友人に贈る。
ゲームの中、動くのは私の分身。知らない誰かが打ち込んだ字ですぐにチャットは揺れ動く。助けてくださいと打っても、次の人が打った字で文面はすぐに見えなくなった。
端末を握りしめ、ため息をつく。このクエストをクリアしなければ先には進めない。魔法職兼回復職の自分には辛いクエストだった。
自分のグループのチャットを仕方なしに眺めていると、友人が話しかけてくれた。チャットを見た、助けてやろうかと。
まだなれてないゲームだった。元々そこまで器用な方じゃないし、ゲームは下手だ。初心者の自分に、そういってくれたこと自体が嬉しかった。
お願いしますと文面を打った。場所を決めてクエストを受ける。
その人の協力もあり、簡単にすんだクエストの終了画面を眺めながら、私は憧れたのだ。自分より遥かに多いダメージを画面上で叩きだし、悠々と倒していくその姿に。それでも崩さない紳士的な言動に。こうありたいと願ったのだ。
こっそりと、許可をとらずに彼の分身にお気に入り登録をした。その人が私の目標だった。
その人が苦しんでいる様を端末越しにしか見れない自分に苛立った。他の人が好き勝手やっているなかで、止めにはいる彼のことを心のどこかで傍観していた。
きっと、彼と彼の優しい友人に私は怒られるべきなのだろう。怒鳴られて嫌われるべきだろう。
なにもしなかった私に、それは似合いだ。