希望が呼んだ絶望
「皆さんに、大変悲しいお知らせがあります」
全校生徒、栞を除いて全員出席したこの日。怠けた私服で来たのは、俺だけだった。
校長先生が前に立ち、この間あった事件について話し始める。
「先日、ある金物店に強盗が入りました」
俺は話の途中だったが、叫んだ。
「はぁ!?警察が使い物にならなくなったんじゃないのかよ!」みんながこちらを向く。俺は、間違ったことなんて少しも言ってない。警察が使えなくなったというニュースを鮮明に記憶している。
誰一人「そうだろ!」とか言う声がないことで、俺は理解した。
大きな歪みが生じてしまっていると。
「静かに、宮戸くん。君も死にかけたらしいじゃないか、それならこの話をよく聞いてくれ」
俺は声を押し殺すように黙った。しゃべりたかった。反論したかった。
「話を戻すが、強盗による事件があり、ご存知の通り宮戸遊真くんと宇多川栞さんが巻き込まれた。宮戸くんは九死に一生を得たが、宇多川さんは今集中治療室で生死をさまよっている状態だ。お見舞いはできないが、それなりにみんなで応援してやってくれ」
緊急の集会が終わると、周りの奴らはみんな俺に話しかけてきた。
「痛かったか?大丈夫?」
「死ななくてよかった」
うるさい、みんな、みんな。俺は今違うことを考えてるんだから、話しかけないでくれ。
俺の考えてることとは、時空を飛ぶ方法だ。
いつも気がついたら飛んでいる。使いこなせるようになったら、俺の「最高の人生を送る」という夢も一歩前進であるのは間違いない。だって、運命を修復できるのだから。
「くそっ」
群がった生徒たちを払いのけ、颯爽と体育館を出て行く。
そして俺は、近くにあるJRの駅へと向かったのだった。
賑わう駅のホームは目を凝らすと暇してそうな爺さん婆さんばかり。ふぅ…と呆れたため息をついて、俺はベンチに座った。
精神病院でも行ったほうがいいのかなあなんて思いながら、これからのプランを組み立てていた。
まずは時空を飛ばなければ、人生の修復などできない。
そして俺は考えに考えぬき、この答えを出した。
「時空を飛ぶ時、俺は一回死んでいる」
よくわからないとは思うが、こういうことである。電車のホームに来たのもそのためで、飛び込み自殺をすれば、死ぬ瞬間に飛べるのではないかと考えた。
運転手さんとかには迷惑をかけるので、すいませんとだけは言っておこう。
3分後、アナウンスが鳴った。
「まもなく一番線を、列車が通過します。危ないですので、白い線の内側までお下がりください」
遠くから、きらびやかな車両が見えた。特急列車だ。飛び込み自殺にはちょうどいい速さだろう。
並んでいる一般人が少し後ろに下がった時、俺だけは前に走り出していた。
「うおらあぁぁぁ!!」
雄叫びをあげ、線路に飛び込んだ。特急列車のスピードは意外と速く、地面に着く前に俺は激突した。
違うところに、飛べる気がした。俺が、未来を変えられるような、そんな気がした。
だが、そう上手くはいかなかった。
「うっ」
内臓が破裂し鼓膜が破れるのを感じた。目が飛び出るのがわかった。
首、手足、腹が無数に分かれた。ぶつかる衝撃で引きちぎれたのだ。
首だけになった俺は考えた。
なぜ、こんなことをしたのだろう。
無茶なんて、しなければよかった。
時空を飛ぶなんて、夢の話だったんだ。
そう、俺は、時をかける人にはなれなかった。
ただの、自殺者になっただけだった。




