兄上を返して!!」


 ?


 私の目の前には青い髪がとても美しい少年?がいる


 多分男の子よね?


 開口一番そんなこと喚いてる少年は、十六夜に咥えられて地に足がつかず、バタバタもがいてなんか色々ボロボロで、涙目になっててちょっと可愛い


 森で襲われてたところを十六夜が拾ってきた?


 カーバンクルから連絡があって引き取りに行った?


 私、何も聞いてないよ?


 いや、まぁ良いんだけど


「お願いします!女神様!兄上を殺さないで下さい!!」


 どう言う事かな?


「ちょっと落ち着こう?あにうえって誰?ここには私以外の人は誰も居ないよ?」


「なっ!そんな?!」


 辺りを見回して、自分に集まる視線に冷静さを少し取り戻したのか顔色が青くなってしまった


「とりあえず、話聞くから。お兄さんについても、何か行き違いがあるかもだし」


 少年を切り株チェアに座らせて、マグカップに蜂蜜入りホットミルミルを出して、とりあえず周りには解散してもらう


 好奇心旺盛な妖精や精霊達はなかなか離れてくれないけど、十六夜が一瞥しただけで大人しく去ってくれた


 さすがです姐さん


 十六夜にはミーティアを見てもらって、少年に集中することにした


「さぁ、召し上がれ?落ち着くから。」


 ミルミルを凝視してたけど、好奇心と匂いに勝てなかったのか、ゆっくり一口飲んでビックリしたみたい


 ふーふーしてもう一口飲み、落ち着いたようで、黙ってカップの湯気を見つめてる


「ごめんなさい。」


「んー?」


「女神様に、酷いこと言ってしまって、ごめんなさい。女神様が従兄弟あにうえに何かプレゼントしたんでしょ?その後、王様に呼び出されたり、みんなに意地悪されたりして、いなくなっちゃって、それで、っうっうう、女神様のせいだって思って、連れてっちゃったんだって、でもほんとの女神様はそんなことしないって思って!だから悪い奴なんだって思っちゃって…」


「そう、お兄さんのことが心配だったのね…」


 ポロポロ涙をこぼしながら少年は少しずつだけどここに来た理由を教えてくれた


 背中を撫でて、涙をハンカチで拭ってあげる


 彼のお兄さんは深紅のことのようね


 深紅はかなり面倒見が良く慕われてたようだ


 また、そこそこ腕も立ち、あのルックス、人気もあったみたい


 私が龍の郷から立ち去ってしばらくして、叔父であるに藍の王に呼び出されて、女神様わたしについて、根掘り葉掘り聞かれたのにもかかわらず、黙秘


 王命に背いたとして謹慎処分


 自宅に戻るとまた、周りからの質問ぜめ、嫉妬からくる誹謗中傷


 仲間から裏切り者と罵られ、暴力を受け


 鱗を剥がして奪おうとするものまでいたらしい


 私が良かれと思ってしたお礼が、彼とこの子を傷つけしまったのね


 逆怨みなんかじゃない


 私のせいだ


 少年は城にあったデボラから回収した魔道具を持ち出してここに転移したけど、私が張った結界に阻まれて入れず、森を1人で抜けようとして、魔獣に襲われてるところをカーバンクル達が見つけて、十六夜に保護されたそうです


