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消耗戦

 一進一退の攻防が続く。とは言っても、僕は不利で、軍配はあちらにあがる。

 相手は曲がりなりにも喧嘩殺法を得意とする盗賊だ。それに比べて僕はど素人。この世界に来てから今までのとても短い期間しか戦ったことのない僕に奴が倒せるだろうか。

 ……いや、倒せるかどうかの問題ではない。殺すんだ。

 前に会った時はあまりに一瞬のことだったので呆けてしまったが、今回こそは。必ず。

 あ、前と言えば。

 攻撃を弾いて距離を取り、質問をする。

「なぁ、お前はあんなでっかいロボットどうやって操ってたんだよ」

「また質問かよ。てめぇはそんなに俺と話がしてぇのか?」

「勘違いしてんじゃねーぞ。僕は色々とあった不自然なことを聞きたいだけで、お前と会話らしい会話なんかするつもりはねーよ。聞き出せたら即斬殺だ」

「はっはぁ!なかなかいい度胸してるじゃねぇか。……何が聞きたい」

「さっき言っただろ」

「あー、そうだったな。ほら、てめぇらから奪ったぬいぐるみと眼帯あるだろ?あれ使ったんだよ。ぬいぐるみには金属を引っ付ける能力、眼帯の方には人形……人型の物を操る能力をなぁ」

 まさかこんなところであの二つの物の行方を聞くことになるとは……。メアには残念なことだろうが、あんな巨大な物を作って操ったならもう壊れてなくなってしまっているだろう。

 今度僕が事の顛末を話してやらないとな。

「もういいか?こっちはてめぇをぶち殺したくてウズウズしてんだ」

「ああ、こいよ。僕だってお前を殺したくて堪らないんだよ」

 ナイフを逆手に持ち直し、構えを取る。相手も大剣をしっかりと握って様子を伺う。

 その時、遠くで大きな叫び声が耳に入ってきた。具体的には、入り口のさらに奥から。

「……ちっ、鬼龍院の野郎、やられやがったか」

「ということは」

「もうすぐてめぇのお仲間がここに来るってこった。それまでにてめぇを殺して俺はおさらばさせてもらうぜ!」

「いいや違うな、僕がお前を殺してアスタの元へ颯爽と駆けつけるんだよバァァァァカ!」

 ラストスパートをかけるかのように全力で攻撃を始める。相手もそれに呼応して大剣を振り回し始める。

 顔に向けられて振られた大剣をナイフで受け止め、弾き返したときにできた隙を突いて大剣を切り裂く。

「チィッ!」

 舌を鳴らし、僕から距離を取る……かと見せかけ、剣を斬られた時に生じた勢いを利用し、僕の目の前でくるりと回る。

 にたり、と笑うと折れた剣で僕の左腕を斬り飛ばす。

「ぐあっ……!」

 しかし、痛がっている場合ではない。早く殺さねば。

 膝をつき、地面に手をつこうとするがつく腕がないことを思い出す。

「オラッ、死ねぇ!」

 柄を逆手に持って両手で握り、僕の頭に突き立てようとする。

「簡単にいくかよ!」

 靴底で剣を受け止める。そして手を蹴り、剣を手放させることに成功。

 すぐに立ち上がり、数発の蹴りを腹部に浴びせ、多少のダメージを与えることが出来た。

 痛みにレイマルが蹌踉めく。すぐに顎に一撃を喰らわせ、脳震盪を惹き起こさせる。一度出来た隙を見逃す僕ではない。

 低くなった頭部に必殺のかかと落とし。レイマルを地面に叩きつける。

 倒れたレイマルの頭部にナイフを突き立てる。が、頭を逸らされて地面に突き刺さる。

 ナイフはしばらく抜けそうにない。仕方なくナイフを手放す。

 その瞬間、跳ね起きながらレイマルが僕の顎に蹴りをクリーンヒットさせた。

「ぐ……っ!」

 痛みで倒れてしまいそうになる。でも、ここで倒れるわけにはいかない。なんとか死にかけている足を動かしてレイマルから離れる。

 傷口が焼けるような痛みに襲われて頭がくらくらとして、目の前がぼうっと霞む。

 血を流しすぎたか。

「はぁ……はぁ……」

 向こうも相当疲弊しているようだが、こちらも消耗が激しく、体が重い。足が動かない。

「いっっってぇなぁ。やってくれるじゃねえかよ。けど、お前もその様子じゃあもう限界みたいだなぁ。今すぐぶっ殺してぇ……ところだが、時間切れだ。次会うときは殺してやるよ」

 入り口にちらりと目をやり、他人足のつま先をとんとんと床にぶつける。

「ま、待て……」

「あぁ?まだなんかあんのかよ」

「お前、さっき死んだ手下の能力の武器だって言ったよな?まさか廻天術師にあったのか?」

「……答えねぇよ」

 その場から一瞬で消え失せ、先程まであれほどうるさかった室内に静寂が訪れる。

 ……こうしちゃいられない。

 すぐにアスタを助けに行かないと。

 吹き飛んだ腕を拾い、傷口に合わせて抑えながら次の部屋へと足を運ぶ。

「……あれ」

 足から力が抜け、その場に倒れこむ。

 駄目だ。早くアスタのところへ……。

 僕の意識はそこで途絶えた。



「てめぇが親玉か?」

 エルヴレインを身に纏い、ランスを構える。

 そこにはなにやら機械を操作している片眼鏡を装着したイギリス紳士風の姿が。

「おや、来てしまったのか」

 機械を操作する手を止め、俺へと近づいてくる。

「胡散くせぇ奴だ」

「くく、よく言われるよ。ところで、さっきの問いだが……。僕はこの組織のトップだ。名はエイランドという。ところで君は?」

「アスタ=バルガスだ。てめぇらの目的を崩しに来た」

「……くくくくく。君に僕を止めることができるとは思えないがねぇ」

 口に拳を当て、目を細めて笑う。

「何をする気かは知らんがとんでもないことしようってのはわかってんだ。本気でいかせてもらうぜ」




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