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 ……説明しておく必要があるだろう。


 アダルトゲーム『ルインエクスプローラーズ』には、大まかに、4タイプの18歳未満お断りシーンが用意されている。


 まず、一つ目がヒロインや攻略とは無関係のイベント。

 これは、お金を払うことで見ることのできる娼館イベントや、一定金額の取引を行った店舗などおこる上客イベントといった、非ヒロインとのイベント。

 

 二つ目は、ノーマルシーンイベントと言われる、ヒロインが一定の好感度に達した時に発生する個別クエストでのシーン。これは、各ヒロインにそれぞれ3回ずつ用意されていて、その3回目までは攻略には影響がない。


 三つめが、恋人イベント。これは好感度が最大で、ノーマルイベントを全部こなした後の告白イベントクエストをクリアすることで恋人となり、専用の濃厚なイベントが各ヒロインごとに数回分用意されている。恋人イベントをこなすことで、ラストダンジョンが発見され、ラスボスが出現することにもなる。


 そして、四つ目が、いわゆる凌辱イベント、だ。

 恋人イベントを起こす前の段階でしか発生しないのだけれど、攻略対象のヒロインを連れた状態で、ダンジョンボスに敗北すると、ヒロインが捕まってしまい、散々なことをされてしまうのだ。凌辱イベントが発生したヒロインは通常のノーマルイベントが発生しなくなり(好感度の隠しパラメータが消滅する)恋人にもできなくなる。そして4回凌辱イベントが発生した時点で、ゲームから離脱することになる。



 その日、僕が見た光景は、離脱したヒロインたちがどこに行ってしまったのかの答え合わせだったのだ。


 複数のヒロインをイベント離脱させるプレイスタイルには心当たりがある。

 このゲームには、RPGに付き物の、裏ボスが存在する。

 裏ボスは2種類のタイプがあって、それらは同時に発生させることは出来ない。というのは、裏ボスと専用ダンジョンの発見条件が正反対だからだ。


 一つは、ラスボスを討伐した後、全てのヒロインを引き連れて、全ての黒幕であった邪神と戦うルート。この発生条件は、一回も凌辱イベントを発生させないこと。ファンの間では、トゥルールートと呼ばれるルート。俗称、ハーレムルートともいう。


 もう一つは、ラスボスを倒した後に、新たに発見されたダンジョンに挑み、真なる魔王を討滅するイベント。このルートでは、ダンジョンのボスとして、廃人化して離脱したヒロインに七罪の魔王が受肉することで7体の魔王が治める七罪ダンジョンと魔界ダンジョンの合計8つのダンジョンを攻略することになる。

 当然、このルート発生のためには最低7人のヒロインを凌辱イベントで離脱させる必要がある。

 ちなみに、このルート。真なる魔王は、正しき者には倒せないという世界観があるため、ダンジョンを攻略していくうちに主人公がどんどん外道と化していくため、外道ルートともいわれる。


 そう、複数のヒロインを廃人化するプレイスタイルは、この外道ルートを目指している可能性が高い。

 そして、初期から存在するブルーナという剣士職のヒロインは、ダンジョン攻略する戦力としてはどちらかというと、二軍に近い。弱いわけではないのだけれど、物理アタッカーは他にもいるためだ。


 ……つまりは、海原が、ダンジョンでひどい目にあわされて、廃人にされてしまう。そんな未来が見えてしまうのだ。


 海原とは前世でも親しかったわけじゃない。ほとんど話もしたことがないし、きっとオタクな僕を下に見ていたのだろうと勝手に思っていたりしたくらいだ。

 だけど、こっちの海原は、決して僕を見下したりしていないように思えた。


 ……何をしたいんだろうな、僕は。


 もし、ここが本当にゲームの中で、ゲームの外でプレイヤーが捜査しているのがこの世界だとするなら、基本的に、彼女を掬う方法はないと思っていい。

 だけど、ひょっとしたら、僕たち転生者は異分子で、僕たちの行動は(ゲームに矛盾しない範囲で)自由だとするなら、助ける方法は、あるのだ。


 僕は、決断をしなければならなかった。

 この新しい生を謳歌するために、彼女の未来を見て見ぬふりをするのか。

 それとも、僕の知識と経験をフル動員することで、彼女を救うのか。


 義理は、ない。そのはずなのだけれど。


 下品だけれど嫌みのない、フレンドリーな笑顔がよぎった。(断じて何でもできる証拠の揺れるアレじゃないぞ。確かに、イチコロにされそうになったけどな)


