表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護者の苦悩  作者: ぶるーちーづ
帰らずの森
8/8

終幕の兆し













目の前に大きな岩が立ち塞がっている。



マモルはまさにそんな気分だった。



だが、これは岩ではない。れっきとした生き物だ。証拠に呼吸をしているためか、規則的に膨らんだり萎んだりしている。



『竜』という概念がこの世界にあるのか分からないが、目の前にいたのは、西洋での“ドラゴン”だった。




ーーーもう、これで終わり



少なくとも、カナリアはそう思った。そもそもが幸運だったのだ。帰らずの森は、そう呼ばれる理由がある。


何度も同じことを考えた。


そのたびにマモルを見て、改めて、一人になればまた不安になる。そんなのの繰り返しの毎日だった。



ただ、初めての安全地帯の外に出て、体験した恐怖はそんなことを考えさせることすらさせてくれない。すべてを塗りつぶす恐怖。



すべてをあきらめた視界の隅で捉えたマモルはーーーー


「……………え?」



ーーー全くもって自然だった。



その顔に恐怖はない。興奮もない。


無表情と題を打たれたマスクを被っているかのような顔。耐性スキルによって生じるその現象。


不要な感情をすべて強制的に排除し、ただただ冷静さのみを高めるスキル。その効果は使用者の無表情さによると言われている。



マモルの顔は、氷のようだった。



それも熱に溶かされ、まわりを水滴が囲っているようなものではなく、ツンドラ気候にあるよつな、とがった氷。



そして、カナリアは理解した。



ーーー耐性スキルでカバーしきれたということは、マモルには脅威たり得ない



さらに、考えた。マモルがいまだに動かない理由を



ーーー私が邪魔なんだ




「まーーー」


「ーーー言うな」



名前を呼ぼうとしたその瞬間だった。かぶせるようにしてマモルがカナリアの言わんとしていることを推測し、先に否定する。



「でも…………」



「でももだってもない、その道を選んだのは俺だし、お前を返すと約束した。問題ない」




ギュワァァァァァァァア!!!




ゴツゴツとした真っ黒な鱗に覆われ、マモルの体の何十倍もあろうかという巨大が威嚇するように吠える。


だが、マモルは逆にそれが合図のように歩き出した。



ドラゴンにむかって一直線に





先に攻撃を仕掛けたのは、ドラゴンだった。




その膂力をいかし、爪を爆風共に振るう。


マモルに当たるという瞬間、その姿が消える。


いや、消えたわけではない、そう見える程の早さで動いただけ。


ドラゴンは、振るった腕に違和感を感じ、そこを見ると、腕を足場にして、駆け上ってくる男の姿があった。


対して、ドラゴンのとった行動は



ーーー暴れながら上昇だった。


体長の二倍はある羽を大きく広げ、飛び上がる。人間が立ってすら居られないだろうその中で


男は平然と走ってきていた。



そして、この時、別の違和感を覚える。


その正体はすぐに分かった。



ーーー腕を走られている感覚はあるのに、その姿が見えない



気づくのは簡単だった。だが、対策はほぼ不可能だった。



この森で生きているものなら知っている。


この森にある、危険なものを


一つは、その天災と言わんばかりの気候変動


一つは、理性のない化け物達



そして、もう一つ、それが、植物だった。



言ってしまえば、毒草。上手く使えば、薬にもなると言われるそれは、むしろ、毒として使う方が簡単な場合が多い。理由は簡単だ。分量など気にしなくて良いから。



今回マモルが用いたのは、麻薬の類いだ。



幻覚を幻聴をあらゆる「存在しない感覚」を感じさせる。帰らずの森原産の最強の毒の一つだ。


扱いが難しいのは、粉末にして撒けないことぐらいだろうか、普段はツルの形をしている“ソレ”は、生き物が近づくと、途端にツルツルとしたその表面を猛毒の塗りたくられたトゲのある縄へと姿を変え、捕らえ弱らせ捕食する。



食虫植物は、根から吸収するのではまかなえない窒素化合物を動物から得ると言われるが、“ソレ”は違った。捉えたもののすべてを食らいつくす。毎回精製する毒を変え、確実に獲物を仕留める。




マモルは、その特性から“慣れた”



そして、いざと言うときのためにもっておいたのだ。


彼の状態異常耐性が生まれた所以の一つでもあるそれは、根と離れた状態でもある程度の間活動することができた。




ドラゴンは、それにやられたのだ。



いかに、体を鍛え外的攻撃から身を守ることができても、人が内蔵を鍛えられないのと同じように、ドラゴンも内側から攻撃をされては、かなわない




それでも、ただでやられる訳にはいくはずもなかった。




毒のせいで、前も後ろも分からない状態、そんなとき野生の化け物が選ぶ攻撃など一つしかない



全方向への攻撃






魔力を口の周りに集め出しているのにカナリアは気付いた。



マモルはうんと先にいる。いつの間にか離れていたのだ。


この位置で自分に気付けて、マモルに気付けないはずはないが、いま、そんなことを考えている余裕はなかった



「マモル様!!何かきまーーーー」



最後まで言い切れなかった。



もう既に、襲いかかってきていたから


なにが?



灼熱の炎で作られた津波だ。


その奥では、体をぐるぐると回しながら炎をばらまいているドラゴンの姿がある




ーーーーあぁ、マモル様。本当にありがとうございました。あなた様に守られて、私は幸せでした




本当に死を感じたカナリアがとったのは、祈りの姿勢だった。


何の神に祈っているわけではない。ましてや、何かを願っているわけでもない。



「さようなら」



それがカナリアの“最後”の言葉だった。























ーーー風を切る音が聞こえる




カナリアが感じたのはまずそれだった



ーーー良い匂い。落ち着く



次に感じたのは匂い。そして最終的に



ーーー天に送られているのかな、死後の世界はこんなにも良い匂いがするのか



そんな結論を出した。



……な……ぃア


ーーーん、なんだろう?


「カナリア!!」



ーーーー懐かしい声、私の大好きな声、あの人の声だ。あの人と一緒におくられたのかな?



「起きてるなら応えろカナリア!!」





叫ぶようなその声に、カナリアは現実に戻った



「ここは?」



まだうつろな目でそう言う。そして、そこでようやく、自分がおんぶされていることに気付いた。



「ほら、見てごらんカナリア」



そんなことを気にしているふりもなく、彼は続けた。体が動かないカナリアもされるがままだ。頭では離れたいだの思っているわりに、その腕は、逃がさないとばかりに、背負っている彼の体を締め付けている。



だが、そんなのも彼の次の言葉ですべて吹き飛んだ。




彼はいつもの優しい声でこう言ったのだ













「……カナリア。ほら、外だよ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