別れ
それからの展開はあっさりとしたものだった。
機械を破壊し、アスタを担いでみんなと合流、そして家に帰った。それだけ。
しかし、アスタの死は重く、その場の全員の心にのしかかる。
「……なぁ」
「……なんですか?」
「アスタ、僕たちのこと好きだってよ。お前は妹みたいだって」
「……ばかなんですから」
「前に進めって。前進し続けろって。あいつはそう言ってた」
「前に進め、ですか。月並みなことしか言えないなんて、やっぱりばかです」
「まったくだ」
二人で苦笑する。
「何故、何故あなた方は笑っていられるのですか?」
城山が僕たちに問いを投げかける。
「いや、な。もう泣き尽くしたし、なにより、ずっと泣いてばかりじゃあいつに悪い。あいつが好きだった僕達は泣いてる僕達じゃない。笑ってて、あいつが馬鹿やって僕が突っ込んで、そんなのが好きだったはずだ」
「……そうだよね、やっぱ」
メアがぽつり、と呟いた。
「佐倉さん、他に何か言っていましたか?」
「ツヴァイ……がどうのこうのって」
「ふむ。その前後のバルガスさんの様子は?」
「様子、か。なんつーか、エルヴレインがいつもと違ってた。カラミティでもなかった。エルグランディア?だっけか。そう呼んでた」
「なるほど。合点がいきました。多分、バルガスさんはツヴァイに到達したのでしょう」
「アスタさんが⁉︎」
「はい。これでわかりましたよ。現存するツヴァイ到達者がいない理由が。多分、ツヴァイに到達した人は、死にます。元々人の身に人ならざる力を植え付けていたんです。それを爆発的に強化なんてすれば……後はわかりますよね」
顎に手を当て、うつむく。
よく考えればわかりそうなものだろうに。
エルヴレインの強化形態であるエルカラミティを使えば、体力をほぼ吸い取られてあんな状態になっていたのだ。
それを完成なんてさせてしまえば……。
「佐倉さん、悪いことは言いません。ツヴァイを目指すのは諦めてください」
「……だよな。アスタの死を無駄にしちゃ駄目だ」
はぁ、と大きな息を吐き、立ち上がる。
「さて、あいつを埋めてやろう。こんなままじゃ嫌だろうしな」
「はい。そうですね」
「……ちょっと待って」
メアが僕たちを制止する。
「なんだ?」
「廻天術師……廻天術師を忘れてる」
「……メア、無理だ」
「どうしてっ!」
「僕はそいつの居場所がわからない。見つけるまであいつを放置してたら当然、身は腐る。そんな姿で蘇ってもあいつが悲しいだけだ。ま、近いうちに見つかったらどうにかしてやろうとは思ってるけどな」
僕はメアに笑いかける。
心の中の思惑が誰にも悟られないように、笑顔を絶やさない。
「もう夜も遅い。寝るぞ」
強引に話を切り、全員を寝床へと向かわせる。
渋々ながらも全員言うことをきいてくれ、さっさと寝床についてくれた。
それだけ疲れが溜まっていたということでもあるが。
しばらく時間が経つのを待つ。
全員が寝静まったのを確認すると、行動を開始する。
「さて、と……」
音を立てないように玄関から外へと出る。
少し名残惜しいものの、今の僕にここにとどまっている余裕はない。
「じゃあな」
誰に言うでもなく別れを告げると、行き先を決めるでもなく歩き始めた。
翌朝目覚めてみると、楓さんの姿はどこにもなく、ただ一枚の置き手紙。
『旅に出る。探したければ探せ』
と言う短い文章が。
アスタさんの墓を掘り返した形跡もあり、メアさんの私物である棺桶もなくなっていた。
「楓さん……」
私はそう呟くと、みんなに楓さんのことを伝える覚悟を決めた。




