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後悔

春休み。卒業シーズンから入学シーズンへの移り変わりの時。

「遊真、どこか行きたいところはある?」

春休み初日に母親からの提案があり、俺は考えた。

前の人生でできなかったことを、今してみたい。父親はいなくとも、母親だけとでも一緒に旅行でもしてみたい。

「旅行行きたい!」

やり直すんだ。最高の人生を送りたい。

「母ちゃんと、旅行行く!」

「そう、じゃあ長野の山の中でも行こうか」

「うん!」


3月27日。母親が俺の服や常備薬を用意し、大きなキャリーバッグを持って家を出る。

こうして楽しみでしょうがない俺と、やつれて痩せ細った母親の波乱の旅行が始まったのだった。

「母ちゃん、新幹線はどこ?」

目をキラキラさせて俺は聞く。母親はかすれた声で答える。

「バスに乗って駅に行くの。そこから新幹線に乗るのよ」

母親をこんなにしてしまったのは俺だとわかっていた。でも、なにもできない自分がいることも分かっている。

助けられるのは自分しかいないのに、助けない。

ただやつれていく母親を見てることしかできなかった。

「ほら、お金を出して」

母親が教えてくれた「バスの乗り方」を思い出して俺は100円玉を払う。

周りのお年寄りからは「えらいね〜」なんて言われもするが、俺は心の中で「当たり前だろ」とか思っていた。

俺の脳内に、何が起きたのだろう。知力や学力が何故か中学生並みになっている。

「俺の名前は?」

ふと呟き、はっと我に帰った。俺は、俺は…

「このバス、どこ向かってんだ?」乗客の一人が大きな声で言う。

外へ目を向けると、バスはもう山の中に入っていた。

道じゃないところを走っている…このバスは乗っ取られたのだと、すぐに分かった。

と思ったらいきなり止まった。山の中腹あたりだった。

周りには木、木、木。いつの間にか運転手は降りている。そして意味不明なことをしだしたのだ。

車体に、ガソリンをかけ始めたのだ。

「おい、あれってまさか…」

乗客はみんな察したようだ。互いに色々言い合っている。

「逃げろ!燃やされるぞ!」

叫び声をあげながら一斉にバスから脱出する。そんな中俺の母親は車内に倒れていた。

運転手はもうマッチの火を準備していた。

「母ちゃん!逃げようよ!」

ピクリとも動かない母親を、俺は力任せに引っ張った。だが母親は息もしていなかった。

「母ちゃん…!」

俺はついに逃げた。自分だけでも助かろうとした。その選択は正しかったのか、間違っていたのか。

わからない。俺にはもう、わからないんだよ。

焦げた臭いと煙に囲まれて俺は逃げる場を失った。俺にはもう、「生きる道はない」。

「次は成功するといいな、美与子」

視界が遠くなる。また、この時を迎えたのか。

短い人生の、死の瞬間を。


「美与子、俺はどうすればいい?何度やっても同じって、そういう結果じゃないのか?」

美与子は黙っている。全てを知ってるかもしれないのに、話してくれない。

「教えてよ」

何も。

「教えてよ」

言わないのか。

「教えてよ」

お前はひどい。

「なんで」

もう、何も言ってくれない。アドバイスもない。自分でやれって、そう言ってるような気がする。

「くそが…所詮お前はそんなやつなんだろ!もう、頼らないし、お前となんて一緒にいたいとも思わない!静かに、消え去れ!俺の前からいなくなれ!」

思った言葉をひたすら投げつけて俺はストレスを発散するだけだった。

「…」

それでも喋らない美与子に俺は本気でキレた。右の拳を突き出して殴ろうとしたが透けてしまう。

そっか、俺らは今、魂だけなのか。

「ごめんね」

俺の目的は、美与子を生き返らせて幸せな人生を送らせることじゃなかったのか。

「私、消えるから」

美与子は泣きながらゆっくりと向こうへ歩いていく。

「み…」

言葉が詰まった。こんな時に…美与子…待ってくれ…

「じゃあ、ね。」

見えない。「そこ」に、美与子はもういない。

俺のせいなんだ。俺が…俺が…


「遊真くん…」

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