護るのために
言い忘れてましたが
ここの章まで、プロローグみたいなものです
あの狼の一件以降、マモルは死にもの狂いで自らを鍛え始めた。
方法は簡単だ。
森を歩き回る。
ただそれだけ、魔力の循環をコントロールしながら、つまり、肉体強化の魔法を使いながら。
そして、気づいた。あの狼がこの森でも弱い存在であったと。あの場所がなぜか、化け物共が来ない安全地帯なのだと。
カナリアをそこにおいて、体一つで外に出る。
するとどうだ、易々とマモルの体を噛み千切り、引き裂き、踏みつぶしてくる。
マモルも今度はただやられるだけでなく、躱したり反撃を試みるが、まるで姿が捉えられない。
歩き回って初めて会ったのは、3メートルくらいの巨人だった。体色は緑で右手に棍棒を持っている。
そいつに見つけられて、防御姿勢を取った瞬間
「ぐっあぁぁぁ!!」
マモルは吹き飛ばされていた。
狼との戦いのおかげで、刃物や牙に対する耐性は、ついていたが、殴打に関しては全くと言って良いほど常人だった。
さらに、狼とレベルが違いすぎて攻撃が見えない。
吹き飛ばされた後は、また同じだった。
つまりは、餌。
今回は毎回抵抗したが、それでも、何回も殴られてその度に全身の骨という骨を粉々にする。しかし、恩恵は、それすらも瞬時に治してしまう。
巨人が寝ると隙を見て、カナリアの元へ向かい無事を確認すると
「大丈夫か?」
「はい、マモル様」
と、一言支わすと巨人の元へ戻り、わざと攻撃して叩き起こしまた戦い始める。
話すのはまた声が出なくなるのを防ぐためで、このとき、マモルは、全くと言って良いほど睡眠を取っていなかった。
しかし、その成果は如実に表れた。
四六時中戦い、食われ続けたおかげか、ものの数週間で巨人の攻撃が通じなくなり、肉体強化の魔法も、ほとんど思い通りに使えるようになった。
その次は、大鷲をさらに大きくしたような鳥。超滑空からの、嘴での突き刺し、足で掴まえては上空から落とす。
その次は、馬のような馬。表現が変だが、どの生物も規格外の大きさしているなかで、こいつは、馬のような大きさで、馬のような姿をしていた。
こいつには、疾走した勢いで弾かれ吹っ飛ばされたり、その足で思いっきり蹴飛ばされたりした。無論、馬な訳はないので、食われもした。
次は、植物みたいなやつだった。
こいつは初めてで、体を溶かしたり、腐らせたりされた。無論、一瞬で治ったが、その異常な痛みは何度か気を失った。こいつに関しては倒すではなく、攻撃が聞かなくなった時点でやめた。
次は、雷を纏った鼠だった。大きさは、全長5メートルくらい。当然ぶつかられるだけで電撃をくらい死にそうになるが、心臓が止まる前に恩恵が治してくれる。恩恵の名前を『不死身』に変えた方が良いのではないかと思い始めた。
こいつは、雷の魔法も、使ってきた。初めての魔法故全く耐性がなくボロボロにやられた。トントン拍子でやってきたこれまでのなかで一番手こずった。
おかげで一日だけセーフティゾーン帰れないことがあり
「マ、マモル様っ!!大丈夫なんですか?本当に?なんでかえってこなかったのですか!?」
「俺の恩恵を知っているだろ?一瞬で消し飛ぶでもしない限り死なないよ」
と、体をベタベタと触る一悶着があった。
俺は彼女にとって道具だ。帰るための道具。
故に、無くなるのは心配なのだろう。
次は、体が魔法で属性に別れている奴だった。体格はマモルと同じくらい。具体的には、右手が炎、左手が水、右足が土で、左足が氷、胴体は真っ暗な闇で、顔の部分には、竜巻が丸くなって渦巻いていた。
唯一、この森でマモルを食わない存在だった。既に、何匹もマモルの耐性をぶち抜き食べることの出来る存在事態が限られていたが、必要としないという意味で食べないのは唯一だ。
しかしながら、最も長い間お付き合いした。
魔法の耐性の恰好の餌だったからだ。