 迷うことはないじゃないか。

 かつて、救うことに失敗して、今、そのリターンマッチが組まれているだけの話じゃないか。

 うだつの上がらないオタクな僕にだって、女の子を助けてあげたいというヒロイックな気持ちがないわけじゃないんだ。

 ならば、救おう。今度こそ、今度こそ。




 最初の問題は、彼女を救うためには、この世界の正体を話さなければならないことだった。

 向こうでは、オープンオタだったとはいえ、流石にエロゲーまでやってることは誰にも話していない。

 軽蔑されるのではないか。

 それが、怖かった。

 だけど、知り合いが酷い目にあうことを考えた時、一時の軽蔑は我慢するしかないだろう。


 そう、一大決心をして、彼女に打ち明けた。

 この世界のこと、システムのこと、裏ボスの発生条件のこと。

 変態と罵られることも覚悟して、打ち明けた。


「とおるっちも、やっぱ、男の子なんだねぇ。……で? 3次元女子に興味ないわけじゃないよね。だって……」

 あの下品な笑みでにししと笑い、

「とおるっち、みどりんのこと、好きだったっしょ」


 別方向で、ダメージ、キターーーーーー。


「え、えっと、あの、その、なんていうか、好きとか、そういうのはっ」

 僕は何を言っているんだろう。


「ひょっとして、隠してるつもりだった? あれで? マジで?」


 予想外の方向からクリティカルヒットを喰らってしまって、どうしたらいいのやら。


「で、このままだと、アタシはダンジョンでひどい目にあわされちゃって、ボロボロにされちゃうってこと?」


 おお、話を戻してくれた。


「信じてくれないかもしれないけれど、このままだとそうなる可能性は低くはない」


「そっか、とおるっちもそういうプレイをしたというわけだね。……うん、信じるよ。いくつか思い当たる節があるしね」


 そういうと、彼女の方からその思い当たる節というのを語ってくれた。


「なんというかね、主人公マイルとは組んでからしばらくして何回かえっちもしたんだけどね。真剣に付き合ってもいいかなーと思い始めた頃から、誘われなくなった。まー向こうがマジになれないから距離おいたのかなーって思ってたんだけどさー」


 彼女の話を聞くうちに、僕は確信に至った。間違いなく、外道ルートだ。

 主人公は、通常の好感度イベントは(多分、他のヒロインのも)3回目まではこなしている。その後、ヒロインと二人でダンジョンに挑戦して、敗退をしている。間違いなく、意図的に凌辱イベントをこなしているのだ。だとしたら、マズイ。既に海原=ブルーナは、リーチかかっている。

 そのことは、彼女も理解したようで、難しい顔をしていた。


「4回目で、アウト、だっけ?」


 改めて確認してくるあたり、状況を理解しているようだ。


「つまりは、3回目まではセーフってことだよねっ」


 思わず椅子からずり落ちた。いやまあ、確かにそうなんだけどさ。

 ……いや、確かにそうか。凌辱イベントを0にしようとするとはっきり言って不可能に近いほど難易度は高くなる。だが最悪廃人を免れることを目的とするならば、不可能じゃない。いや、十分に可能だ。