 話し疲れたのか、泣き疲れたのか意識を失ってしまった少年は静かに寝息をたててる


「小さい体でここまでよく頑張ったね、ゆっくりお休み」


 さて、深紅を探し、害虫駆除といきますか




 ***




 濡れた体がブレイスの体力を吸い取っていく


 雨のお陰で辺りの気配は読み辛いが、それは追っても同じ事


 追い詰められて滝壺に飛び込んだのはいいが、随分と流されてしまったな


 まぁ水は苦手だけどなんとかなってよかった


 岩陰で濡れた体を乾かし、少し休めることにする


 樹木より岩肌の方が自分は目立たないだろう


 左腕にある薔薇の刻印を見ると、少し気持ちが和らぐ気がした


 あの人がくれたもの


 これのせいで自分は大変なめにあっているんだけど、何故か恨む気持ちにはなれない


 刻印に触れ、ぼんやりとこれまでのことを思い返した


 彼女が白龍様を迎えに来た後、俺は叔父貴に呼び出され、女神様の事を色々聞かれたけど、知らないと答えた


 あまり話したくなかったのもある


 叔父貴は本当にしつこかった


 あんなにキモい叔父貴は初めて見た


 しつこかったから、鱗を返してもらっただけって言ってしまった


 新しい紫の族長には、黄色ピスになってしまった紫の娘たちの責任を追及された


 確かに、あの人は俺の鱗をたどって来たけど、白龍様を攫ったのはデボラだし、逆恨みだ


 何日か牢屋に入れられて、尋問されたけど、しらを切り通した


 謹慎と言う名の元、家に返され、街でも、酒場でも質問攻め


 鱗を見せて、触らせてと言われ、嫉妬の目を向けられる


 男に撫で回されそうになったり、腕にキスされそうになったり、…本当に勘弁してほしいぜ


 家に帰っても、見張られてるのか、常に誰かの気配がして気が休まらない


 隠れてコソコソ外に出るけど、俺の髪は目立つのですぐバレる


 外に出て体を動かすこともできない


 気がめいる


 何日も何日もそんな日が続いた


 俺は耐えられなくなって国を出ようかと考えるようになった


 だが、国を出たら弟妹達とはもう会えない


 ここ最近は弟妹たちだけが俺の味方だった


 途方に暮れた


 そんな時ランとダヴィークが声をかけてくれた


 デボラのせいで自分達も居心地が悪い


 とりあえずほとぼりが冷めるまで隠れるか、国を出ようと思ってる


 一緒に行かないか?


 と、誘ってくれた


 嬉しかった


 あの2人はうまく逃げられただろうか


 俺のせいで2人まで危険な目に合わせてしまったな


 うまくかわせてたら良いんだが


 まぁ俺より経験豊富な2人だ


 なんとかやってくれてると信じよう


 雨脚が弱まってくるまで、少し休んでから出るとしよう


 雨が足取りを消してくれるだろうから




 ***




「どーしたもんかね〜」


 ランは悩んでいた


 そもそもこの仕事にあまり乗り気では無かった


 以前のランだったらこんな事思わなかったかもしれない


 あまりやる気が起きないが、やらないと孤児院に残してきた弟妹達がどうなるかわからない


 孤児だった自分を拾ってくれたデボラには多少の恩義を感じているがブレイスの事も気に入ってる


 ブレイスは捻くれた自分や孤児院の弟妹達にも分け隔てなく接してくれる数少ない同僚だ


 自分の中でもブレイスに対して嫌な感情はない


 むしろ真っ直ぐ過ぎて眩しいと思うことさえある


 デボラは孤児を引き取って自分に従わせていた


 小さい頃から世話になってるダヴィークはデボラを盲信しているが、ランは違う


 ある程度育って引き取られたランは従属の腕輪をはめられてる


 デボラに逆らわないように


 逃げられないように


 従属の首輪はお互いの了承がないと付けられない物だから子供達が大人になりきる前に甘言で言いくるめて付けられる


 隷属の首輪はその上位で犯罪者などに使われるもので、デボラといえど安安と使えるものではない


 魔力が高い子は奴の魔道具で魔力を搾り取られる


 幸か不幸かランの魔力は高くない


 だから今まで生かされていると言っても過言じゃない


 ランは今まで命令に背かないギリギリの範囲で自由にやってきた


 孤児院の弟妹たちに自分と同じ汚い仕事をさせなくて良いように


 デボラに搾取されないように


 今思えば、よそ様の子供を攫ってくるのはどうなのか…


 でも、下等種より同じ龍族である自分達の方が良い


 そう思って仕事を実行に移したが、蓋を開けてみたら…


 自分もデボラに毒されていたのかもしれない


「まさか女神様とわねぇ」


 実質、白龍様を攫った実行犯である自分が、女神に見逃されたのは、ブレイスのお陰だと思ってる


 従属の腕輪もあの後外れていた


「ありゃ勝てないさね〜」


 ブレイスについて行くには自分は汚れて過ぎてる


「まぁ上手いこと逃げてくれば良いけど」


 ランの呟きは雨音の中に消えて流れていった






今日はここまでです!

お付き合い頂きありがとうございました!

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