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08 ついに喋る

父上が帰ってきてから、自分は父上のすばらしさを実感するばかりである。


父上は、まさに理想の父親であった。


まず、彼が帰ってきた時の町の人々の反応がすごかった。

我が家は比較的高い丘の上に家が建っている。

家の裏には兵士達が訓練できるような大きい庭があり、その後ろの森を壁が隔てているため丘の上にある家からは町の家々を望むことができる。

だが逆に家の近くには町の人々の住む家が少なくあるとしても、スクエイル家に直接仕えている者の家や兵士の詰め所的なものぐらいで他はあまり見かけない。

そのためか、必然的に家の近くで町の人々を見かけることがめったにないのだ。


だが、父が帰ってきてからそれは変わった。

父上との初対面を済ませた後自分は、母上の腕に抱かれて父上と一緒に家の外に出ようとしたときのことであった。

いつもより外が騒がしいなとは思っていたのだが、家の外に出るとなんと人がたくさんいたのだ。

あの時は、本当にびっくりした。

老若男女様々な人達がいつもは誰もいない場所にその時はざっとみて200人ぐらいはいたんじゃないだろうか。

そのだれもが父上の名を呼び父上を賞賛したり、父上に感謝の意を伝えに来たのだ。

どういう状況下なのかすぐには理解できなかったが、母上は非常に誇らしげな表情をし、一緒に外に出たメイドたちもまるでこれが通常運行かのように一切の動揺無く毅然としていた。


初めは、某社会主義国家のようにこの土地の領主である父上の帰還を喜ばなければ処罰され殺されるから、嫌々あんなことをしているのかと勘繰ったりもしたがそんなことはすぐに誤解だと分かった。

なぜなら、父上に会いにきた全ての人々がニコニコでそのような暗い印象をまったくといっていいほど受けず、心から父上に感謝し会えた事を喜んでいる事が覗えたからだ。



その後、周りはお祭り騒ぎに発展したのにも驚いたが、そこで父上が新幹線並みのスピードで森の方へ走って行き一足跳びで5メートル以上あると思われる塀というか壁を飛び越えていった。

そして、すぐに帰ってきたと思ったらなんと成人女性の高さのほどもあるピクピクしている黒い猪?を担いで持ってきた。


だれかが、「ブラックボーアだ!」とか叫んでいたからすごいのだろうが、自分としては父上がそこで解体ショーを始めたのには驚いた。

だって、めちゃくちゃでかい猪を空中に投げて一瞬のうちにバラバラにしていたのだから。

ついでに剣線や太刀筋的なものはまったく見えなかった。

父上が猪の右足を掴んだかと思うと猪の体はいつの間にか空中に跳んでおり、猪はまるで父上の目の前の地面に向かって自らの血液を自立的に吐くかのようにしていた。

そのため、血はその一点にのみ集まりある種の血だまりを形成していた。

その光景は、すばらしく甘美でありなおかつ激情に溢れており、周りの人がより熱狂的になるのに時間はかからなかった。

そして、猪の空中演舞が終わった後地面に落ちた猪から皮は剥がれ落ちており皮は父上の手の中にあった。

この時点で(自分の父親かっこいいかも…)とか思っていた。



その次の朝、家の裏で父上と一緒に帰ってきた初めて見る兵達(どうやら父上のお供として王都に行っていた兵士らしく、荷物などもあり父上より若干遅く帰ってきたようだ)とこの土地の兵士達が混ぜごちゃになって訓練している中に一際異彩を放つ存在があった。

それは父上だ。

太っているから存在感があったとかそんな次元じゃなかった。

殺気や闘気なんてものは、前世でたいして武術をやっていなかった自分には分からない。

だが、父上が今発しているものはそれに似た何かだろうということは容易に理解できた。


しばらく見てると、父上対多数の兵士で模擬戦をし始めた。

父上は、始まるとすぐに消えた。

他の兵士たちも速いが父上のは、もはや速いことを認識できないほどであった。

突如として接近してきた兵士の横にいた父上によってその兵は腹へ蹴りをいれ他の兵士の方向にぶっとばされ、その隙にこれまた他の兵士が父上に木剣で切りかかろうとすると剣もろとも上に吹き飛ばしていたりした。