魔法の基礎と言われる属性の魔法を食らいまくった。
焼き尽くされ、粉々にされ、消し飛ばされ、潰され、
物理攻撃なら耐性があるものの魔法を介すると効果はなくなるらしい。
さらには、倒し方が分からないし、旨味も無かった。
肉がついていれば、カナリアがとても喜び嬉々として料理してくれるが、こいつを倒してもそれがない。
こいつは、専用の対策を取った。カナリアに教えてもらった方法で倒すことが出来たのだ。
その結果、嬉しい副産物も出来上がった。
そして、これがおわると、マモルは脱出にその目的を変えた。
今度は、カナリアを連れての探索ということになった。
どちらが出口で深層なのな分からない状態で、カナリアをおいていくのはむしろ危険だと思われた。毎回戻っていると時間の無駄だからだ。
この時点でのマモルは
《物理攻撃耐性9》《魔法耐性10》《状態異常耐性9》《睡眠耐性10》《飢餓耐性10》《精神耐性9》
となっていた。
耐性を取っていくと、どんどん統合されていくことが分かった。そして、精神耐性、これは、他の耐性スキルに依存していることも分かった。
考えてみれば単純だ。
人は未知のものが怖い、そして、自分より強いものが怖い。それらが、脅威たり得なければ、恐怖を感じることなどないのだから。
だか、ここではもう一つの要因があった。マモル自身は気づいていないが、ひたすらに餌として扱われて正気を保っていられるのは尋常なことではない。
マモルの場合は、カナリアへの思いがあった故だが、それも苦痛に耐えたことに変わりは無いのだ。
単身で乗り込むのと、誰かを守りながら行くのは訳が違う。
それは、行く道が困難であれば有るほどその傾向が強くなる……………
それが、ただの強い人間なら
マモルはその点に関して他人とは異次元の強みがあった。
大抵、化け物が生息する場所では戦うことを拒否するようにしていくのが普通だ。
罠や化け物の襲来に気を配り、近くに居ればバレないように逃げ出す。見つかれば逃げるか死に物狂いで戦う。
しかし、守る対象が居れば話は変わってくる。
簡単に逃亡を選べないし、戦うときも流れ弾ーーー具体的には、背中に背負っているとき、避けるという選択肢を選ぶことができないーーーことや、その対象が敵に見つかったり音を立ててしまい、二次的に自分を見つけられたり。
守る人が居るほど強くなれるなんて人間がいることは、否定し得ないが、それがあることで、状況にプラスになることはほとんど無い。むしろ、一人の時よりかなりのマイナス面があるはずだ。
そんな中で、マモルは異質だ。
なぜか?
避ける必要が無いからだ。
さながら自らを盾にするように、護衛対象の前に立ちはだかり、森で否応なしに鍛えられた、その危機察知能力と感知能力をフルに使い、最小限の危険に抑える。
そこにあったのは『守護者』としての、完成された一つの形だった。
それでも、守ることが上手くいくのと探索が上手くいくのとは、話が異なる。
太陽も月も星も何もかもが不規則に変動し、北も南も東も西も分からない状態で、初めては選んだ方向は
「こっちにしてみよう」
と、マモルが適当に指差した方だった。
これにはちゃんとした理由がある。
現在、カナリアは完璧に足手纏いだ。マモルがどう思っているかはいざ知らずカナリア自身にその自覚があるし、仮に誰かがこの状況を見たところでそれを否定することはないだろう。
ご飯を作っていると言っても、それが無かったところで、食事すら『能力』のせいでほとんど必要としていないマモルには、あまり関係の無い話だ。
故に、このような状態でカナリアが方向を決め、それが誤った方向で逆に森の深い所にむかっていたとき、責任の所在がカナリアに有ることになってしまう。
何も分からない状態でほとんど勘に頼るしかなく、間違ってもしかたないというのに、だ。
だから、マモルが決めた。
そしてそれは……………………
間違った方向だった。