 僕が考える彼女の救済作戦は至極単純なものだ。


 ソロでボスを討伐できるだけの力をつける。


 言葉にすると、たったそれだけのことだ。

 そんなことが可能かどうか、疑問に思うかもしれない。だが、これは、実際のゲームでも起こり得る現象でもある。このゲームの特徴の一つとして、ダンジョンの攻略順番は自由であるということ。そのため、難易度の高い=経験値効率のいいダンジョンで稼ぎすぎると、低ランクダンジョンで無双状態になってしまい、結果、ボスまで一蹴してしまうことがあるのだ。

 もちろん、ランクの低いダンジョンから順に攻略していく方が、適度にレベルが上がるため実際は効率がいい。だが、主人公や壁役のキャラクターが十分に育っていれば、あまり使っていないためレベルが上がっていないキャラクターを強引にレベルアップさせることができるし、実際、新規加入したキャラクターをそうやってレベルを上げてしまう方法は、ごく普通の戦略でもあった。

 また、このゲームの特徴の一つで、各キャラクターの装備品のランクをプレイヤーが下げることが出来ないというものもある。高ランクの装備を取り上げて別のキャラに回すということは原則として出来ないのだ。

 例外としては、より高ランクの装備をプレゼントすることで、現在装備中の装備品を外すことは可能である。


 ちなみに、この凌辱イベントに関しては1~3回目のイベントはどのダンジョンボスに負けてもいいのだが(それこそ、同じボスに連敗してもいい)4回目、つまり、最後だけは、通常のダンジョンボスではなく、専用のボスが例外として出現する。ヒロインごとに違うボスが出るので、図鑑埋めが面倒で仕方がなかったのは生前の苦い思い出だ。

 でもって、ブルーナ専用ボスの特徴として、強力な氷魔法を使う魔人が用意されているのだけれど、このボス、魔力特化型のため、物理技を持たず、通常攻撃のダメージも低い。その代わり、氷結系の魔法ダメージが尋常ではなく、初見殺しともいわれている。

 余談ではあるが、炎系ダンジョンにも、凌辱リーチがかかった状態のブルーナを連れてボス部屋に入ると、灼熱の背景に氷の鎧を纏った魔人が出現するのでとてもシュールだったりする。


 ここで、ブルーナの基本性能をおさらいしておこう。

 原則として、癖の少ないオールラウンダーな剣士職。目立った弱点もないが、突出したステータスもない。若干敏捷性が高いものの、格上の攻撃を回避しまくるほど凄くはない。

 基本、装備品で化けるタイプではあるが、そこまでして使うほどのキャラでもない。

 魔法防御は、前衛職であるため、やや低めではあるが、弱点と言えるほど低いわけではない。

 結局のところ、装備品で化けることが出来るとは言え、先に述べた通り、このゲームでは装備品をほいほいと変えられるものではないため、結果的には使いにくい……というか、あえて使うほどのものではないというのが、ブルーナの特徴だ。


 ブルーナ救済の計画を練る。

 まず、必須は氷結系魔法対策である。これに関しては、是が非でも現在発見さえているダンジョンの中でも最難易度に当たる「永久凍土の山窟」でのレアドロップ品である「氷精霊のローブ」を手に入れる必要がある。この装備品のランクはA+。ラストダンジョンでも通用するレベルの装備品だ。

 それと、「大樹海の深奥」でのやはりレアドロップ品である「古代樹の指輪」。こちらは、いわゆるHP自動回復効果のある装備品で最高ランクになる。

 これらを大至急手に入れなければならない。


 そして、それと同時にブルーナのレベルアップも必須だ。最低でも、ブルーナの最上位ジョブの一つであるソードマスターにまでなってもらわなくてはならない。



 僕は、海原……ブルーナに、可能な限りレベルを上げるように告げると、強引なダンジョンアタックを開始した。

 

 何回死んだのか、分からない。極めて強引な探索方法を取った。目隠しで綱渡りをするような、そんなレベルのダンジョン攻略。

 ほんの半歩間違えれば、死んでしまうような、そんな方法。

 ソロでの高難易度ダンジョンへの突入。経験値の高い特殊なモンスターを狙い撃ちする、効率だけを追い求めたやり方。本来なら、彼女も連れてきてやりたいのだけれど、その特殊なモンスターにエンカウントするエリアまで、ひたすらに逃げ隠れしながらの探索になる。ちなみに、帰りは死に戻りだ。そのため、大赤字大前提。