そして、いつの間にか父上以外の全員がダウンしていた…。

父上は強く、そしてかっこよかった。


その父上の雄姿に真のイケメンを見た。

イケテル(メン)なのではなくイケテル(メン)……父上はそういう真のイケメンであった。

自分も、こんな風になりたい。そう思うことはある種当然であり必然であった。

逆に彼の様子を見て真のイケメンの姿をみない者はよっぽど見る目が無い者か唯の愚か者であろう。




もともと、異世界転生したのだから小さいころから勉強や武道を極めて「オレTueeeeee!」する気ではあったが父上のこの姿を見て予定を早めることにした。

本来は一歳ぐらいから徐々に天才(チート)っぷりを発揮していく予定だったが今日から実行する事に決めた。

最近首も据わってきたので隠れてはいはいの練習をしていたのだがもう隠さない。

ある程度流暢に喋るし、成長の妨げにならない程度に運動することにしよう。



とりあえず、両親に初めて話す言葉を考えなくてはいけないな。

「またそういうのかよー」とか言うなよ。

赤ちゃんに関わったことのない人は分からないと思うけど、赤ちゃんの初めて話す言葉というのは両親にとって非常に大切な物なのだ。

初めの言葉が「パパ」か「ママ」かのどちらかで分かれた場合などはその後の家族内権力へ抗争に驚くほどのダメージを与えることもある。


一例を挙げると、ある赤ちゃんの初めて発した言葉が「ママ」であったそうな。

その時点で父親はちょっと負けた気になっていたが父親は「パパ」と呼ばれるのを根気強く待ち続けたそうな。

しかし、待てど待てどもいっこうに「パパ」と呼んでくれない。

そして、ようやく「パパ」と呼んだと思ったらそれは赤ちゃんが始めて言葉を発してから三週間後のことであったそうだ。

それ以前はその旦那は亭主関白的な人だったそうだがそれ以来立場が逆転し奥さんの尻に敷かれるようになってしまったらしい。


ついでに前世の自分の弟が始めて発した言葉はもちろん「にぃに~」だったぜ。

そこらへん抜かりはなかったぜ、だからもし現世で自分に弟や妹ができたらそのへん手抜かり無くやるつもりでもある。

お前また刺されるぞって?そんな事をいちいち心配していてもしょうがない。

未来の弟や妹の存在と自分の生死を天秤にかけたらどうあがいても弟や妹に傾くからな。


話が反れたな。

というわけで、両親を呼ぶのはやめておきたいがなるべくなら両親共を喜ばせたい。

う~ん、難しいな。

「もう成り行きでよくね?」なんて一瞬思っちゃったりしたけど、父上のような真のイケメンを目指すならこういう小さな事でもおざなりにしてはいけないのだと思う。

だが、父上も母上もいる状況でなくてはいけないから、結局成り行きっぽくなってしまうのはしかたないかな…。

でもなるべく早く言葉を発したいな。




その日の夕食後、といっても自分は母上のおっぱいを吸うだけだが…最近おっぱいの味に飽きてきた。

贅沢な悩みだな。

でも、生まれた当初はめちゃくちゃおいしくてこんなものがこの世に存在していいのか、とか思っていたけど今ではあまりおいしく感じられなくなってきたのも事実なんだ。

たぶん今までのは、『風邪の時はお粥がおいしい現象』と同じなのだと思う。

だからそろそろ離乳食の時期なのだろう…実に楽しみだ。


それより夕食後父上が「建国紀‐魔王に育てられし勇者‐」という本を持ってきて読み聞かせをしてくれたのだ。

それはこの世界の勇者の冒険譚であり、どうやら実話のようだ。

王家である「ベルクハイマー家」はこの時の勇者が始まりなのだそうだ。

内容については今度機会があったら語ろう。

それより、やっぱりイケボの朗読はいいよ。

ついつい頭がとろけてきそうで、もうマジ耳が孕みそうだった。

父上は自分を眠りに(いざな)う為に子守唄代わりに読み聞かせを行ったのだろう。

まさか本の読み聞かせでむしろ興奮状態に陥った自分を見て少し困った顔をしていた。


母上も途中から参加して父上の読み聞かせを母上の膝の上で聞くことになった。

読み聞かせが終わった時に母上の顔を見ると父上のイケボにだいぶやられていたようだった。

というか、母上は父上のことしか目に入っていなかったようだが…。

ちょうど、父上も母上もいることだし二人を喜ばすために日ごろの感謝をこめて「ありがとう」でも言うとしよう、でも恥ずかしいな…。


その時だった。父上が突然立ち上がり

「本を戻してくる」

と言った。

自分はそこで軽いパニックになってしまい本来言おうと思っていたことと別の事を言ってしまった。

「ほ、ほん」

まさか気が動転して本とか言ってしまったが、父上も別のベクトルで自分と同じ心情だったようだ。

父上は身体を急速反転し自分が言葉を発したことに驚いたのか、本を地面に落としこちらに駆け寄ってきた。

「ディース、喋れるのか?!おいマーテル、今ディースが喋ったのか」

「えぇ、あなた、ディースが喋りました」

「おぉ、すごいぞー、ディースが喋った」

「はい、前々から賢そうな子だとは思っていましたけどこんなに喋るのが早いなんて、きっとあなたに似たんでしょうね」

「いやいや、こんなかわいい子だ。俺よりお前に似ているに決まっているだろ」

「では、二人の良い所が似たという事ですね。」

「ははは、なんていったってお前と俺の『あ・い』の結晶だからな」

「ふふふ」「ははは」


ラブラブですね…。

普通こういう時、「次『パパ、ママー』って呼んでみて」的な状況になると思ったのだがこの二人は桃色空間を作りやがった。

何だよそれ。

この調子じゃパパでもママでも対して関係なかったかもな。

っていうか、早く本持って来いよ。

泣くぞ、オラッ!リア充爆発しろ!



その後この桃色ラブラブキャッキャウフフワールドは自分が眠りにつくまで続いた。






次の日の朝、地に落ちた本は昨日と同じ場所に放置されたままだった。





「建国紀‐魔王に育てられし勇者‐」についてはいずれ閑話や幕間として投稿するかもしれませんが他にも似たような本がどんどん出てくるのでそれをいちいち上げてたらキリがないのであらすじを下に…。




魔王は魔王であった。

生まれたのが何時なのか、なぜ自分がここにいるのかそれを魔王本人も知らないことだった。

魔王の役割は二つ。

有力な魔族を魔人に認定することと、魔王であることである。

しかし、魔王は暇だった。

そもそも魔人にするのは滅多にないし、あるとしたらたまに来る魔王を討伐しに来た奴等の相手をするぐらいだ。

最近は、挑んでくるやつも弱くなりその日常も飽いてきた。

この日常をおもしろくするために魔王は考えある作戦を思いつく。

「強者を我が手で作り出せばいい」

そして、魔王に見初められた一人の人間の孤児である赤子。

この物語はそんな魔王に育てられし、後の勇者が王国を作るまでの話である。

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