罪人と魔法使い
♦♢:主人公などの過去の記憶。
「まったく…普通猛獣って言ったら虎とかライオンとかだろ。こんなバカでかいトカゲとかアリかよ」
手にはトカゲの唾液がついてべとべとするし、口からは結構臭い口臭が漂ってくる。
はっきり言って今すぐにでもこの場から逃げたい気分だ。
「うっへぇ~~気持ち悪い…おい、そこの嬢ちゃん。早く逃げてくんないか?じゃないと俺が逃げられん」
「う…むり…言わない…で」
「っておい!寝るなってば!」
俺の後ろに居る女の子が完全に意識を失う。
困った…このトカゲ結構力が強いから、そろそろ腕が限界なんだよな。そんなことを思っていると俺を押す力が一層に強まる。
口を押えている腕がプルプルと震えてきて、だんだんと後ろに押されていく。
「しょうがないか…」
自分の中にある、力をイメージする。力はカギのかかった金庫のようなものに入っているイメージだ。その金庫のカギを開ける…ガチャリと、カギを開ける音がして体中に力が駆け巡る。
「うおぉりゃあぁぁぁ!」
力の限り一気にトカゲを押しかえす。
トカゲも爪を地面に立てて抵抗を見せるが、その抵抗も空しく地面を削りながら後ろに下がって行き大きな木の幹にぶつかって止まる。
気にぶつかった衝撃からか、顎の力が弱まったので手を放す。ガチンと鋭い音を立てて口が閉じる。
その閉じたワニのように少し長い口を脇に抱え込む感じで掴む。そして、両手両足に力を込めてトカゲを持ち上げる。
やっぱりこいつ、思ったよりも…重いな。鱗が金属のようにギシギシなっているし、それ原因でこんなに重いのかもな。
トカゲを持ち上げて砲丸投げのように遠心力を使って回して、大きな木に背中から思いっきり叩きつける。ドスンと重い音を響かせて、木の幹を窪ませる。
トカゲはそのままずるずると地面に落ちていき、ぐだっと横たわる。死んではいないようだが、どうやら気を失っているようだ。
「ハァ、ハァ……たく、キツイっての。嬢ちゃんは大丈夫か?」
ガチャリと、金庫のカギを閉めると一気に疲労が押し寄せてくる。毎回この感覚には慣れないものだ。
踵を返して女の子の方に行こうとすると、後ろでギシギシと何かが軋むような音が聞こえた。
「冗談…だよな?」
振り返ると真っ青な目をしたトカゲが俺をにらんでいた。
「あ、タンマ!今無理だから!」
俺の声など聞こえていないかのように、思いっきり突っ込んでくる。
♦
バチバチと、何かが弾ける小気味いい音で目が覚める。
目の前にはたき火があり、ときおりバチと気が弾ける音がする。
「ここは?…」
体を起こし周りを見るとたき火の反対側に人影が見えた。
「お、目が覚めたか。気分はどうだ?」
「え、ええ。大丈夫よ」
目が冴えてきて人影の正体がはっきりする。人影は黒髪に黒い眼の青年だ。年の頃は私と同じぐらいだろう、顔つきはまぁ、普通だと思う。
でも、なんで私は彼とここに居るんだろう?記憶がいまいち曖昧なままだ。私は何をやっていたのだろうか。
確か、魔法の媒体になるウインド・リザードの鱗を盗るために、この「死の森」に入ったんだ。
森の奥にあるウインド・リザードの巣になっている洞窟に入って、眠っているあいだに鱗をはぎ取ろうとしたら、物凄い振動がいきなりきたんだ。
その振動のせいでウインド・リザードが起きちゃって、森の中を追われる事になったんんだ。
「…ウインド・リザードは!?」
「大丈夫だよ」
「もしかして…倒したの?」
「いや?」
青年が私の後ろを指さす。その指し示す先をゆっくりと振り返る。
「グアァ~~」
「……」
私のすぐ後ろにウインド・リザードが前足を組んでそれに顎を乗せて、如何にもつまらなそうに私を見ていた。
それを見て、私の思考が停止した…
「キャアァ~~~~!!!!」
「うぉ…」
咄嗟にびっくりして、自分でもびっくりするほどの速さで青年に抱き付いてしまった。
青年はなぜか顔を少し赤くしてそっぽを向いている。
私が抱き付いたからだと思うけど、これはしょうがないでしょ!真後ろにウインド・リザードだもん!
