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森の中の罪人

「んじゃ、がんばってね~」


 さてと、僕の思惑通りに事が運んでくれればいいけど。

 楽しみだなぁ~


「テオ、いいのですか?あのような者を送り込んでも?」


 後ろから落ち着いた低い声が聞こえる。

 振り返ると金髪で細身の男が立っている。


「ん?テスカか…良いんだよ、面白そうだしね」

「面白いからって…それだけですか?」


 背の低い、テオと呼ばれた神様が地面に大の字になる。


「う~ん、強いて言うなら彼の行いによる世界の変化に期待してるってところかな」

「世界の変化ですか?」


 テスカが寝っ転がっているテオの横に座る。


「そう、世界の変化だよ。彼は面白い人間だ。彼ならばあの停滞した世界を動かしてくれるだろう。僕的にはいい方向に動いて貰いたいし、そのための種も仕込んだ…僕は世界の変化を見守るだけさ」


 そう言ってテオは目を瞑り寝息を立て始める。

 


 地面に向かってかなりの速さで落ちる影が一つ。

 ドーンとものすごい音と衝撃が森中に響き渡った。

 

「痛ったいなぁ…俺じゃなかったら死んでたぞ」

 

 森の中、木々の間に少し窪みができており、その中から一人の男が出てくる。

 

「にしても、もう一回人生をやり直すって言うから、てっきり生まれ変わるかと思ってたけどそのまんまなんだな」


 体も、傷は無いが元の俺の体だ。じゃないと高度三千以上から落ちて痛いですむはずがない。


「でも、どうせ体を治すんなら服も直してほしかったな。あの時のまんまじゃないか…」


 着ているものは上下黒色の軍服だ。上着は右腕の袖が無く、中に着ているシャツには胸のあたりに大きな穴が開いている。ズボンも所々擦り切れたり破れたりしており、とてもみすぼらしい。


 ふと思い出し、腰にあるポーチを探る。

 ポーチの中から三本のナイフを取り出した。ナイフは刃渡り二十センチほどで、どれも肉厚で頑丈そうな作りだ。それぞれの柄には線が描かれており、赤・青・紫色だ。 

 

「持ち物はそのまんまか…ライターはあるが煙草は無しか」


 胸ポケットに入っていたのはライターだけで、煙草は無い。 

 あのメーカーのは好きだったから少し


「さてと…何をするにも情報が少ない、とりあえずえず誰でもいいから人を探すか。」


 手の甲を見ると、太陽と月の痣がしっかりと残っている。

 善行をして罪を償えば願いをかなえる。善行ってのは、要は人助けだろう。ならなるべく人の多いところを拠点にしたほうが良いな。

 まぁ、それもまずは人を探して聞くのが早いな。


「てか、この森に人居るのかが問題かな…」


 生い茂る木々の間から、日の光が差し込む。

 日はまだ高く、夕暮れまでは時間がありそうだ。今のうちに誰かと会えればいいのだが。最低限水と食料は確保したい。

 

「やっぱり早めに森を抜けたほうが良いか…見通しも効かないし、妙に静かすぎて嫌な予感がする」


 恐らく一時間は歩いてきたが、動物の気配どころか虫などの声も聞こえない。俺の草を踏みしめる足音だけが聞こえるほどの静かさだ。


 歩き続けたからか、少し小腹が空いた。ポケットを探るが特に何かを持っていた記憶もないし、ポケットの中は何もない。

 歩きながらも、地面や木を見渡して食べられそうなものがないか探す。


「お、あれは林檎か?」


 歩いていると、少し背の低い木に小ぶりな赤い木の実が数個生っている。

 軽く木に登り一個捥ぎ取って服の袖で軽くふいてから齧り付く。


「…林檎だな、うん。少し酸っぱいけど」


 味はまんま林檎だった。少し酸味が強い気がしたが、そこまで気にならない。

 すぐに一個食べ終わると、もう一つ食べながら太い木の枝に腰を下ろす。


「シャリ…っんぐ」


 食料は一応大丈夫そうだな。

 不思議なことにこの森には生き物の気配がない。まぁ、いきなり猛獣とかに襲われる危険がないから良いには良いんだが、少し気になるな。

 

「まぁ、異世界なんだし俺のいた世界の基準が全てじゃないか。さて、腹も膨れたし行けるところまで行くか」


 木から降りて上着のポケットに林檎を詰めて、適当に歩き出す。

 


「さてと…気のせいだと思うが、なんだか迷った気がする」


 周りは日の光を遮るほど気が密集しており、かなり暗い。

 背筋がぞくっとするような、うすら寒さも感じる。

 思うんだが、これって出口に向かっているんじゃなくて奥に行ってないか?


