月のリング
「スズキのポワレでございます。」
そういって、なにやら魚料理が出てきた。
この後冷たいもので口を洗い、肉を食らう予定だ。
大人になって、それにどういう名前がついていて、どう食べるのか、大体知った。
「サプライズがないんだよな」
口をついて出てきた言葉に、目の前の女がぴくりと反応する。
しまった。この場所で、この人に、サプライズは禁句だったか。
男は、この間がどうも嫌いだ。
知っていて知らないふりをしたり、知らないのに知っているふりをしたり。
あいにく今日はそれを満たすアイテムを持ち合わせていないので、この焦りで今夜のデザートは何であったかはきっと忘れる。
その時だった。
女が不思議な顔をした。どういう名前を付けたらいいかわからない顔だった。
「あのね、給食で、デザートは最後に食べるって、言われたじゃない。
でもね、私この前知ったのよ。デザートを一口食べて、スープを飲むと、
どっちも、ずうっとおいしいのよ。」
その日は、熱々のパンケーキに、冷たいアイスが乗ったデザートを初めて食べた。
目の前の彼女はずっとにこにこしていて、月が世界一きれいな夜だった。
おわり