だが、しばらくしてもウインド・リザードは私を襲う素振りも見せない。心なしか、さっきまで対峙していた時に感じた殺気のようなものは無い。
「こいつは大丈夫だよ…それより、そろそろ離れてくれると助かるんだが…いろいろと」
「あ、ごめんな、さ…い?」
青年に抱き付いていることを思い出し、ぱっと離れる。よく見るとなぜか青年は上半身裸だった。少し嫌な予感がして視線を落とすと、なぜか着ていたはずの衣服は無く、下着姿だった。
「あ、あああ……」
青年は上半身裸で、私もなぜだか下着姿。
思考がぐるぐると回る…でも一つだけわかることがある。それはこの青年が…
「……へん、たい!」
「いやいや、まて!話せばわか」
「こっの、変態~~~!!!」
「ふべらぁ!」
「傷だらけで意識のない女の子の身ぐるみ剥いでおいて…あまつさえ話せばわかるですって!」
青年の頬に思いっ切り叩いた。
青年は驚くほどあっさりと私に叩かれて、後ろ向きに倒れて大の字になる。
私が青年を睨みつけていると、ボフっと何か柔らかい何かが私の背中に当たる。後ろを振り向くとそれは私のポーチの中にあるはずの予備のマントだった。急いでマントを拾い上げて素早く着る。
どこからマントが飛んできたのかと思い、あたりを見回す。すると、さっきまで私が寝ていた場所に居るはずのウインド・リザードが居なくなっている。代わりに小さな人影が見えた。
恐る恐る近づいてみると、腰まで伸びる少しウェーブのかかった銀色の髪に青色のくりくりした目の可愛らしい女の子が私のポーチを漁っていた。
よく見ると、着ているものは胸元に穴が開いており、至る所が破れてボロボロの服だ。もしかしたら奴隷商人から逃げてきた子なのかも。
「あなた、だれ?」
「……」
女の子は一瞬私の方を向いたけど、すぐに興味なさげにポーチを漁る。
「あの、それお姉ちゃんのなんだ。返してくれるかな?」
「ハァ……貴女って、ろくなものを持っていないのね。はい」
そう言ってポーチを私の方に投げて渡す。
私にポーチを渡すと、すっと立ち上がり青年の方にトテトテと歩いていき、青年のほっぺたをつつき始めた。
女の子が何をしたいか全くわからないけど、変態に近寄らせると何が起きるか分かったものではない。すぐに女の子を助けるために青年が倒れている方に向かう。
「つんつん……はぁ、完全に伸びてるわね」
「ちょ、何やってるの!?早く逃げないと襲われるわよ!」
「…ハァ、貴女誤解してるわよ」
「誤解?」
女の子が青年をわざわざ踏んづけて、私の前に来る。
「自分の体見て気が付かないの?」
視線を下に落とす…着ていたはずの旅用の丈夫な服は無く下着姿だ。
しかし、よく見ると腕やお腹、足などに包帯が巻かれており、薬草の独特な匂いがする。
もしかして、これって手当してくれたの?彼が?
「…ようやく分かったようね、貴女を…守って、傷も治療したのに。変態呼ばわりして張り倒されるなんて彼も気の毒よね」
「……」
そうだ、あの時ウインド・リザードに食べられそうな時に、体を張って助けてくれたのは彼だろう。しかも、治療までしてくれた。
「それで、貴女はどうするのかしら?」
「どうするって…」
「恩人を張り倒してそのまま放置するのが、貴女なりの恩返しなら何も言わないけど?」
「うぅ…分かったわよ。私が悪かったわよ…」
「なら、彼を火の傍に運んで介抱でもしてあげなさい」
♦♢
燃え盛る家が見える…誰の家だ?
あぁ、俺の家か。
窓が大きな音を立てて砕けながら、何かを吐き出す。
よく見ると人間だ。人間は赤い軍服を着ている。この軍服は連合国の軍服だ…なら俺の敵だ。腰に差してある直剣をその人間の頭に突き刺す。しばらくもがいた後、動かなくなった。
俺の家の中は荒らされていて、しかも火の手が迫っていることもあり見通しが効かず歩きにくい。
一回の、あいつの部屋行く。あいつの部屋のドアは無残にも壊されている。
抜刀して、警戒しながら部屋に入る。
最悪の光景が目に映った。
長い槍状のものがあいつに刺さっている。深く、深く…
『サーシャ!!!!』
主人公の設定的には。
・元の世界では軍人(最終階級大佐)
・普通の人間より遥かに高い身体能力がある
・武器の扱いが得意で、特にナイフが得意。ある程度の毒物にも耐性がある
・暗い過去を持つ
・環境適応能力が高い