 そんな心配をしていると、いきなりドーンと大きな音が聞こえた。     

 

「!?…なんだこの音は、何か居るのか?」


 どうやら音は右手の方から聞こえてきた。

 うわ~、なんかやばい雰囲気がするんだけど…手がかりが何もない今、少なくても何かしらの生物がいる可能性が高い。

 人間だったらラッキー、猛獣だったらアンラッキーって事で行ってみるか。

 音の方した方に向かって走る。



「もぉ!なんで私ばっかりこんな目に合うのよ!」


 暗い森の中を黒いマントを着た人影が走っており、声の質からしてどうやら若い女性のようだ。

 その女性の後ろからは地面が揺れるほどの大きな足音を響かせて、二つの真っ赤な光が迫ってくる。


「…一か八かやってみるか」


 女性が腰のポーチから身長ほどの長さの木の杖を取り出し、後ろを振り向いて杖を掲げながら何かを唱える。


「原初の炎よ、我が前に立ち塞がる敵を、その炎で燃やし尽くせ! フレイム・ランス!」


 掲げられた杖の先に赤い複雑な魔方陣が展開し、その魔方陣から真っ赤な炎の塊が生まれる。その炎の塊が形を変えて鋭い槍の形になりすごい速さで飛んでいく。

 その炎の槍の先には女性を追っていた二つの真っ赤な光があった。


 轟音と火の粉をまき散らしながら飛んでいく槍。

 槍が二つの赤い光に当たる。すると、炎の槍が一瞬大きくなると、爆音が響き槍が爆発する。


 爆風と熱風が周りの木々を揺らし、木の表面を焦がす。    

 しばらく爆発の煙が周りを漂っていたが、不意に煙が動いた。


 漂っていた煙は女性の方から赤い光があった前方に向かって、不自然なほどに吹いていた。そう、まるで何かに吸い込まれるように。

 

 数秒すると風の勢いが止まり、立ち込めていた煙はすっかり無くなっていた。そして、前方に赤い二つの光…真っ赤に光る二つの目が女性をジッと睨んでいる。

 

「まずいわね…怒ってるのかなぁ~」


 無数の牙が生えている多くな口が開かれ、その口のから灰色の渦巻く球体が物凄い速さで吐き出される。 


「!?…我が身に降りかかる邪悪を弾き、我が身を守れ! ジールド!」


 女性の目の前に白い魔方陣が展開し、その魔方陣が女性を完全に隠すほど大きくなる。

 その直後、灰色の球体が展開された魔方陣に思いっきりぶつり、バリバリと軋む音を立てる。


「くっ…お、重い!」


 球体の回転は徐々に緩やかになり、球体の大きさもだんだんと小さくなっていく。しかし、魔方陣には小さなヒビがどんどんと広がっていく。

 バリンと、何かが割れる音がして女性の展開していた魔方陣は粉々に砕けた。

 球体は元の大きさの三分の一ほどの大きさにまでなったが、魔方陣を破り女性に向かって飛んでいく。


「やば!」


 女性は避ける間もなく、胸の前で掲げていた杖に球体が当たり弾けた。


「キャアァーーー」


 女性の悲鳴が森に木霊する。

 球体は弾け女性を弾き飛ばしながら、無数の風の刃が周りに飛ぶ。風の刃は地面を削り、木の幹を削り、木の葉が舞い散る。

 

 女性は球体が弾けた勢いで後方に飛ばされ、大きな木の幹に背中をしたたかに打ち付ける。

 女性は風の刃で体のあっちこっちに切り傷を負い、着ていたマントは無残にもズタズタに引き裂かれていた。


 真っ赤な瞳に大きな口、銀色の魚のような鱗を全身に纏い、四本の足で歩き長く太い尻尾のがあり、風を操る魔物『ウインド・リザード』


 目がかすんで、今にも気を失いそうになる。

 こんな所で、死にたくない。


 しかし、無情にもウインド・リザードはゆっくりと女性に近づいていく。

 その目は獲物を目の前にして爛々と輝き、口からは生臭い唾液こぼれている。

 

 ただで食われてたまるかと、体を起こそうとするが少しでも体を動かそうとすると全身が痺れ、痛みが全身を駆け抜ける。


 目の前まで迫ったウインド・リザードは、大きな口を開けて私を食べようと首を伸ばす。


 あぁ、もうだめだ…ここで終わりなんだ、そう思い目を瞑る。

 ごめんね…あたし、約束守れそうにないよ。



 だが、少ししてもあの大きな口に噛み砕かれる痛みはやってこない。

 恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景があった。


「まったく…普通猛獣って言ったら虎とかライオンとかだろ。こんなバカでかいトカゲとかアリかよ」


 そう悪態をつきながらも、両手で大きく開かれた口を掴んでじりじりとウインド・リザードを押し返す人影があったのだ。


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