 まずは、僕も最上級職にランクアップして、レアハンター++をゲットしなくてはならない。


 僕らは、時折酒場で顔を合わせ、破滅の回避のための打ち合わせをする。

 不謹慎だけれど、楽しかった。目的のために、ひたすら全力を尽くす。モニターの前で、このゲームをプレイしていたとき、結構のめり込んでたつもりだったけど、今ほど集中したことはなかった。


 この計画の最中に、海原が行方不明になった。

 もう、時間の猶予はない。

 どうやら、主人公……を操るプレイヤー……はとうとうブルーナの凌辱イベント回収に踏み切ったようだ。

 なんとしても、間に合わせて見せる。




 ブルーナが救出され、しばらくの間療養することになる。その間の期間は、おそらく主人公は別のヒロインの好感度上げにいそしんでいることだろう。レベル上げならば同時に行うことが効率的だが、好感度上げならば、ヒロインの好感度を上げやすい構成で絞った方がいい。そのため、個別であげる方が効率的なのだ。

 決められた療養期間を、ため込んだ金の力で解決する。結構な金額になるが、どうせため込むだけで使い道のない金だ。出し惜しみはしない。

 そして、ゲーム知識を最大限に発揮して、最高率の経験値を模索する。いくつかの候補の中から、超高経験値のレアモンスター狩りを決行する。

 数日、レアモンスターのエンカウントエリアに籠って、奴らを優先的に狩り続けた。数ターンで逃げてしまうのがこのモンスターの特徴であるが、倒せれば通常モンスターの十倍以上の経験値になる。まあ、有名な国民的RPGであるところの竜の探索における、はぐれた金属製液体生物のようなものだ。

 数日後、主人公によるパーティ勧誘により、ブルーナが僕のパーティから外れた。

 結局のところ、主人公によるお誘いをキャンセルはできない。これはゲームのシステムから本質的には逃れられないことの証だろう。

 おそらくは二度目のイベントになる。

 間に合うのだろうか。いや、間に合わせよう。

 僕は、その日もダンジョンに潜る。




 そして、三度目のイベントが起こった。

 多分、間に合ったと信じたい。本当なら可能な限りこの凌辱イベントは回避させたかった。

 二度目のイベントの後の彼女はひどく憔悴していた。アダルトゲームの凌辱イベントは、シャレにならないものが多い。このゲームのそうだった。ゲームの中のヒロインがそういう目に会うのは、それがあくまでゲームとわかっているから受け入れることが出来るのであって、現実の知り合いがそういう目に会っていると考えると、ひどく具合がわるくなった。

 あの日、娼館で見た、壊れたヒロインたちの何も写していない瞳を思い出して、僕は、ひどい頭痛によろめいた。

 彼女に渡すべきアイテムはそろった。後は、彼女が4回目、つまりは最後のイベントに臨む前にこれらを渡すだけだ。レベルはおそらくは十分に足りている。

 彼女には、主人公にばれないように、クラスチェンジを控えてもらっている。最後のイベント前に、ソードマスターになってもらえば、それでいけるはずだ。


 三度目の救出イベント。

 戻ってきた彼女はすっかりやつれていて、彼女本来の明るさはもうどこにもなかった。これは時間が解決してくれると信じたい。

 ここで、彼女を慰められるほどの対人スキルが僕にあればよかったのだけれど。



 そして、4度目のイベントに彼女が駆り出された。

 彼女を見ると、僕が渡した装備を身につけてくれている。後は、信じるのみだ。




 二日後、主人公が帰還した。

 おそらくは、ボス戦開始直後、自分だけ「単独で逃げる」選択をしたのだろう。ここまでは予想の内だ。

 大丈夫だ。きっと、彼女は無事だ。そのための準備もした。後は、装備品によるダメージ軽減とオートヒーリングの性能が、彼女がボスを倒すまで彼女を守ってくれることを願うのみ。

