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金魚草の歌

作者: 天理妙我

 最近、お店で売っている花の種に、切花用金魚草なんて書いてあったりする。金魚草、じゃなくて、切花用金魚草。


 じゃあ、切り取り線でも入ってるのかな。だったら面白いよね。茎に切り取り線が入ってたら。便利だし。ぴりぴりって簡単に切り取れるの。楽しそうじゃない。




 庭に切花用金魚草の種を蒔く。育て方は容易な方。日当たりと水はけのよいところなら特別に気にするようなことはないらしい。時季が時季だし、種を蒔いてから苗が苗と呼べるようになるまでは水やりが必要。乾燥は禁物。その後は放っておいても別段の支障はないようだ。乾燥が続いて葉がしおれてきたら水をやったり、雑草を取り除いたり、そのくらい。


 春の終わりごろにはたくさんの金魚草が咲く。色はやっぱり赤。金魚草だもの。それも切花用金魚草。背が高くて、茎には土から三センチくらいのところにくびれがあって、そこからぽきっと折れるようになっている。簡単に摘み取れるように。便利な時代だ。


 でも、きれいにぽきっと折るにはちょっとしたこつがいる。ちょうどきれいに板チョコを割るのと、きれいに割り箸を割るのとの中間あたりの難しさ。切り口が斜めの、とても不格好なかたちになって、外皮が残っちゃって、それが地面までぴーっと裂けたりする。色の付いた砂糖水を凍らせた、ふたつでひとつづきの氷菓を割りそこなったときのように、ぐにゃりとなったりもする。


 失敗は伝染するが成功は伝染しない。はじめは簡単にぽきっと折れて、なんだか楽しい気分だったけど、一度失敗すると、慎重になればなるほど駄目だったりする。むきになってやっているうちに庭の金魚草を残らず摘み取っちゃって、こんなに大量の切花を、一体どうしたらいいんだ。


 玄関にも手水にも、居間にも寝室にまで花瓶に生けた金魚草を飾っても、まだ余る。最後は先祖のお墓にお供えして、あとは見知らぬ、大切にされていないように見えるお墓を洗って金魚草を手向ける。


 また秋になれば切花用金魚草の種を蒔く。春の終わりにぽきっと茎を折りたくて。今度こそ上手に。それまで雑草を取り除いたり生活の糧を得たりしながら。人生ってそんなものなのかもしれない。何に期待するでも、何になるでもなく。切花用金魚草を、きれいに摘み取りたくて、生きるのかもしれない。どうせうまくいかないのにね。


 どんな未来が惜しいですか。

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