01 事の発端 ‐まだ○○を捨ててない‐
初投稿になります。
拙い文章ですが楽しく読んでいただけると幸いです。
「たっだいまー」
「お帰り、兄さん。今日はえらくご機嫌だね。大学で何かいいことでもあったの?」
「良く分かったな。実はなついに自分にも彼女ができたんだよ」
「っ!」
「いや~、これでようやく童貞という不名誉な称号を捨てる事ができると思うと感慨深いものがあるな。なぜかもう少しで童貞とおさらばできると考えると逆に童貞に感謝したくなってくるな。ありがとう童貞そして、さらば童貞。なんてな」
「………」
「ん?どうした、大丈夫か秋斗」
突然黙り混んだ弟に自分は思いの外動揺していたのだろう。弟の右手に握られた包丁に自分は気づくことができなかった。
否、気づいていても気にも止めなかっただろう。
それは、弟がつくる夕飯を意味する物であり、ある種の自分にとっての日常であったからである。
そのため、自分は不用意にも弟に近づいていった。
弟が今何を考え何をしようとしているのかに気付く事なく。
「グハッ」
自分の心臓にはいつの間にか一本の刃物が刺さっていた。
その時の自分は、状況を理解することがまったくできなかった。
唯、胸に突き刺さったそれが確実に自分の生命力を奪い自らをすぐにでも死に至らしめることは察することができた。
意識は朦朧とし徐々に世界から消えていく感じがした。
自分は最後の力を振り絞って弟の方をみた。
弟の秋人は酷く辛く悲しそうな眼でこちらをみて言った。
「兄さんが悪いんだよ、僕を裏切るから」
そうして自分の意識はそこで途切れた。
再び意識が戻ったのはいつだっただろう。
そこはとても心地が良く、しいて言うのなら海に浮かんでいる感じのするような場所だった。
そこには何もないが全てがあるような気もしてくる。
どれくらいいただろうか。
ついさっき来たような気がするし、数えるのすら億劫になるほど長い年月ここで過ごして来たような気もする。
だんだんと、現世の記憶も薄れていくような気もした。
アレ、現世って何だっけ?
それを考え出したとき、自分は弟に殺されたことを思いだし、事の重要性を感じた。
(死んだってヤバくね…)
正直にいって弟に殺されたことなどはどうでもよかった。
自慢の愛すべき弟がやったことだ。
その彼がやったことに間違いはないだろうし、自分には分からないがおそらくそこには深い理由があったのだろう。
仮に、事の原因を考えるとするとおそらく自分が一番悪いのだろうと思う。
だが、自分には現世でやり忘れたことがあった。
(まだ童貞捨ててない…)
これは由々しき事態だ。
童貞捨てずして簡単に死ねようか、否死ねない。
まぁ、死んだんですけど…。
自分は熟考した。
その結果1つの結論に達した。
(転生に賭けるしかない)
自分でもこの結論はどうかとは思うけども、それ以外に方法はないと思う。
たぶん今の自分は、俗に言う『魂』という物になっているのだとおもう。
ならば、どこかの世界に転生する事ができるのではないだろうか。
うまくいけば前世の記憶を保持したまま生まれ変わることも可能だろう。
そしたら、前世の記憶を使って来世で俗に言う『転生チート』ができるのではなかろうか。
それで、内政チートやリアルで『俺tueee』をして最高な人生を送ってやる。
まぁ、一番大切なのは脱童貞をすることだけどな。
そのためにも是非とも転生を目指さなければいけないな。
では、さっそく願おうか。
何故願うのかって?
昔の偉い人は言ったじゃないですか。
『想いは時空を越える』って。
じゃ、さっそく願いましょうか。
いろいろ願った。
剣と魔法の世界に貴族として転生したいだとか、両親ともが強く母は美人で父は周りから尊敬される人がいいだとかいろいろ願っていました。
そんなある日、何もなかった回りの世界が光を持ち音を放ち始めたような気がした。
うまく動かせないが、先ほどまでと違い肉体を持ち始めたような感じがする
(まさか本当に転生してたというのか!)
否、落ち着け自分。
とりあえず転生したという前提で考えてみよう。
まぁ、仮に転生していなくても、いろいろと考えておいて損はないだろう。
うーん。
特にすることはないな。
ただ、転生したとしたらおそらく今は母体の中だ。
それならいつ生まれてもいいように準備しておかないといけないな。
逆子とかへその緒が首に巻き付くとか赤ん坊に負担がかかるということ以上に母体へのダメージも大きいらしいからな。
今から自分を生んでくれる恩人ともいうべき人に負担を強いるのは、忍びないからな。
後、生まれた瞬間にしなければいけないことが自分にはあるからな。
そのための心構えをしておこう。
準備はそれぐらいだな。
どうやら自分はそろそろ生まれるらしい。
転生するという前提の話の元だがなんとなく今自分がいる場所が自分と離れようとしているらしいからなんとなく、もうすぐ生まれるんだと思う。
これで違ったら、お笑いだな、などと考えていたら今まで自身を覆っていた何かが急速に無くなっていくように感じた。
やはり、もう生まれるようだ。
少し緊張する。
だってそれは自己の復活であり、文字通り新しい人生の始まりなのだから。
そして私は外に出た。
生まれてすぐ呼吸をするのも忘れ力の入らない右手の人差し指を頑張って上にあげようとして、かねてから言おうと思っていた事を口にした。
「でぁーだ、ンダーでぁアぁアデァーダあー(天上天下・唯我独尊)」
ピロリロリ~ン
自分のやってしまったミスに恥ずかしさのあまり泣き出してしまった。
そのため自分はこの時鳴った音に気づくことなく泣き疲れ、眠ってしまった。
若干、アレな主人公ですがよろしくお願いします