 主人公が、彼女の救出パーティを結成する。彼なりに必死に見えた。

 外道ルートに向けたプレイスタイルではあるが、ゲーム内の主人公は、きっとそんなことは知らないのだろう。プレイヤーの思惑と、このゲームの中に生きている主人公の精神は別枠なのだろうなと、思う。

 だが、同情は出来ない。

 少なくとも数人のヒロインが、ボス戦で置き去りにされ、廃人と化した。ブルーナもその危険にさらされている。

 僕も救助に行きたかったが、所詮トレハン要因にその声はかからなかった。

 だから、待つしかできない。それはとてももどかしいことだった。


 救出パーティがダンジョンに挑戦して二日目、主人公たちが帰還した。

 槍とマントで作られた即席の担架で、彼女が運ばれてくる。ひどくボロボロで、僕が渡した「氷精霊のローブ」はひどく損傷していた。

 ダメだったのだろうか。彼女はピクリとも動かない。ただ、彼らがその担架を運ぶ姿は、死者を扱うそれではなかったので、生きているのは確かだろう。

 僕は、催してきた吐き気に耐えられず、目をそらした。


 怖かった。


 この世界に転生して、本当に怖いと思ったのは初めてだった。

 ダンジョンで初めて死んだときも、これほど怖いと思わなかった。


 やがて、担架は僕の前を通り過ぎ、施療院へと向かう。僕は、意思を総動員して、彼女を見た。ひどいありさまだ。だが、彼女の右手に握られているものを見た途端、僕は全身の力が抜け、へたりこんでしまった。


「はは、はははは……。ハ、ハハ、ハハハハッ!」


 僕は額を押さえ……いや、爪が食い込むほど、強くつかみ、どこか狂ったような笑い声を他人のように聞いていた。僕自身が発していることに気付くまで時間がかかった。

 気付いてから、僕は、ただ、狂ったように笑い続けていた。

 泣いていることには、その時は気づくことはなかった。





 あの日以来、ダンジョンに潜っていなかった。

 蓄えは十分にある。少しくらいニートになってもいいだろう? 誰に聞かせるというわけでもなく、呟いた。


 燃え尽き症候群。


 何もやる気が起きない。

 あの異常なまでに充実した時間は、ひょっとしたら僕の数年分のやる気を前借したのかもしれない。

 酒を飲む気にもならない。

 長期契約しているボロ宿の部屋から、ほとんど出ることもなくなっていた。


 ニートで引きこもりか。


 これはこれで、ぬるま湯のようで、気が楽だ。

 とは言え、ボロ宿とは言え、閉め切ってばかりいては部屋が湿気でやられてしまうので、女将の魔の手によって部屋の空気の入れ替えと称して追い出されることがある。

 そんな日は、ただぶらぶらとその辺を散歩するにとどまっていた。


「どうすっかなぁ」


「とりあえずメシでも奢ってくれるとアタシとしては嬉しいんだけどな」


 顔を上げる。どうも、足元だけしか見ていなかったことに今更ながらに気が付く。

 にししと笑う、いつもの笑顔がそこにあった。

 少しだけ違うのは、彼女が背負う漆黒の大剣であろうか。

 魔剣ティルヴィング。彼女の専用武器であり、凌辱ルートボス討伐の証でもある。


「ああ、そうだね。そうしよう」


 僕は、そう答え、自然彼女の手を取った。どうしてそんなことが出来たのか、僕にも分からないのだけれど。

 彼女は、一瞬あっ気にとられたような表情をしたけれど、拒むことはなかった。








 そこで終わっていれば、ハッピーエンドと言えたのだろうけれど、僕はこの時、失念していたことがある。

 物語は、まだ終わっていないということに。

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