罪人と神
新しいものです。一応五話ぐらいまでは考えてますけどあまり読者がいないようなら切っちゃうかもです。
硝煙と生臭い匂いが漂う広い荒野は地面が赤黒く変色し、動かない人のような何かが地面を埋め尽くしていた。
その地獄のような世界の中で、ただ一つ立ち尽くす影があった。
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「貴殿の功績を認め帝国軍大佐に昇格、ならびに帝国内での特別権限の使用を許可する」
広い機械的で質素な部屋にはざっと千は超えるほどの軍服を着た人が整列しており、前方の壇上を見つめていた。
壇上には胸元に勲章をつけ、一際豪華な作りの軍服を着た初老の男性とその前には若い小柄な男性が姿勢よく立っている。
壇上の脇から出てきた女性から勲章を受け取ると、初老の男性が一歩前に出て若い男性の胸元に勲章を付ける。
若い男性が壇上の上で振り返り礼をして静かに壇上を降りる。
ちらりと見えたその顔は表情がなく、瞳は光がなくとても悲しい感じがした。
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日が沈み、あたりが薄暗くなる中、街の中心にある一際大きな建物から煌々と光が漏れている。
よく見るとその建物から漏れる光は炎で、黒煙も立ち上っている。建物の周りに居る人は悲鳴をあげながら逃げ惑っている。
その建物から一人の男が出てくる。男は白い髪に真っ赤な目をしており、背は低く顔立ちも目や髪を除けば何処にでも居そうな平凡な顔立ちだ。
男の歩いた後の地面には赤黒い液体が点々と続いていたが、騒ぎの中で男に注目する人は居なかった。
男はそのまま誰にも気づかれることなく、真っ暗な裏道へと消えていった。
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街の騒ぎが遠くに聞こえる小高い丘に続く細い道に、点々と赤黒いシミが続いている。
その丘には大きな石碑が堂々と立っていた。
その石碑には細かく人の名前が彫られており、その石碑の前には多くの花が供えられている。その石碑に男が背中を付けて力なく座っている。
「はぁ…結局俺一人になったか」
消え入りそうな声で呟き、ボロボロの軍服の胸ポケットを探る。その時手に当たる固い感触があり、見ると勲章が赤黒く汚れながらもその存在を主張していた。
男は一瞬眉を顰め、乱暴に勲章を取り適当に投げ捨て、再度ポケットを探りくしゃくしゃになった煙草と中央に窪みがある銀製のライターを取り出し煙草を吸う。
「結局俺は都合のいい駒だった…」
そう言いながら後ろの石碑の一番隅にある名前を指でなぞる。
「まぁ、やる事はやったし…でも、最後にお前の顔が…見たかったな」
咥えていた煙草が静かに口からこぼれる。
男の顔はどこか穏やかで、笑っているようにも見えた。
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目が覚めると、そこは真っ白な空間だった。
あれ?地獄ってもっと暗い感じだと思ったんだがな、まさか天国でもあるまいし。
「そうだね、天国ではないよ。ここは僕の作った空間だよ」
急に後ろから声をかけられ、振り向くと一人の子供が立っていた。声をかけられるまでそこに人がいる気配なんてなかったはずだ。
「まぁ、無理も無いんじゃない?だって僕、神様なんだし」
神様って……あぁ、俺死んだのか。
「そ、死んじゃったんだよね」
まぁ、あれで生きていられるほど俺も人間離れしてなかったって事か。
「いや、普通に人間離れしてたと思うけど…まぁいいや。早速だけど、君の事について話そうか」
自称神がどこからともなく厚めの本を取り出した。
「えぇ~っと…なるほどなるほど、ほうほう。え、ホントに!はぁ~すっごいね」
何やら本をパラパラとめくりながら一人で呟いている。
しばらく一人であーだこーだ言っていたが、パタンと本を閉じる。するとその本はでてきた時と同じく何処かえ消えてしまう。
「えっとね。君なんだけど、面倒くさ…ややこしい事になってるね」
神様…面倒くさがんないでほしいんだけどな。
「はぁ、しょうがないなぁ。えっとね、簡単に説明するけよ。普通生物は死ぬと、君らの感覚で言う“天国”と“地獄”に分けられるんだ。その判断基準は生前の善行と悪行で分けるんだけど。君の場合ややこしいんだよね。簡単に言うと善行と悪行が同じぐらいで分けようがないって事」
…つまり、良い事と同じぐらい悪い事もやってるから、天国にも地獄にも送れないって事か。
「そうそう、そこで良い事を思いついたんだよね~」
俺の経験上良い事って言われて本当に良い事だったことは二割も無いんだけど。
「君、もう一回人生やり直す気ある?」
もう一回人生をやり直す?…また俺にあんな生き方をしろっていうのか?お前は神様じゃなくて悪魔なんじゃないのか?
「まぁまぁ、話は最後まで聞きなって。早いと女の子に嫌われるよ?」
神様にそんな事心配されたくなんだがな……それで話の続きは?
「君の今までの人生はざっと分かった。そこで提案なんだけど、君の居た世界とは別の世界で生きてみる気はない無いかい?」
別の世界…異世界ってやつか?それはかなりファンタジーだな。
それで、どんな世界に行かせる気なんだ?
「君の居た世界みたいに科学技術は進歩していない、その代わりに魔法がある。まさに剣と魔法のファンタジー世界だよ」
それで、俺に何をさせたいんだ?まさか親切にも自由に人生を謳歌してくれ、なんて言わないよな?
「いやいや、そのまさかだよ。自由にしてもらって構わない」
本気で言ってるのか?
「もちろんだよ。君にとっても悪い話じゃないと思うよ。その世界では君を知る者はいない、自由に生きる事が出来るんだ。元の世界のように、誰かに使われる駒ではなく…」
自分のために生きる…誰かに命令される事も無く自分の意志で自由に。
「それに…一つおまけをしてあげるよ。手の甲を見てごらん」
言われるままに手の甲を見ると、不思議な形の痣があった。
太陽と三日月が隣り合ったようなもので、擦っても消えない。
「その印は君の罪で、善行を行うことで罪が浄化されていく。その印が完全に消えるとき君の罪は償われた事になり、なんでも一つだけ願いをかなえてあげるよ」
何でも…本当に何でも叶えてくれるのか?
何でもっていうのなら………はできるのか?
「もちろん可能だよ。でもそれは君のがんばり次第だよ」
分かった…良いだろう。善行だろうが何だろうがやってやるよ。
「うんうん、やる気になってもらってうれしいよ。んじゃ、早速行ってもらおうかな」
へっ?ちょっと待った。何か助言的な物とか、今から行く世界の詳しい説明とか無いのか!?
「うん、面倒くさいから却下で!」
おい、却下すんなよ!
やばい、だんだん不安になってきた。
「んじゃ、がんばってね~」
そう言うと神様は俺に手を振りながら霧のように消えていった。
その後を追おうとするとふと不思議な浮遊感におそわれた。
下を見ると、ついさっきまで立っていたはずの白い床は無く、白い霧のような物に向かってかなりの速さで落ちていってる。
まさかとは思うけど…
だんだんと白い霧に近づいていき、かすかに湿り気を感じる。
ボフっと白い霧に突っ込むと、顔に水滴が付くのが分かった。あぁ、これってもしかしなくても…
ほんの少し霧の中を落ちるとまたもやボフっと霧から出る。顔の水滴を拭い目を開けると眼前には緑の木々と茶色い大地に青く大きな海が見えた。
「あのクソ神がぁ~~」
俺の虚しい叫び声が白い雲のある晴天の空に消えていくのだった。