好意の代償
向かいから幸せそうな男女が歩いてくる。
私はそっと視線を外し、左腕に手を当てる。
ズキリと傷が痛む。
好きな男がいた。
優しくてカッコいい人。
好きだと伝えたかった。
それを同じサークルのメンバーによって潰された。
その女は私が好意を持っていることを良しとせず、引き下がるよう迫った。
私が拒否すると、隠し持っていた包丁で私の腕を切りつけた。
直後に駆けつけた彼に、自分で切っていたから包丁を取り上げたと宣った。
違うと言っても信じてもらえず、傷の手当てで病院に連れていかれ、心療内科を勧められた。
その後、女と彼が付き合い始めたと人伝に聞いた。
私はサークルを辞めて大学も授業がある日、それも開始ギリギリにしか行かなくなった。
学部が違うから顔を合わせる機会は少ないけど、苦い思い出のある場所に長く居たくなかった。
傷は完全に塞がっている。
だけど、こうやって思い出す度に切られたところが疼く。
あと、どれくらい痛みに耐えればいいのだろう。
記憶を断ち切るように腕を抑えて足早に立ち去った。